アネット無双 2
アネットの発言に周囲がざわめく。
「君はなんて事を言うんだ!」
クリストフは、怒りを宿した瞳をアネットに向ける。
周囲の者たちにも、非難の声が囁かれ始めたが、アネットは気にする素振りは一切見せなかった。
「君がそんなにも心無い令嬢だとは思わなかった」
「偏見の次は誹謗中傷ですか」
「なに!?」
「殿下にお聞きしますわ。友達の定義とはなんでしょうか?」
「そんなもの決まっているだろう。互いに支え合い切磋琢磨し合える関係だ」
「そうですか。でしたら、やはりわたくしには友と呼べる存在はいませんわ」
アネットは哀愁を演出するため、僅かに視線を落とした。
「わたくしの周りには、おべっかを使う者たちばかりでわたくしという人物を見てくださる方はいらっしゃいませんでしたもの」
「そ、そんな!わたくしは立場や地位など関係無くアネット様とお近付きになりたくてっ.......」
「わたくしもそうですわ。」
「わたくしだって」
廊下の端で見つめていた令嬢たちが、途端にアネットの発言を否定する。
「アネット嬢、彼女たちはこう言っている。アネット嬢の気持ちも分からなくはないが、君は権力のしがらみに囚われ意固地になっているところもあるんじゃないのか?」
クリストフは、令嬢たちの声を聞いて落ち着いた声音でアネットに声をかけ、手を差し伸べる。
「君自身偏見の目で彼女たちを見ていたのではないかと私は思う。少し、肩の力を抜いて彼女たちの言葉を信じてみては如何だ?」
「.......そう。では何故、わたくしが一人になりたがっているのに一人にして下さらなかったのかしら。口を開けば実家の売り込みばかり。友達というのは互いに尊重し合う仲なのでしょう?プライベートも何もあったもんじゃないわよ」
鬱陶しくて仕方が無い。四六時中まとわりつかれて、媚へつらい自慢話を聞かされ、縁を持とうとして近付いているのが見え見えだ。
そんな奴と誰が好き好んで、友達になる奴がいるものか。
「再三言いますが、わたくしは一人が好きなの。ですから、放っておいて下さいませ。友と仰るのであれば友人の頼み、聞いてくださいますわよね」
威圧感のある冷たい瞳と声音に、その場にいた誰もが何も言えなくなったのだった。
「御前、失礼致しますわ」
アネットは、身を翻してその場を後にした。
以降、アネットに近付く者は数名以外、いなくなった。
同時に学園内では、『氷の女王』の先駆けとなる『氷の花』という二つ名が浸透していった。