ネガフィルム
透明な光が稜線をゆっくりと横切る。
プリズムが作り出す虹は淡い幼年期の記憶の様に僕のまぶたの裏をそっと揺らした。
仮死状態にあった彼女はいつも水平線のかなたから果てしない砂漠に向かって叫び続けた。
オーロラはそれをそっと見つめ、ウィスキーに漬けられた彼女の脳髄は反時計回りに回る。
雨でビチャビチャになった漫画の切れ端。
メリーゴーランドは夕暮れの中小さな女の子をさらっていく。
点滅。踏切。後頭部。彼らの人生。横切る電車。点滅。踏切。放たれていく人生達。死に向かって旅立つ旅人達よ。
古臭くなった和室。倒れそうなタンス。もう戻らない匂い。
記憶は揺れる。ネガフィルムの日付はオレンジ色の文字で30年の歳月を僕に告げた。