無言電話
長い夏休みが終わって、もう秋だ。
大学の後期の講義が始まって、忙しい日々が戻ってきた。二回生だとまだまだ、単位を取る為に出席しなければいけない講義が、山の様にある。先は長いけれど、就活が始まるまでには、出来るだけ単位を取っておきたい。
休憩中の僕と氷川君とミヤは、いつもの様にたわいない話をしながら、喋っている。ミヤの携帯が震えて、ミヤはディスプレイを見て、眉根を寄せた。誰からだろう?電話には出ずに放置しているミヤに、氷川君が出ないんですか?と話し掛けた。
「最近、非通知で無言電話がかかってくるんだよね。」
そう言って、ミヤは携帯の画面を見せてくれた。確かに非通知電話と表示されている。しばらくして電話は切れた。
「え、大丈夫なんですか?」
心配そうに言う氷川君に、ミヤは苦笑いして大丈夫だと答えた。
「相手は分かってるから。」
「え?非通知なんですよね?誰か分かったんですか?」
「うん。元彼の今カノ。」
そう言ってミヤは、タバコに火を付けた。
「うわぁ…。」
ミヤの話によると、元はその子は友達だったのだとか。ミヤの元彼は、今の彼女に乗り換えたらしい。って言うか、よくそんな話を淡々と話すな…。
「多分、そうじゃないかって思って、私も相手に非通知で無言電話かけてみたんだ。そうしたら、その後、また非通知で無言電話かかってきてさ。あ、当たりだって思ったんだよね。」
「ひぃい、怖い怖い怖い!」
鳥肌が立ったのか、氷川君は腕をさすっている。
「女って本当に面倒くさいよね。言いたい事があるなら、ハッキリ言えば良いのに。」
ふぅと煙を吐き出しながら、ミヤはぼやく。
水面下での女のバトルっていうのは、えげつないな。氷川君の反応も納得できる。怖い怖い。
自分も女なのに、そんな感想を持つミヤは、心底女の面倒くさい部分が嫌いみたいだ。確かに、男とは違うかもなぁ。
「本当にアイツは、見る目がない。確かに可愛いけど、腹は真っ黒よ。」
無言電話かける女は、ちょっと、いや、大分嫌だなぁ…。
「見る目があるから、また宮園さんと会ってるんじゃないですか?」
氷川君は、コーヒーを飲みながら、そんな事を言う。その元彼が、今の彼女の事を好きじゃなくなってきた可能性もあるよなぁ。男っていうのは、より良い女を求める生き物だし…。
「…そうなのかなぁ?でも、別に浮気してないよ?普通に会って喋っただけ。だから、良い迷惑よ、ホントに。」
ミヤは煙と一緒に溜息を吐き出す。
僕は心が騒ついて仕方ない。元彼とも普通に会ってるみたいな話を、前に話していた事を思い出す。ミヤは、自分の恋愛については、そんなに喋る方ではない。少なくとも、僕にはあまり話さない。氷川君には喋っているんだろうか…。
チラリと見た、ミヤの顔は普段と変わりなくて、感情は読み取れない。氷川君は心配そうに僕の顔を見た。
嫌な予感を振り払う様に、僕はコーヒーを飲み干す。舌に残った苦味が僕の気持ちを代弁している様だった。
いつもお読み頂いてありがとうございます。
ボチボチの投稿ですみません。
短いですが、楽しんで頂けたら良いな☆
ではまた♪