涙
休憩室で氷川君が卓に突っ伏している。寝ているのかと思って、そっと向かいの椅子を引いたけど、その時に出た音で、ピクリと彼女が動いた。起こしてしまっただろうか。
「ごめん、起こした?」
「大丈夫です。寝てませんから。」
でも、一向に顔を上げない。相変わらず突っ伏したままだ。
「疲れてるの?大丈夫?」
「ちょっと、昨日寝られなかっただけです。大丈夫。」
「じゃあ寝てて。僕は本でも読んでるから。」
「…ありがとうございます。」
しばらく沈黙の中に、僕の本のページをめくる音だけが響いていた。寝たのかな?
「…どうして、好きでもないのに、呼び出したりするんでしょうか。会いたいなんて言われたら、期待してしまいますよね…。」
あ、起きてたのか。
「元彼?」
「そうです。昨日会ったんですけど、普通だったんですよ。付き合ってる時と変わらない。抱きついてくるし、キスもしてくる。まだ、私の事好きなのかなって思ってしまうじゃないですか。」
「…うん。そうだね。」
「私の事好きなのって聞いたんです。そしたら、好きじゃないって言うんです。…もう、彼が何を考えてるのか分からない…。」
「…酷いな。」
「じゃあ何で、そう言う事をするんだって、ほって置いてくれないんだって。私は気持ちが揺れて、苦しいのに。考えても考えても、意味が分からない。」
「最低な男だな。」
「本当に、最低ですよ。」
顔を上げた彼女の顔は、涙で目元が赤くなっている。寂しそうな瞳に胸が痛んだ。
「あ、ちょっと待ってて。」
僕は休憩室を抜け出して、ホカホカのおしぼりをひとつ持ってきた。木原さんには許可を貰ったから大丈夫だろう。
「はい、これどうぞ。目元にすると良いよ。」
「…何でそんな事知ってるんですか?」
「姉がやってた。」
「ああ、なるほど。」
そう言って彼女は目元におしぼりを乗せた。
「…あったかいですね。」
しばらくそうやっていたけど、もうおしぼりが冷めたのか、それを目元から剥がして僕を見た。もうだいぶ赤味は引いている。ありがとうございますと彼女は言って、携帯の時間を確認する。休憩はもうすぐ終わりらしい。
「元彼だけが男じゃない。」
本のページをめくりながら、僕は彼女に言った。
「…知ってます。宮園さんだけが女じゃないですよ?」
僕はポカンとした顔をしていたと思う。
「…そう切り返されるとは思わなかった。」
そして僕達は笑い合ったんだ。彼女と少し気持ちが近付いた気がした。
お読み頂いてありがとうございます。
この話は、衝動的に書いた話で、それ程長い話の予定ではありません。こっそり投稿していたのに、ブックマークして頂いていてビックリしています。完結してから告知しようかと思ってました。
不定期更新ですが、気長に待って頂けると嬉しいです。
お正月休みに、話を進める予定なのですが、どうなるかは未定です。
自分自身が精神的に安定してないと、悲しい話って書けないんですよねぇ…。
ではまた☆あなたが楽しんでいてくれたら、嬉しいです♪