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森へいきましょう
深い深い森でした。
そこは誰の土地でもありませんでした。
地主様のものでも、殿様のものでも、ましてや神様のものでもありませんでした。
ただ森だけのものでした。
森には狼たちが暮らしていました。
狼たちは森に棲むいろいろな動物を食べました。
森の動物たちは狼に狙われたら一目散に逃げます。
逃げて逃げて、それでもつかまったら狼の一部分になります。
狼は動物たちを食べて食べて、年をとって森の一部分になります。
そうして森は静かにめぐっているのでした。
ある日、森に人間がやってきました。
森の外でほかの人間を殺して、追われて追われて逃げてきたのでした。
人間は疲れ果ててへとへとでした。
服は破れてぼろぼろでした。
狼は人間を狙いました。
人間は力を振り絞って木を登って逃げました。
狼は木の下でしばらく上を睨んでいましたが、ほかの動物を追いかけて行ってしまいました。
人間にはもう木を下りるだけの力がありませんでした。
人間は木の上で干からびていきました。
狼の一部分にも、森の一部分にもなれず、人間の干からびたものになっていきました。
森はいつまでも森だけのものでした。