表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振り子  作者: さきち
4/10

コンプレックス

僕と氷川君は一緒に、地下の冷蔵庫から、ケース入りの瓶ビールを運んでいた。業務用のエレベーターに瓶ビールを乗せて、扉を閉める。上の階へのボタンを押した。

上の階に移動して、瓶ビールを上の冷蔵庫に運んでいく作業の途中、つい、思った事が口を突いて出てしまった。


「氷川君てちっちゃいのに力持ちだね。」

重いのにフラつかずにちゃんと持ってるし、手伝って欲しいとも言わないし。ミヤなら絶対に手伝ってって言うから。中身の入ったビール瓶て、かなり重いんだけど。

「…そうですか?」

「うん。」

「西野さん…、力持ちも、ちっちゃいも、言われて嬉しくないです。」

僕にいい含める様に、氷川君は言葉を放つ。あれ?気分を害したのかな?

「何で?褒めてるのに。」

「…褒めてたんですね。じゃあ良いです。」

氷川君は苦笑いをした。

「もしかして、花も恥じらう乙女には、嬉しくないのかな?」

「もしかしなくても、乙女は、普通は嬉しくないんじゃないでしょうか。」

「力持ちはともかく、ちっちゃいは褒め言葉だと思うんだけど。ちっちゃい方が可愛いでしょ?」

特に女の子はそうだと思う。

「…背が低いと、似合わない服も多いんですよ?」

「そうなの?」

そんなの、考えた事もない。僕は低くも高くもない、平均ぐらいの身長だから。

「そうですよ。洋服も成人式の着物だって、大きい柄は似合わないし。宮園さんぐらい背が高ければ、何でも似合うのに…。小学生の頃に、ちゃんと牛乳飲んでれば良かった。」

「飲んでなかったの?」

「…牛乳、好きじゃなくて。給食でしか飲んでませんでした。馬鹿みたいに飲んでた弟は大きくなってるから、きっと牛乳だと思うんです。今、あの頃に戻れるなら、ちゃんと飲みますよ。」

ちなみに僕は、牛乳は大好きだ。普通に美味しいと思うんだけどなぁ。

「今から飲んだら?」

「もう遅いです。」

「あまり背が高くない男には、小さい方がモテるかも?」

「背が低いから、背が高い人の方が好みなんですよ。」

「う〜ん。…世の中ままならないね。」

「…そうですね。」

はぁ、と氷川君は溜息をついた。



別の日

「癖毛って良いね。」

僕はメニューを拭いている氷川君の髪を見て、可愛いなって思ってそう言ってみたんだけど。君は微妙な顔をする。

「どうしてですか?ストレートの方が良いですよ。西野さんも宮園さんも真っ直ぐで羨ましいです。」

「そう?癖毛ってクルンとしてて、良いと思うんだけど。」

「癖毛は湿気が多いと広がるし、大変なんですよ?ブローするのも面倒だし、私はいつも括ってしまいます。」

そう言えば、髪を解いている所を見た事がない。括らなくても可愛いと思うんだけど。

「…なんか、西野さんて、人が嬉しくないポイントばかり褒めますよね。」

呆れた顔で、氷川君は僕を見る。女心が分かってないのは、認めざるを得ない。

「無い物ねだりかな?」

「ああ、なるほど。」

「でも、氷川君には似合ってる。ちっちゃいのも、癖毛も。」

「…ありがとうございます。」

少し赤くなった氷川君は、僕から目を逸らして横を向いた。耳が赤い。照れてる顔初めて見たかも。



僕が癖毛に憧れて、パーマをかけてみたら、ミヤにも氷川君にも似合わないと言われた。更には他のバイト仲間や、社員さんまで微妙な反応で…。もう、気を使うぐらいなら、ハッキリ似合わないって言ってくれよ!

ミヤなんか、僕を指差して、大笑いするんだ。失礼な!でも、正直なミヤらしい。笑われた方が救われる。


「あはははは!本当に似合わない!何でパーマなんて、かけたのよ?」

ミヤはツボの様で、目に涙を溜めて、お腹を抱えて笑っている。

「…大学の友達に、フランス人と日本人のハーフの子がいて、癖毛がカッコいいと思ったんだよ…。」

真っ直ぐな髪なんて普通で、面白くない。

「西野、超日本人顔なのに!」

「自分でも失敗したなぁとは思ったけどさぁ…。」

あれは、ハーフだからカッコいいんだな…。それにしても、ミヤ笑い過ぎ、酷くない?ちょっと、イジるのも限度があると思うんだ。

「…西野さんて、癖毛に憧れてるって言ってたの、本気だったんですね。」

氷川君はマジマジと僕を見る。

「本気に決まってるでしょ?そんな事で嘘つかないよ。」

くるくると自分の髪を触る。やっぱり不自然かなぁ。ちょっと、髪が傷んでしまったかも知れない。

「私、ストレートパーマかけようかなって思ってたんですけど、やっぱりやめます。」

「うん、勿体ないよ?」

目もぱっちりしてるから、癖毛が似合ってる。自然な感じの癖毛って貴重だと思うんだよなぁ。

「西野さんも、真っ直ぐな髪の方が似合ってますよ?」

「…そう?」

「…自然な方が良いですね。」

「そうかもねぇ。」

パーマはやめてしまおうと、僕は心に決めた。似合わないって、分かったしね。


氷川君がストレートになるのを阻止出来たみたいだから、無駄じゃなかったかな。僕は彼女のゆるく巻かれた様な癖のある髪を、見詰めてそんな事を思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