第七話
翌日から練習の日々が始まった。場所は決まって公園。最初は準備体操と柔軟だ。
「無理! これ以上は無理!」
両足を開きながら地面に座り、足を固定されたまま上半身を前に引っ張られる。私は昔から体が硬い。はたから見れば、もはやただ座っているだけだ。
「ほら、もう一頑張り!」
さらに前へと引っ張られる。それでも開かないものは開かないし、曲がらないものは曲がらない。それが私の体なのだ。
「うわあああああ! ギブアップ! アイム、ギブアップウウウウウ!」
「ノーノー! ネバーギブアップだよ、日葵ちゃん!」
~~~~~~~~~~
「ほら、置いてくよー!」
次はランニングだ。お姉ちゃんはマスクしながら走っているにも関わらず、息一つ上がっていない。
「はあっ……、はあっ……、お姉ちゃんっ……、待ってっ……」
一方、私はクタクタだ。何度も止まりそうになりながら必死に食らいつく。
「待ちませーん! 先に行くよー!」
「ひえええ……」
~~~~~~~~~~
「私の後に続いてね! ドー、レー、ミー……」
「ドー、レー、ミー……」
さらにボイストレーニング。お姉ちゃんの声は芯が通っていて力強い。負けじと自然に力んでしまう。
「ファー、ソー、ラー……」
すぐに限界はきた。
「レエエエエエ、ミイイイイイ、ファアアアアア!」
「ストップ、ストップ! 日葵ちゃん、力んじゃダメだよ。喉じゃなくてお腹から声を出して、口と鼻の奥で響かせてみて」
「む、難しいね……」
「焦らなくて大丈夫! 何より大切なのは楽しむこと! 思わず笑顔になっちゃうぐらい楽しんじゃおう!」
「楽しむこと、笑顔……わかった!」
「オーケー! それじゃあもう一回! ドー、レー、ミー……」
~~~~~~~~~~
練習を始めて一週間が経った日のこと。
「日葵ちゃん、これ見て!」
お姉ちゃんのタブレットをのぞき込むと、そこには「日葵ちゃん!」という名の曲。
「もしかして……私の曲ができたの!?」
「そう! 細かい調整はまだだけど、聴いてみて!」
再生ボタンを押す。それは一人の少女の物語だった。夢に目覚め、挫折し、それでも前に進もうとする、聴く人全員に踏み出す勇気を与えるような希望に満ち溢れた曲。
「いい! とってもいい感じだよ!」
「本当!? それなら良かった良かった!」
「本当にありがとう! ただ……」
「ただ?」
「自分の話がモデルだと思うと照れるね……///」
「あはは、これは日葵ちゃんの曲なんだからいいじゃん!」
このままいけば本当にアイドルになれるかもしれない。お母さんに認めてもらえるかもしれない。
「今日も練習がんばろー!」
朝空に向かって両手を突き上げる。鳥のさえずりが気持ちいい。
きついけど楽しくて仕方がない、そんな充実した毎日が過ぎていった。