小説の書き方教室によくある風景
「では、小説を書いてみましょう!」
初日のことである。
小説の書き方を学びにきたのに、いきなり小説を書けとはどういうことだ。
わたしは面食らい、たじろぐ。
カリッカリッ……音がした。
書いている人が、居た。
私の前に、後ろに、そして右にも左にもっ!?
「頑張らなくても良いんですよ? 思いついたままに書けば良いんですよ?」
せんせー、何も思いつかないんですけどー?
まさしく四面楚歌である。
劉邦の軍に追い詰められた項羽の気持ちとはこのようなものだったのか。
いや、天の蓋である先生からも追い詰められている。五面楚歌だ!!
わたしは残された逃げ道、机、その下である地面をただ見つめる。
「無理しなくていいんですよー」
「気楽に書いていいんですよー」
せんせー、お願いです。
小説を書けという前に、書き方を教えてください。
そのひと言がどうしても言えなくて、言えなくて……。
オーマイロンリィハーーーーツ! 傷ついたこころ癒してくれるの!
オーマイロンリィハーーーート! お前の優しさこころに沁みるぜ!
オーマイロンリィバーーーッド! クソッタレのこの世界に響くぜ!
オーマイロンリ(ry
†††††††††††††† ←討ち死にした勇士たちの墓標
さて、OP曲とCMも開けたところでAパートの始まりです。
でも最近のアニメって、一話目はOP無しで、EDにOP曲流すんだよね。
小説を読んでも小説を書けるようにはなりません。
陶芸家の皿をどれだけ見つめても、絵皿を作れるようにはなりません。
料理家の皿をどれだけ見つめても、料理を作れるようにはなりません。
これ、髙田の人の大発見。東京特許許可局に行かなくちゃ。
出来上がりまでの工程がおおよそ見当のつく料理はともかく、
豆腐などを出されたらギブアップです。
この白くてすべすべした物体が自然界に存在するの!?
きっと、魚介類のなかにすべすべ素材を求めることでしょう。
そしてカマボコが完成します。
美味しい! でも、なんか違う!!
すべての創作物……すべての人工物は素材と加工工程によって製造されます。
小説だけが、その分類から都合よく外れるということもありません。
なかには何となくで出来ちゃう人も居ますが、そんな人は放っておきましょう。
問題は貴方自身です。
小説を構成するパーツをまずは細分化していきましょう。
小説>章>節>段>句>語>字の七つに分割されます。
小説自身がパーツとされるのは、小説が積み重なって生まれる大長編が存在するからです。
字、ひらがなやカタカナや漢字、アルファベットのことです。
語、字が集まって出来上がる単語のことです。
句、語が集まって句点「。」で終わるひとつの句のことです。
段、句が集まって作られる一つの句では収まりきらない意味の塊です。
節、段落が集まって作られる一つのシーンのことです。
章、シーンが集まって構成される起承転結のそれぞれのことです。
小説、あなたが作りたいものです。
卵焼き、とりあえずこれをもとに一つの「句」を作ってみましょう。
卵焼きの茶色い焦げが彼女らしさを感じさせた。
卵焼きがどんな状態にあるのか、どういう来歴を持つのかが見えてきます。
では、この卵焼きをズームアウトして「段」を作ってみましょう。
卵焼きの茶色い焦げが彼女らしい。味付けは塩がひとつまみに、砂糖がたっぷりだ。子供の口にはちょうどだけれど、大人の口には甘すぎる。僕の好みを言ってみたこともある。だけど、卵焼きの味は変わらなかった。
卵焼き、これを通してその背景に広がる世界を見せることができます。
では、次に唐揚げの「段」を付け加えて「節」にしてみましょう。
卵焼きの茶色い焦げが彼女らしい。味付けは塩がひとつまみに、砂糖がたっぷりだ。子供の口にはちょうどだけれど、大人の口には甘すぎる。僕の好みを言ってみたこともある。だけど、卵焼きの味は変わらなかった。
でも、唐揚げには塩と胡椒が――それから、僕の取り皿にはスライスされたレモンが乗っている。熱そうに、辛そうにして唐揚げを口にする彼女のすがた。僕は、彼女が水を求めるすがたを見て、頬が緩むのを感じた。
上の段落と下の段落があって、初めて彼女の人間性が見えてきます。
卵焼きに関しては譲らないけれど、彼の好きな唐揚げについては譲歩してる、そんな彼女です。「僕の取り皿には」とあるように、彼女の皿にはレモンが乗っていません。「彼女の皿には無い」まで書いてしまうと無粋も良いところです。
では、「節」をさらに広げましょう。
卵焼きの茶色い焦げが彼女らしい。味付けは塩がひとつまみに、砂糖がたっぷりだ。子供の口にはちょうどだけれど、大人の口には甘すぎる。僕の好みを言ってみたこともある。だけど、卵焼きの味は変わらなかった。
でも、唐揚げには塩と胡椒が――それから、僕の取り皿にはスライスされたレモンが乗っている。熱そうに、辛そうにして唐揚げを口にする彼女のすがた。僕は、彼女が水を求めるすがたを見て、頬が緩むのを感じた。
「どしたの?」
「いやね……幸せだなと思って」
彼女は不機嫌そうな顔をして、
「やめてよね、そういうの。……照れるし」
僕の視線から顔を隠すものだから、僕といったらますます頬が緩んで、彼女といったらますます顔だけを不機嫌そうに、赤くさせるのだった。
彼女欲しい……。超彼女欲しい……。
それはさておき、これで一つのシーンが完成しました。
これを組み合わせていけば章が完成します。
章を組み合わせれば小説の完成です。おめでとう。
節より先は物書きとしてのスキルよりも、構成を考えるスキルに属します。
キレイにできたシーンを、どんな順番に並べようか、どんなシーンが必要か、それを考えるのは総監督のお仕事です。
とりあえず、髙田の人が小説というものをどう捉えているのか、
さわりのさわりを書いてみた次第になります。かしこ。