第六話
「早速練習! ……と言いたいところだけど、まずは準備しようか!」
「準備? 準備って何するの?」
私とお姉ちゃんは今、ホテル一室のテーブルで向い合せながら作戦会議中だ。
「日葵ちゃん、アイドルが歌って踊るために必要なものってなーんだ?」
「練習!」
「あはは、やる気十分だね! それも正解だけど……もっと根本的なものを忘れてない?」
「……あ、曲!」
「そう、曲! 一応訊くけど、日葵ちゃんは自分の曲を持っていたり、作れたりは……」
「しない!」
「い、潔いね……」
「てへへ……すみません」
「よしわかった、今回だけ特別にお姉ちゃんが用意してあげよう!」
「本当!? やったあ!」
「今回だけだよ~?」
「うん、お姉ちゃん、ありがとう!」
「いえいえ! それじゃあ事務所に頼んど……」
「事務所……?」
「じゃなくて! 友達に頼んでおくね!」
やはりお姉ちゃんはところどころ引っかかる。一体何者なんだろう。そんな疑問が表に出てきてしまっていたのか、お姉ちゃんは慌てて話を進めようとする。
「そ、そこで一つお願いなんだけど、この曲は日葵ちゃんの体験や想いをコンセプトにしたいんだ。だから、辛いかもしれないけど、さっきの話をもっと詳しく教えてくれないかな?」
凶変したお母さんの声と表情が脳内にじわっと広がり、話すかどうかためらってしまう。しかし、こちらを優しく見守ってくれている目の前の存在が、その恐怖を覆ってくれた。
「……うん、わかった、いいよ! じゃあ、えっと、どこから話そうかな……」
ベッドに二人で腰掛けながらこれまでの経緯を話す。ドームライブで感動したこと、お母さんとケンカしたこと、独りで孤独を感じたこと…どう感じたか、どう想ったか、ありのままを伝えた。
「うんうん、それは辛かったね……」
私が辛そうな時は、背中を優しくさすってくれた。その手はやっぱり温かくて、「ああ、この人は私のことを守ってくれそうだな」って、改めて安心する。
「今日はいろいろと話してくれてありがとう! これから友達のところに曲をお願いしに行こうと思うんだけど……独りでも大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ!」
「ごめんね! 結構かかっちゃうかもだから、好きにくつろいでて!」
お姉ちゃんはそう言って部屋から飛び出して行ってしまった。部屋には私と静寂。その訪れと同時に孤独感がまた姿を現し、背後から静かに迫ってきたが、
「よし、お風呂に入ろう!」
大きな独り言をつぶやき追い払う。お風呂から上がった後は、まだ疲れが残っていたのだろう、すぐに眠りに落ちてしまった。