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やらないことを担保とした定説は間違っている――本当に弓の習得が難しいのはネック?

作者: curuss

〇 問題点1 弓兵たちは、いつ習得したのか?


 共和政ローマを例に考えます。

 西暦紀元前後、全版図の人口は4000万人。うちローマ市民は100万人程度でした。

 これに未成年と女性は数えられていないと思われます(べつに女子供を数えていた為)

 そしてローマ市民には25年の軍役が義務付けられていた為、このローマ市民の半数は現役の軍人――でしょう(軍役10年説もあり)


 ローマ全土で最大50万人といいますと、各戦争で10万は超えなかった点から考えて……やや多く見積もって?

 でも、ちょっとした紛争で数万単位。

 下手したら二方面で国家間紛争もざら。当然に国境警備も必要。そして海軍なども別に存在などを考えたら――

『少し多く感じるけど、現実とかけ離れた数字でもない』

 といえるでしょう。


 このローマ軍団は、全員が弓兵としても訓練を積んだはずです。

 さすがに25年の軍役ですから、たとえ技術の習得に1年かかろうとペイできます。

 むしろ問題は――


 どれだけの弓兵が必要か?


 でしょう。

 しかし、直前の研究で――

『抱えられる弓兵は人口の200分の一。無理しても100分の一程度』

 と推論できました。

 つまり、この例で適用すると――


 最大で40万人、おそらくは20万人程度の弓兵


 と考えられます。

 5人に2人が弓兵は、相当多いとも思われますが……奇妙に感じる方は、さらに下げ方向で脳内補正を。

 ここで重要なのは、どう見積もろうと――


 弓兵の数は余裕で足りてる


 ことでしょう。



〇 問題点2 実のところ徴用は最近の風習


 参考にしたローマ軍ですが、実は平民階級から徴用していません。

 日本の戦国時代のように『農民が兵士として召される』的な概念がないということです。

 むしろ身分としての『戦士・兵士』は誉れあるもので、戦うことは義務であり特権だったと見受けられます。


 またマリウスの軍事改革から兵士を「マリウスの荷馬」と呼ぶ悪口が生まれたりで、当時の兵士達は荷運びすらしてなかったり!

 なぜなら荷運びは、奴隷の仕事だからです。


 雑用に奴隷を同数程度は使役したでしょうから、後世の軍に換算すると、その数字より大きなものと考えるべきかも。

 後世は雑用奴隷という考えは無くなり、雑兵として徴用――軍隊の数字にカウントされましたし。


 レギオン2万+雑用奴隷2万……資料へは2万の軍勢

 専業兵士2万+ 徴用兵2万……資料へは4万の軍勢

 という計算。


 ほぼ同じことが日本の鎌倉時代にいえる?

 それとも中国の影響で、日本も早くから徴用を開始していた?


 なぜか中国では項羽と劉邦の時代から徴用しているイメージあります。

 ……あれは各種創作の誤り?

 しかし、古代中国は世界平均で考えても1世代は進んでいます。先駆けていてもおかしくはないような?


 西洋では西ローマ崩壊あたり――コロヌスの誕生以後でしょう。

 この農奴と翻訳されるコロヌスは、成立当初に軍役の義務がありませんでしたし。



 まとめると――


『訓練の終了していない新人を前線に送ることは無いので、色々な技術の難しさは深刻な問題とならない』


 でしょうか?

(その分だけレギオンの恐ろしさは際立つような!? 全員がプロやで!?)



〇 問題点3 では雑兵を徴用する時代、そいつらに弓を教えたのか?


 ヨーロッパでは西ローマ崩壊と共に戦国時代へ。

 とにかく兵力が必要なので形振りなんて構っていられません。農民から徴用もやむなしです。


 日本では下手したら鎌倉時代から。

 少なくとも戦国時代には徴用が当たり前となりました。


 中国は詳しい方に譲りたいところですが……おそらく春秋戦国時代を経て徴用が一般化?

(なので古代中国は、他の文明より500~1000年は先に! というか徴用を開始してたら、もう中世では!?)


