ヒコウ ショウネン
こんにちは。亜久津です。
非幸少年はある曲を聴いて発想した物語なのですが、いつのまにか小説を書こうとしてから1年が経とうとしています。時間が経つのは速いですね。
ところで、皆さんは青春と言える日々を過ごしたでしょうか。もしくは今、青春真っ只中という方もいらっしゃるのかも知れません。
少なからず、心身共に不安定で時に危うい、綱渡りをしているような時代は誰にでもあったのでは。(クラスのやんちゃな子がガラスを割りまくるアレですよ。アレ。)
そんな色褪せた青春を感じ取ってもらえたら、作者が大喜びして自転車も乗れるようになるので、ぜひ、一読してください。
なぜこうも、人は暑さに弱いのか。
暑さを凌ぐための進化というものを、ヒトはしてるのだろうか。
8畳間のがらんとしたワンルームで、そんな悪態をつきながら田辺は寝ていた。
いや、正確には寝ることが出来ずにいた。
それもそのはず、本日の部屋の気温は38度。カーペットを敷かないフローリングの上では汗で顔に埃がついて、寝るのを邪魔するのだろう。
いくら五十を過ぎたとはいえ、警部補として日々捜査に励んでいる身としては少しばかりだらしがないが、
「しょうがねぇ。もう俺だって歳だ。一人暮らしの寂しい部屋なんだから少しくらいだらけていても誰かにとやかく言われる筋合いはないだろ。」
ヨレた肌着をパタパタさせながらデカいスイカが食べたいなぁと思った。
8月7日
田辺は二つ山を越えた小さな集落に部下の佐々木と来ていた。
昨日、上司の秋山警部から直々に警備の依頼が来たのだ。どうやらこの集落は市からも見放されていて、警察の割り当てが無いのだという。見兼ねた心の優しい警部は比較的暇を持て余している、独り身の田辺と巡査部長の佐々木を派遣した。そして、今、佐々木と共に苔色の電車と1日に二本しかないバスを乗り継ぎ、青々とした緑の地に降りたったのだ。
「いやぁ、もう夕方なのに暑いですねぇ。」
「そりゃあお前、今年は最高気温が馬鹿にならないってニュースでやってたぞ。」
「馬鹿にならないって、なんだかアバウトですねぇ。」
「阿保ぅ。伝わればいいんだよ。」
田辺は佐々木のワックスで固めたガチガチの頭をぽかっと叩くが、暑さが和らぐ様子は全くない。
「全く、お前はなんて格好でこんな山奥に来てんだよ。」
「いやぁ、、、その話今日で何回目ですかぁ。俺だって出来るなら田辺さんみたいに今すぐTシャツ短パンに着替えたいですよぉ。」
「昨日服装は自由で、って言われただろう。若者お得意のスマフォであらかじめどんな場所か調べておけよ。こんなど田舎に下ろしたてのスーツで来るヤツがいるか。お前の口調もどうにかならんか。暑苦しいったらありゃしない。」
「俺のスマホは可愛い子との連絡用なんですよぉ。それに俺の口調はもう治りません」
「それに、田辺さんだって秋山警部みたく、紳士的になってくださいよぉ。」
「お前、先輩に向かってなんて事を言うんだ!」
そうは言ってみるが、秋山警部は甘いルックスと穏やかな物腰、そして年下とは思えない冷静さから全警察官の憧れの的で、田辺も密かに目標としている。
「あ、田辺さん、あそこが俺たちの下宿先じゃないですか?」
こうして、真新しいピカピカのキャリーケースを上り坂に滑らせて2人は向こうに見える屋敷へと足を運んだ。