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第1話 勝負のはじまり・前編

「おい、兎野」

「なんですか? 丹土先輩」


「今お前は何をしている?」

「はぁ。次の生徒会会議の資料作成ですけど」


「いいや。お前がしているのは動画の視聴だ」

「別にいいでしょ、スマホで動画見るくらい。ていうかお前って呼ばないでください」


「よくない。そもそもスマホの使用は校則で禁止されている」

「禁止されているのは不要な使用です。作業のお供にメイク動画見るくらい別にいいじゃないですか」


「それでできているのなら百歩譲って許すが、たかだか一枚の資料作成に何日かけてるんだ」

「しょうがないでしょ。生徒会入ってまだ二週間ですよ?」


「だったらなおさら集中するべきだ」

「動画見ても見なくてもたいして変わんないって言ってんですよ!」


「「ちぃっ!」」



 私立和治(かずじ)学園高等学校生徒会。そこは二週間前から戦場と化していた。



 2年生・丹土傑(にどすぐる)。生徒会長であり、陰キャ。



 1年生・兎野聖来(うのせいら)。生徒会書記であり、陽キャ。



 陰と陽。相反する彼と彼女が出会ったのは二週間前の入学式。新入生への挨拶のために校門に立っていた傑が、ローファーではなく厚底ブーツを履いてきた聖来を呼び止めたことから始まった。



「おいお前! その靴はなんだっ!?」

「お前って呼ばないでください」



 そこから「校則では靴の指定はない」、「学生らしい靴と書かれている」という話に続き、さらに舌戦は白熱する。



「だいたい髪色からふざけてるんだ! その茶色……」

「茶色じゃありませんベージュです! これも校則的には……」


「これも学生らしい、だ! ショートカットなのはいいとして……」

「ミディアム! ていうかあなたこそなんですかその野暮ったい髪型は。学生以前に男として最悪……」


「男の髪型なんてみんなだいたい一緒だろ」

「はーっ!? 見てくださいこの超イケメン俳優尾根和音(おねわおん)くんをっ!」


「はい、スマホ没収」

「まだ校門くぐってませんーっ! ばーかばーかっ!」



 靴論争から髪型論争へと続き、戦いは制服論争へと発展していく。



「ていうかネクタイもしてないし……ジャケットは?」

「4月って言ってももう暑いですよね」


「じゃあなんでパーカー着てるんだよ!」

「これ春用パーカーです。意外と薄手なんですよ」


「そうじゃなくてだな……。こればっかりは校則で制服を着るよう定められている。だいたい制服っていうのはな……」

「でもジャージで登校している方もいますよねー?」


「常識で考えろ。今日は入学式だ」

「でたでた常識厨。てか常識で考えるならジャージこそありえなくないですか? 鬼ダサですよ」


「だからそういう話じゃないんだって……。ていうかお前スカート短くしてるだろ」

「他の人だって短いじゃないですか!」


「限度ってもんがあるだろ! そんな短いと少し跳ねただけで……」

「えー? もしかしてあなたずっとそんなとこ見てたんですかー? やだー、きもいー」


「は? ミニスカートとニーソックスとかお前が男に見せたがってんだろ」

「あ? 男とか関係ありません私がかわいくなるためのコーデです。ていうかそれセクハラなんで。死ね」


「「ちぃっ!」」



 規律を重んじる真面目陰キャ傑と、自由に生きるチャラ陽キャ聖来の戦いは30分にも及び、入学式が始まるということで駆けつけた生徒会担当教員瀬呂潘奈によって勝敗が決められた。



 判定は引き分け。髪色は自由だが、式典の際はジャケット着用、スカートの長さを戻すよう指導され、厚底ブーツは禁止となった。



 具体的に表すなら、双方一勝一敗二分け。しかし当人たちの心中は全く別のところにあった。



(何を喚こうが結局はルールに従うしかないんだよクソビッチが。にしてもあんなに威勢のよかったこの女が一瞬でしおらしくなるなんてな……くくく、)

(校則校則言ってた割に靴以外全部実質オッケーとか無様すぎでしょ。にしてもあんなにうるさかったくそ真面目野郎が先生にやりすぎって注意されるなんて……くふふ、)



((ざまぁ))



 勝利の愉悦。相容れない存在が惨めな末路を迎えたという快楽だけが二人の脳内を支配していた。



 そこに規律も自由も正義も悪もない。あるのは生物の原始的本能。嫌いな奴が辛い目に遭ってうれしいというドス黒い感情のみ。



 そしてその快感の支配は続いていく。



「先生、この問題児は生徒会で預かります」

「はぁ? 上等ですよ。生徒会でもなんでも入ってあげます」



 一度だけでは物足りない。二度、三度と。あの脳汁が噴き出すような感覚を味わいたい。その想いが交わり、戦いの舞台は自然と整えられていく。



「くくく……」

「くふふ……」



 無論二人も誰にでもこうというわけではない。傑は何度も不良を取り締まっているし、聖来も嫌味な奴が絶望に陥っているのを見た経験はいくつもある。



 なぜ両者がここまで相手に拘っているのか。その理由はやはり原始的な欲求以外に存在しない。



 性癖。つまり、タイプ。



 丹土傑。身長185cm。真面目故に、男性は女性を守るべきという古い慣習が頭に染みついている。そのためか、背が低く顔が幼い女子がタイプ。ロリコン気味の彼であるが、それ以外は普通の男子。胸は大きいほどうれしい。



 兎野聖来。身長150cm。バスト85。普段は強気な彼女だが、それは弱い自分を守る鎧。どちらかといえば強引に振り回されたいタイプで、少々マゾヒズムなところがある。故に身長が高く、少し高圧的なくらいがちょうどいい。



 つまり、好みに合致していた。できることなら、付き合いたい。



 しかし大きな。とても大きな問題が二人の間には存在していた。



(顔はいい。が、女性は清楚であるべきだ。黒髪ロング以外ありえない。性格だって大和撫子的なもの静かな感じがいい)

(顔は合格点。でも髪型と性格がなぁ……。茶髪とか金髪にしてチャラチャラしてくれれば全然アリなのに)



 素材は完璧だが、かゆいところに手が届かない。が、届かなければ変えてしまえばいい。



 ざまぁを与えることで相手の心をへし折る。それにより自分好みの性格に変えてしまえばいいのだ。



(俺には校則という大義名分がある。すぐにでも模範的清楚美少女に変えてやる)

(結局人間は目先の快楽に甘えるもの。わたしが青春の楽しさを教えてリア充にしてあげましょう)



 相手を理想の姿に変えるために恥辱を与える戦い。



 「ざまぁ合戦」が、今ここに始まる――!

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