意外
僕は、海外から来たお客様に英語で接客していた。デジカメのバッテリーが切れそうなので、充電させてくれないかとそのお客さんが言っている。食事している間なら、大丈夫ですよと答えた。彼等はホッとした様な顔をしてくれて、笑顔になってくれるので、こちらまで嬉しくなる。デジカメを預かって、コンセントに繋いだ。
滅茶苦茶な要望でない限り、海外からのお客様には、オーナーさんや木原さんの意向で出来るだけのことはしてあげることにしている。どうせなら、笑顔で気持ち良く帰っていって欲しいからだ。
そんな様子を見ていた氷川君が、英語ペラペラなんですねと、感心してくれた。
「小さい頃は海外で暮らしてたから。日常会話ぐらいなら出来るよ?」
僕は、一応帰国子女っていうやつだ。そんな奴は沢山いるから、英語が出来るぐらいじゃ自慢にはならないと思っている。
「凄いですね。」
でも、氷川君の純粋な褒め言葉は、悪い気はしない。
「惚れた?」
「惚れそうです。」
思わず、ドキリとしてしまう。
「ホント?」
「いえ、嘘ですけど。」
「嘘なんかい!」
もう、ガッカリしたじゃないか。
「そう言えば、西野さんて大学何処なんですか?」
「R大学。」
「…西野さんて、頭良かったんですね。」
彼女はしみじみと僕を見詰める。
「何?その意外そうな顔。」
「…いえ、普段の言動から、そうは思えなかったので。」
「もしかして、貶されてる?」
上げといて落とすなんて酷いよ、氷川君。
「学歴の高さと行動の賢さは比例しないよ。」
「ミヤ!」
話を聞いていたのか、ひょっこり顔を出したミヤがフッと笑う。
「私の兄なんて、折角国立受かったのに、私立の大学行って、更に五年行って中退するという暴挙に及んだんだ。馬鹿でしょ?折角苦労して入ったのに、頭いい人の考える事は良く分からんわ。」
良く分からないってお兄さんでしょうに。
「マジで?」
「それはそれは…。せめて卒業はした方が良いですよね?」
「でしょ?私もそう思うんだけどさ。」
結局お兄さんは、専門学校に行く為に就職して、学費を稼いでいる最中なのだとか。さすがに親には頼めないらしい。人生色々だなぁ…。
言いたいことだけ言って、ミヤは持ち場に戻った。
頭のいい奴なんて、掃いて捨てるほどいるし、少し勉強が出来るぐらいじゃ、これまた自慢にはならないと思っている。その大学に入っている時点で、同じ様な学力がある人間ばかりだから。飛び抜けて勉強が出来るなら、自慢出来るんだろうけどさ。
僕は発想とか、想像力とか、無から有を創り出す力の方が凄いって思うんだ。新しい技術を開発するとかね。僕にもそんな力があったら良いのにって、いつも思う。まぁ、そういう力をつけるために、大学で勉強しているんだけど。
好きな事をする為には、やっぱり勉強は必要で、その土台の豊かさが発想に結び付くんだと思うんだ。だから、今勉強する事は自分の為に必要だと思うから、頑張れる。
苦手な先生や、学生もいるけれど、苦手だからと否定していたら、勿体無いような気がして…。どうして苦手なんだろうって考える事は、自分を分析する事でもあるし、無駄じゃないと思う。
僕は、アレルギー反応みたいなものじゃないかなって思うんだ。苦手な人の苦手な部分は、僕が要らないと切り捨てたものかも知れなくて、だから心のどこかで羨ましくも感じてしまっているのかも知れない。だから、苦手だと思う事はやめられないけれど、嫌いにはならないでおこうって思うんだ。
ポツリポツリと、自分の考えを氷川君に話していた。彼女は相槌を打ちながら聞いてくれる。
「僕、苦手な人はいるけど、嫌いな人はいないんだよね。」
「…西野さんのそういう所、私は好きですよ。」
ニッコリ笑って氷川君は僕を見る。不意打ちは狡いと思う。ドキドキしてしまうじゃないか。
日が落ちるのが早くなり、窓の外はもう真っ暗だ。鏡の様にくっきりと僕と君の姿が窓に映っている。
そこには窓の外を見詰めるフリをしながら、君を目で追ってしまう自分の姿があった。
久しぶりの投稿です。ごめんなさいね。
次はもう少し早くします。
ではまた☆あなたが楽しんでいてくれます様に♪