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振り子  作者: さきち
2/10

男同士

休憩中に木原さんがやって来た。お疲れ様ですと挨拶すると、何だ、お前だけかとガッカリした顔をされた。

「ミヤと氷川君は?」

「ちょっと買い物してくるって、連れだって出て行きましたけど。」

「はぁ、癒しが居ない…。」

肩を落として椅子に腰掛けて、ダラリと卓に突っ伏した。

「すみませんね。むさ苦しい男しか居なくて。」

「ホントだよ。可愛い子を見るのが癒しなのに。」

「…不倫はやめてくださいよ?」

木原さんは結婚していて、奥さんと子供もいる。

「そんなことしたら、直子さんに辞めさせられるわ!」

直子さんと言うのは、この店のオーナーさんだ。

「ミヤも可愛いけど、氷川君も可愛いよな。良い子だし。」

「…そうですね。」

可愛くて良い子なのは確かだな。

「お前はミヤ一筋?」

「…どうでしょうね。」

僕は、はぐらかす。最近、少し氷川君が気になってるんだ。素直なところが、単純に可愛いと思う。ミヤに相手にされないって言うのもあるけど。でもどっちが好きかっていうと、やっぱりミヤだと思う。

「俺は氷川君、ストライクなんだよなぁ。結婚してなかったら、間違いなくアプローチしてるね。」

「…そうですか。」

良いなって思ってるのは、僕だけじゃないんだな。まぁ、そりゃそうか。

「もう立派な戦力だし、頑張ってるから、可愛い。」

「確かに頑張ってますね。」

彼女が来てから、二ヶ月ほど経過していて、その間にすっかり仕事を覚えてしまった。

「どっちもフリーなのに、何でお前はいかないんだ?」

心底、不思議そうに木原さんは僕を見る。

「一緒に働いてるのに、気まずくなったら嫌じゃないですか。」

「そんな事してると、他に盗られると思うぞ?」

自分に意気地が無いのは分かってる。でも、失敗するのが嫌だと思う事は、悪い事だろうか…。嫌われてはいないけど、恋愛対象かどうかを見極めてから行動したいって思う僕は、やっぱり意気地なしかな?相手の気持ちが分かったら良いのに…。

「僕のじゃないですから。」

「だから、自分のものにする為に、行動するんだろ?」

「このままで、満足出来なくなったら、動きますよ。」

「最近の若いのは、消極的だなぁ。もっとガツガツ行けばいいのに。」

「それ、おっさんのセリフですよ?」

「おっさんって言うなよ!まだまだ、若いつもりなんだから!」

そう言って拗ねてしまった。おっさんが唇尖らせても、可愛くないです。



二人が戻ってきて、途端に木原さんは嬉しそうな顔になる。まぁ、機嫌が良くなるなら良かった。コンビニでお菓子を買ってきたらしい彼女達は、卓の上に広げて一緒に食べようと言ってくれる。

「あー涼しい。外はもう暑いです!」

6月も後半になると暑い。真夏とまではいかないけれど、すっかり夏な感じがする。梅雨だけど、晴れた日は日差しがジリジリと肌を焼く。


たわいないお喋りをしていた時、氷川君の携帯が震えた。メールが来たらしい。彼女は携帯のディスプレイを見詰めて固まった。顔に動揺が走るのを僕は見てしまった。

誰からだったんだろう…。気になったけど、僕からは聞けなかった。その後は普通に会話をしていたけど、どこか心ここに在らずな感じで…。

そう思ったのはミヤも同じだったんだろう。結構表情が豊かだから、氷川君は分かりやすい。

「さっきのメール誰から?」

ど直球で聞くミヤは勇気があると感心してしまう。とても真似できない。

「…元彼です。…元気?って、何か会いたいって。」

「会うの?」

「…うん。一応。」

「そっか、会いに行っちゃうよね。私もそうだもん。」

ミヤの意外な答えに驚く。そういうタイプじゃないと思ってた。

「え、何で?別れたのに?」

僕は別れた彼女に会いたいなんて言ったこともなければ、その逆もない。別れた後は、一切連絡は取ってない。

「嫌いになって別れた訳じゃないから。私はね。」

ミヤはそう言ってタバコに火をつけた。モヤモヤとした感情が僕を支配する。

「…向こうから別れてくれって言われたんだけど、何でだろう…?」

困惑を滲ませた声で氷川君は話す。

「今考えても仕方ないよ。会って聞いてみれば?」

「そう、ですよね。」


「…青春だなぁ。」

木原さんはそんな事を呟いた。その発言もおっさんだなぁって思ったけど、指摘するのをやめた。そして僕に耳打ちする。

「他に盗られるって言っただろ?」

「…そうですね。」

でも、どうしようもないじゃないか。僕はミヤを見詰めて、溜息をついた。

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