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こんげつのおはなし 1

山岡文庫という私設図書館では月に一度のおはなしかいがある。


新月、満月、半月のうちの一夜を選んで行われる。

どれになるかは直前までわからない。おはなしかいに参加したいなら、いつも山岡文庫に通っていなくてはならない。

新規でおはなしかいに参加しても長くは通いつづけない人が多いのはそこのところが理由だろう。

開催時刻は午後25時。子どもの参加は禁止だ。


「もういいだろ、俺も参加させてよ。18歳だって17歳だって変わんねえじゃん」


竜輝が唇を尖らせる。幼いころからのクセだ。彩絵は竜輝の子どもらしい拗ね方がおかしくて微笑んだ。


「なんだよ、なんで笑うの」


「若い頃の1年はとても大きい。17歳と18歳はまったく違う1年だよ」


「彩絵だって若いじゃないか」


微笑む彩絵は黙って本棚に向かって歩く。男性のように見える短い髪とスレンダーな長身。いつも紳士用のワイシャツと黒いストレートパンツ姿だ。見た目では年齢がわかりづらい。少年のようにも見えるし、角度によっては老紳士のようにも見える。


山岡文庫は小さな図書館だ。蔵書も五千冊程度しかない。しかしそのすべてが星に関係する本だという専門性から訪れる人は多い。

天文に関係する人も星占いに関係する人も、もちろん星の絵本を探す子どもたちも。



その少女はもう三日、山岡文庫に通い続けている。

一日目は本棚を端から端まで丹念に見て歩いた。

二日目は蔵書検索用のパソコンで全蔵書のデータを読んでいた。

今日、三日目は本を本棚から取り出して、一冊ずつにおいを嗅いでいた。


「へんなやつ」


受付に座った竜輝は毎日少女を観察していた。

ショートボブは金色に染められているのだが、生え際は黒くなってきている。白いティーシャツにオーバーオールという服装が少女を若く見せている。

受付で入館簿に記載された少女の年齢は17歳、竜輝と同い年だった。少女は図書館にやって来てから今まで、一言もしゃべっていない。

竜輝が入館簿を差し出して記入するように言っても、うつむいたまま黙ってペンをとっただけ。帰っていく少女に挨拶をしても、うつむいたその顔が上がることはない。

竜輝は一度も少女の目を正面から見たことがなかった。

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