ガラスピアス
大学は長い夏休みに入った。照りつける日差しがギラギラと肌を焼く。目的地を目指して足早に歩いた。早く冷房の効いた店に着きたかったんだ。
バイトに行く途中の道で、ミヤに出会った。耳に揺れるピアスに目が止まる。赤色の雫型で、エネルギッシュなイメージのミヤによく似合う。服装のアクセントになっていて、夏の日差しを受けてキラキラと輝いて、綺麗だと思った。
「新しいピアス?」
「ふふふ、いいでしょ?氷川君に貰ったの。」
「え?何で?」
確か、誕生日ではなかったと思う。
「大学時代の友達とガラス工房で、バーナーワーク体験してきたんだって言ってたよ。形の揃ったのが二個出来たから、ピアスにしたんだって。じゃんけんで勝利してゲットしたんだ!ピアスはこれしか無くてさ。」
ミヤは得意げに言う。そうだったんだ。
「僕、何も貰ってないけど。」
「女子限定じゃない?他の子にはペンダントをあげてたよ。」
「いいなぁ、女子だけかぁ。」
「西野はピアスしないでしょ?っていうかアクセサリーしてるとこ、見た事ない。」
「しないけど、女子だけ狡くない?」
「あんたは、ケツの穴のちっちゃい男だねぇ。」
呆れた顔で僕を見て、ミヤは言った。
「…その表現やめたら?一応女の子でしょ?」
「一応は余計だ。」
ムスッとした顔でミヤは言う。あ、また、余計なこと言ってしまったみたいだ。こういう部分が、モテない原因だろうか…。
僕はごめんとミヤに言う。怒らせてしまったら謝るに限る。ミヤは笑って、休憩中にジュースを奢れと言ってきた。切り替えが早いのは、ミヤの良いところだと思う。根に持たない性格なのが、好きなんだよなぁ…。
着替えてタイムカードを押すと、早出だった氷川君が、おはようございますと挨拶してくれた。午前中は暇な事が多いので、バイトは一人だけなんだ。殆どを開店準備の作業に当てるため、早出は結構忙しい。掃除やら、テラス席の準備やら、シルバーのセッティングやら。ランチタイムの忙しい時間と、ディナータイムは、バイトの人数が増える。
「早速つけてくれたんですか?」
ミヤのピアスに目を留めて、氷川君は微笑んだ。
「うん。ゆらゆら揺れるのが可愛くて。」
「ありがとうございます。」
嬉しそうに、ミヤの顔を見ている氷川君の肩を、ツンツン突く。
「氷川君、僕も欲しかった。」
「ピアスがですか?」
驚いた様に氷川君は僕を見る。正確には、僕の耳を。
「穴、空いてませんけど?」
「…じゃなくって、女子だけなのが、寂しいって言うか…。」
「ああ、ガラスだから、男の人が欲しがると思ってなかったんです。ストラップにも出来たから、一つぐらいそうしておいたら良かったですね。」
「女々しい。」
からかい混じりに、ポツリとミヤは言う。もう、煩いなぁ。
「そういえば、折角作ったのに、みんなにあげちゃったの?」
もったいないんじゃないだろうか。
「自分用に、一つだけ残しましたけどね。でも、作るのが楽しいんですよ。今度また行ったら、西野さんの分も作ってきますから。」
彼女はキラキラした目で、楽しかったと話す。次はトンボ玉を作ってみたいと笑顔で話していて、よっぽど楽しかったんだなぁと思った。肌もいつもより、ツヤツヤしてる気がする。
人が、好きな事をしている時や、好きなものの事を話してる時って、嬉しさが顔に出てると思うんだよね。
「…氷川君は、何か作ってる時が楽しいんだね。」
もしかしたら、作ったものを喜んで使ってくれてる事なんかも嬉しいのかも知れないな。ミヤがピアスを着けているのを見て、嬉しそうにしていたし。
「あ、そうかも知れませんね。」
今初めて気づいたかの様に、目を丸くする。
「そういう事が、向いてるのかもね、氷川君には。」
「…そう、かも知れませんね。」
ふと真顔になって、何か考える表情になった。
「どうかしたの?」
「いえ、何でもありません。」
彼女は笑って、作業の続きをしていく。賄いが出来たから早く来いと、木原さんが呼んでいる。忙しくなる前に、早めのランチを食べるのがこの店の特徴だ。
「西野さんのお陰で、何かヒントを見つけた様な気がします。」
賄いのパスタを美味しそうに食べながら、氷川君は僕に微笑む。思わず、ドキリとしてしまう笑顔だった。
その日の氷川君は、終始ご機嫌で笑顔が絶えなかった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
久しぶりの投稿です。お待たせ致しました。
ではまた☆次回の投稿も未定ですが、気長にお待ち下さいませ。
あなたが楽しんでいてくれます様に♪