新・アネット爆誕 3
前世を思い出した今、下の毛も生えていないようなガキに興味はない。
イケメンは好きだが、遠目に眺めるだけで充分だ。
アネットの好みは今や、中年男性にしか興味が持てなくなっていた。それも、偏向であり屈強な渋い男性を好んだ。
「わたくし、クリストフ殿下と婚約するくらいなら王弟殿下と婚約したいですわ」
アネットの発言に周囲が凍った。
比喩でも何でもなく、父も室内にいた使用人も凍りついたように硬直していた。
一人だけ満面の笑みを浮かべるアネット。
「本当は、国王陛下も素敵だと思うのですが陛下には既に王妃様が──」
「アネット!」
武王と名高い陛下。その場にいるだけで威圧的な空気感漂う、出で立ちを思い浮かべ、うっとりとした表情で告げると、父が言葉を遮る。
「もういい、わかった。婚約者候補の件に関しては、私の方から断っておこう」
声に疲れが見えるが、知らないフリをする。
「アネットよ。断る為とはいえ、そういう冗談は二度と口にするんじゃない」
鋭い視線で睨められるも、アネットは涼しい顔で受け流した。
アネットにとっては、冗談ではなく全て本心からの言葉であったのだが、父には断るための方便だと思われたようだ。
「アネットはまだ、安静にしていた方がいいようだ。頭の打ちどころが悪かったのだろう。ゆっくりと休みなさい」
上半身を起こしていたアネットは、布団に入るように促され大人しく床に就いた。
父の見解もあながち間違ってないなとアネットは思った。
打ちどころが悪かったせいで、嗜好も性格も全てが変わってしまったのだから。
以降も、アネットは変化を隠そうとは一切しなかった。言動は、今まで以上にアネットが馬鹿になったのだと、周囲に思わせた。
しかし、そうではなかった。令嬢らしさは消え、言動も包み隠すことなく思慮深さに欠ける発言もするが、思考は稚拙さがなくなり宰相の父と対等に言葉の応酬が出来るほどに知識がついていた。
「わたくし、どうやら頭部を打って人が変わってしまったようですの」
静養明けは、これが当分の口癖となった。
前世を思い出す前は、運動が苦手なアネットだったが、今では自ら筋力をつけるため、体を鍛え始めた。
時に、戦闘訓練がなされた執事に手合わせを命令することもあるほど。
基本は、前世の記憶を頼りに体を鍛えていたのだが、一年、二年と続けるうちに戦闘訓練を受けた執事と対等に渡り合える程にまで力をつけてしまっていた。
そうして、ここに婦警であった頃の記憶を持った新しいアネットが爆誕したのであった。