 こうなると「各文明のレギオンに当たる中核はどうなったのか?」に注目するべきでしょう。


 これまた以前の研究で『現役の上級戦士は人口の0.6%』ぐらいと推算しました。

 ですが、これには平民でもなく貴族でもない層――兵士階級を含んでいません。


 上級戦士とは日本でいうところの『必ず騎馬での参陣が義務付けられてる家格』に匹敵ですから――


・武士ではあるけれど、徒歩での参陣が許されている下級武士

・有力武将が配下として抱えている軍団

・主君が直参として抱えている兵隊


 などなど、他にも完全な専業兵士が。

 またはパートタイムで職業を持っていても、メインの仕事は戦争なんて人材もいました。

 ほぼ全ての文明で、この兵士階級は存在したはずです(というか下士官や専門家に相当するので、いないと軍隊が回らない)


 ローマの例で考えると人口の1.25%が専業勢。

 この例から大きく変動はしない――というか時代が逼迫してきて、軍へ多くの人材を割り振らないと国土防衛もままならなくなっていきます。

 よって1.25-0.6で0.65%が、最低でも存在する専業兵士で確定しょうか?


 ……個人的には、上級戦士の倍は兵士階級が欲しいところ。

(しかし、そうなるべきという論拠も無いので、このまま進みます)


 この1.25%の専業勢は日本でいうところの侍ですから、基本的な武芸は全て修得しています。

 簡単にいうと騎乗戦闘や弓の扱いをです。

 そして適切な弓兵は人口の0.5%程度なのだから、専業勢だけで足りてしまいます。

 つまり――


 徴用した農民へ、ゼロから弓を教える意義はない


 となります。



〇 例え話


 そこそこの運送会社を経営します。

 万が一の場合もありますので、全社員に大型免許修得を義務付けました。

 正直、事務方など裏方は、まず運転することはないと思いますが……まあ、会社の方針として悪くはありません。

 そして長らく荷下ろしなどには、バイト君を使ってました。

 なぜならバイト君で間に合う仕事も、やはり大量にあるからです。


 しかし、あろうことか!

 なぜか運転手の数が足りなくなりました!


 どうすれば良いでしょう?


1、事務などへ回していた社員を、臨時の運転手へ命じる


2、バイト君を運転免許場へ送り込み、免許を習得させる


 ……ここで2を選択は、さすがに首を捻らざるを得ません。



〇 参考の想定 軍の比率


 上級戦士       0.6%


 専業兵士   0.6~2.4%


 同数の徴用兵 1.8~3.0%


      計 3.6~6.0%


 総戦力は人口の10%程度から考えると……さらなる専業兵士と徴用兵を上積みできる?

 しかし、5%を超える辺りから厳しくなるのも事実だから、これぐらいが適切?

 やはり作者的には専業兵士2%前後説を推したいところ。



〇 疑問 では、なぜ『火縄銃は弓に比べて修得が容易』という比較が生まれたのか?


A1 事実だから


 実際に弓を教えることは無かったものの、火縄銃を教えることはあった模様(証拠として徴用兵用の火縄銃が現存します)

 ようするに『検討すら馬鹿々々しい』と『実現可能』を比べる訳です。

 つまり、実施はしていなかったけれど、比較すれば火縄銃の方が簡単とはいえます。


A2 おそらく歴史研究や歴史小説などで結論を必要とした


 実際、弓は銃器によって廃されました。

 理由はともかく、結果の証拠は枚挙に暇を得ません。

 それは逆にいうと――


 火縄銃の方が、何らかの利点や長所を持っていなければならない


 となります。

 この考え方そのものは正しいですし、この両者にとっては究極――


 よく判らないけど火縄銃の方が凄かったんだぜ!


 だろうと完結できます。

 なぜなら、それで史実に沿っているから。

 しかし、重箱の隅を突く様でも――


 弓と火縄銃の習得難易度を比べることに意義はない


 とはいえるでしょう。

 それは特殊技術者の数が――射手の数が、ほとんどの時代で足りていたからです。

 ほぼ同じロジックで語れるはずの騎馬武者は――騎乗戦闘のできる技術者は、習得難易度が全く語られませんし。

 これもやはり「技術者より馬の方が少なかったので、常に余っていた」からでしょう。



〇 例外


 そして何事にも例外は存在します。

 百年戦争――ロングボウ対クロスボウの時代、イギリスは兵士階級からだけでなく猟師や森に暮らす民からも射手をリクルートしたとか。

 またフランス側はクロスボウを撃てる人材を躍起になって育成したらしいです。

(たしか佐藤賢一先生が、その辺を描写していたような? もしかしたら裏付けある話やも)

 もちろん、これは戦術の切り替えもあるでしょうが――


 射手を増やしても矢を供給できるだけ、生産性や技術力が発展した


 可能性もあると、前回の研究で推論してたり(苦笑)

 まあ、同じ理由で火縄銃なども改良が進む訳ですが。


 そして射手に限らず、ありとあらゆるポストで特殊技能者の登用はあり得たと思われます。

 数の余りがちな射手や騎手だろうとです。

 意外と封建君主は人の話を聞くし、喧伝されるほど差別的でもない気が?


