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第3話 映画デート・中編

(にしても……これはまずいですね)



 雑踏に紛れながら休日の駅前を歩く聖来は、人半分ほどの間を空けて隣を進む傑を横目で見て冷や汗を垂らす。



(会話はないし、目も合わせてくれない。これじゃあたまたま同じ行き先に向かう二人と変わらない。でもなんで……)



 障害と思われるクラスメイトは排除した。それでも聖来と並んで歩きたくない理由。おそらく、



(服装が好みじゃない……!)



 ドレスコードが必要なのは高級店だけではない。。学校では制服だし、家では気合い入れると気恥ずかしいのでラフなものにする。そしてチャラ目の友人と遊ぶ時は、浮かないような服装にするものである。



 聖来の今の服装は、対陽キャ用ファッション。身長が低いのを逆手にとり、メンズ物のデニムジャケットと黒いパンツというものである。



 舐められがちな印象を変えるためには有効だが、その代償として男ウケはあまりよくない。



(ましてや相手は清楚大好きロリコン生徒会長。メイクもネイルもばっちり決めたこの格好は確実に好みじゃない……!)



 この状況を変えるのに効果的なのは、相手に服を選ばせること。金銭的には打撃だが、今後も生徒会でやっていくことを考えると、私服を見せる機会も訪れるだろう。その時相手が選んだ服を着てきたことを男子に見せつければ、確実に意識させることができる。そう考えればむしろここで手を打っておくべき。しかし、



(だめだ。今の先輩が女子の服選びにやる気を出すわけがない……!)



 そもそも白シャツにチノパンという無難にも無難な服装をしている傑がファッションに興味があるとは思えない。ならどうするべきか……。



「じゃあ俺、ここに用事あるから」



 傑は小さな声でそれだけ告げると、返事も待たずに目の前の施設に入っていく。そこは、



「映画館……!?」



 休日に映画という選択肢は何も不思議ではないが、相手が傑だと話は変わる。以前雑談の中で、アニメもドラマも見ないと言っていた傑が、わざわざ金のかかる映画を観るという異常事態。考えられるのは洋画が好きという可能性だが、それも聖来から見た今までの傑像からかけ離れている。



「ちょっと意外です。せんぱいが映画観るなんて」



 ここで考えても仕方ない。聖来は駆け足で傑の隣に並び、ストレートに切り出すことにした。



「別に……普通だろ」



 返ってきた答えは、実に会話に繋げづらいもの。確かに普通だが、それを言ったらおしまいだ。だがそのつまらない返事の中にも、確かなヒントがあった。



(普通なら観たい映画があるとか答えるはず……。それをしないってことは、特に観たいものはないはず。だったら、)



「せんぱーいっ。わたしー、この映画観たいんですけどー、一人じゃ怖くてー」



 清々しいほどのぶりっ子をして聖来が指差したポスターは、ホラーもの。



(どうせ陰キャってこういうの好きなんでしょ。陰だし。ついでに「きゃー、こわーい」とかやってれば吊り橋効果的に先輩は……)

「じゃあ俺こっち観るから」

「はぁっ!?」



 あろうことか別々の映画を観ることを提案され、思わず素が飛び出てしまう聖来。しかもその内容は、



「先輩が恋愛映画っ!?」

「うるさ……」



 声が大きくなってしまうのも無理はない。陰キャが恋愛映画。しかも純愛ものではなく、とりあえず人気の若手俳優の顔出しのために作りました感のあるどうしようもない映画の類。



(いやそれはさすがに失礼か……。でも……これ絶対クソ映画だよ……。だって主演和音くんじゃん……)



 主演俳優、尾根和音。聖来の推しであり、大手男性アイドルグループのセンターを務めるイケメンアイドルである。なので悪く言いたくはないが、推しだからこそわかってしまう。



(あの大根が主演とかどうかしてる……!)



 聖来が尾根和音を推しているのは、顔が好みだからという理由でしかない。ファンの多くはその音痴っぷりや大根役者ぶりに母性本能をくすぐられているが、男にスペックを求めるタイプの聖来にとって、その欠点はただのマイナスポイントでしかない。



 なのでイメージを崩さないように彼が出る作品は一応チェックしておく程度に留めているが、デートで観るとなると話が変わってくる。



(そもそも初デートに映画っていうのがナンセンスなのに、クソ映画だったらその後が最悪……。ていうか……あれ? も、もしかして私……先輩とデートしてるっ!?)



 あまりの事態の深刻さに、勢いで流していた事実が浮かび上がってくる。だが今は傑とのデートという行為ではなく、内容の方が問題だ。



 映画デート。その手軽さから多くのカップルが多用するが、これは諸刃の剣である。



 デートなのに相手と話せない。しかもクソ映画だった場合、その後の雰囲気が最悪になるし、つまらないデートだったという記憶が刻まれてしまう。平然と酷評をし合える仲ならいいが、初デートではそれも難しい。



 よって戦いは次のステップへと移行する。



(なんとしても、この映画だけは避けないとっ!)

(今日の兎野は元気だな……)

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