 さらに庶民であろうと、結構な量の武器を所有していた事実もあります。

 全世界的に庶民も、ことある毎に戦場稼ぎをしたからです。

 その収穫品に弓があってもおかしくはありませんし……実用へ回されることだってあります。

 世界平均では温厚とされてる日本人ですら、江戸時代までは『力の理論』を信奉していた訳ですし。



〇 そして本当に難しかったのか?


 体験教室や学生の弓道部を色々と調査したところ、なんと最短は……的を射るまでに3時間!


 これは専門家がマンツーマンで付きっ切り。教われたのも基本的な使い方だけでしょうが――

 『あとは個人練習で』が可能になったともいえます。

 とある名人の言葉なそうですが、結局は「当たれば良い」で「(練習を)数こなすしかない」みたいですし?


 ただ、この『手順は理解したレベル』から『弓兵部隊の一員に足る』まで、どの程度の修行が必要かは不明です。

 まあ、それでも『庶民だろうと弓の習得は可能』の担保といえる?


 ちなみに学生の場合、10月あたりに新人戦(三年生禁止の大会)が開かれるそうです。

 つまり、部活動のペースなら1年半程度で、ある程度は形に?

(というか一年生で出場する子の場合、たったの半年!)


 ここで平日2時間×6ほど練習する――『ある程度熱心ではあっても、強豪校ではない』レベルを想定します。

 週に12時間ですから、月に48時間。半年なら288時間、一年半は864時間です。


 これを仕事として一日6時間、年に200日程度の勤務で考えると……半年ほどで修得可能でしょうか?

(昔の労働時間は短かったのを考慮)

 寝食を切り詰めるスパルタ形式で3ヵ月?

 とりあえず撃ってくれれば程度でも1ヵ月は必要そうです。


 やはり「徴用兵に弓を教える意義や暇はない」がFAと思われます。

 ……色々と余裕がなくなった結果、徴用というシステムが生まれた訳ですし。


 よって弓兵に配属されるのは、招集された時点で射れる者に限定でしょう。

 また、ほとんどの時代は、それで足りもしたようです。


 比較すると小一時間程度のレクチャーで使用可能となる火縄銃は、やはり優れています。

 ……というより『徴用兵でも使える飛び道具』の段階で、素晴らしく画期的だった可能性すら?



〇 もしかしたら初期型クロスボウはメリットがない?


 そして似たような武器ながら習熟が簡単とされるクロスボウですが、やはり――


 矢――クォーレルの生産力問題で、そう多くの射手を用立てられません!


 遥かに高価で似たような発射レートの徴用兵用火縄銃を量産したのだから、クロスボウ本体の値段や連射性能は無視可能と思われる。


 確かに徴用兵でも修得できるでしょうけど……人数が限られてしまうのなら、専業兵士に任せたいところ。

 そして専業兵士に任せるのであれば、クロスボウである必要がなくなります!

 逆説的ですが――


 習得が簡単なだけでは、弓にとって代わることはできない


 のです!

 おそらく日本や中世前期でクロスボウ系統がマイナーなのは、これが理由と思われます。

 本当なら機械式クロスボウだけの長所へ着目されていくのですが……それより先に日本では火縄銃が伝来してしまった?


 また個人なら簡単さは利点となり得ますが、軍事利用だと『弓の方がメリットは多い』で終わりです。

 やはり後期の機械式までマイナー兵器でしょう。


 ……妙に中国でクロスボウ系統が多いのは、中世後期へ先駆けていたからかな?



◎ 結論


・確かに弓は修得が難しいかもしれない


・しかし、それが欠点ではあるものの、運用側の対応で完全なフォローも可能


・よって火縄銃との比較に、『習得難易度』を持ち出すのは不適切

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