君色に染まる日。
愛されることを諦めて、愛されないことを選んだ。
愛することを諦めて、愛さないことを選んだ。
諦めることは、すごく簡単だったのに。
君に出会ってから知った、諦めないことって凄く難しいんだって。
君に出会えたから、世界の色を知ることが出来た。
君に出会えたから、自分色に染まる何かに出会えた。
君に出会えたから、自分が君色で染まった。
君に出会えたから、今の自分を作ることが出来た。
君に出会えていなかったら、誰も愛することも出来なかったし、誰かに愛されることもなかった。
君に出会えたことで、こんなにも変わるなんて思ってもみなかったよ。
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「何でよ!!!私は貴方のためになんでもしてきたのに!!!」家の中にお母さんの声が響く。
お父さんとお母さんの言い合いなんて、もう聞き飽きた。
外に出る。
14歳の冬の日。海道 鎖凪は、今日で14歳になった。
まー、14歳になったからって変わるものは何も無いけど。
しかし、やけに今日の雪は綺麗だな。
この綺麗な雪と一緒に、私も「溶けちゃえばいいのに。」声に出てしまった。独りなのに、恥ずかしくなった。
その瞬間、後ろから声がした。
「溶けちゃえばいいのに。って、溶けたらダメですよ。」
振り返った瞬間にそう言われたから、思わず笑ってしまった。そしたら、彼も笑った。
「俺は、水守 薫。そこの美術大学に通ってるんだ。」
「私は、海道 鎖凪。中学生だけど、学校に通ってない。」私は聞かれてもいない事まで話してしまった。
だけど、彼は、優しく「どうして、通ってないの?」なんて、初対面で失礼なことを聞いてきた。
でもね。ちゃんと応えたよ。
彼は話を聞いたあと、「よく、今まで頑張ったね。偉いね。」なんて、まるで自分の事のように、言ってくれた。それが、ただ単純に嬉しかった。
それが、私達の出会いだったね。
出会ってから少したって、春になってから君は私に言ったね。
「お父さんとお母さんは、今も仲が悪いの?」
やっぱり君は失礼すぎる。でもね。そういうのも案外好きだったりする。
あ、ちゃんと応えたよ。
「仲はね、今も悪いよ。仲が悪いのにどうして、結婚して、私を産んだんだろうね。」なんて、柄にもないことをいった。
でも、君はちゃんと聞いて応えてくれた。
「鎖凪を産んだんだ。最初から仲が悪いわけじゃなかったんじゃない?」
「そう、かな?私は家でも学校でも要らない子扱いだから、そういう方に考えたことなかったよ。」
そういったらね、彼ったら、、、「少なくとも俺は、要らない子なんて思ってないよ。」なんて、言うんだもん。泣きそうになったよ。
話してるうちに、時間は過ぎていく。あっという間に私が、高校生になると彼は4年制の学校の4年生になってしまった。時間も歳もやっぱり私がどんなに大人になっても、この差は縮まらないんだなと実感したよ。
高校生になった私に、薫は言ったね。
「俺は、出会った瞬間から鎖凪をずっと一人の女性としてみてきた。俺には、鎖凪しか居ないんだ。これからも、ずっと一緒にいてほしい。」
その言葉を聞いて、泣いちゃったよ。何で泣かせるの。でもね。これで分かったよ。私は泣くほど、薫が好きなんだってこと。
2度と縮まらないんだ時間と歳だけど、その代わりに縮まったのは距離だね。なんて、思うのは私だけかな?
私が高3になった時、薫はある秘密を話してくれた。
薫には何も残されていないこと。
薫にはお父さんもお母さんも身内すらいないこと。
そして、薫にはもう時間が残されていないこと。
薫は私と出会って、初めての春に病気になったこと。
その秘密を聞いた時、私は、
薫と出会った日。薫と初めてカフェに行った日。
薫に初めて相談をした日。薫と一緒に行った遊園地に動物園。薫と行ったあのお花畑。
薫との思い出が脳内で、スクロールされた。
いつの間にか、薫と私は、思い出ではなく想い出を繋いでいったことが分かった。
どうして、もっと早く言ってくれなかったの。
どうして、もっと私に好きと言ってくれなかったの。
どうして、どうして私に秘密にしてたの。
全部共有したかった。
薫が感じたことと私が感じたことを。
薫が思ったことと私が思ったことを。
薫の想いと私の想いを。
もっと共有して、もっと薫のことを知りたかった。
今後悔しても、もう遅い。
そんなことは、分かってる。
だけど、どうしてももう1度だけ、もう1度だけ、薫と抱き合い。薫と繋がっていたかった。
独りだった世界が、2人になって。
薫が世界の色を教えてくれた。
薫が私色に染まった自分を見せてくれた。
薫が、薫が私が薫色に染まる自分を見ていてくれた。
薫だけが私の支えだった。
泣きじゃくる私を、大きな手で優しく頬を撫でてくれたことも、
笑った私を、可愛いと言ってくれた言葉も、
悲しくなって、薫に冷たい態度をとったあとでも、優しく手を取り合ってくれたことも、
怒って電話にも出なかった私を薫はまるで、自分が悪いと言わんばかりに走って謝りに来てくれたあの姿も、
全部私だけの宝物だった。
薫が死んでしまったら、私は「また、独りになっちゃうよ。薫がいてくれなきゃ嫌だ。薫だけが心の支えなの。薫は私の大事な人だから。かおる……かおる」
「鎖凪、俺はね。鎖凪にはしまわせになって欲しい。鎖凪の幸せこそが俺の幸せなんだ。」
「だったら、だったら、死なないで!薫は私の幸せそのものなんだよ?」
「俺を忘れてよ。お願いだよ。俺は長く生きられないんだから。」
「それでもいいよ。最後の最期まで、私は薫と一緒にいるよ。」
そう言うと、私と薫は優しいキスを交わしたね。
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……私の話はどうだった?
薫はね、今も私の中に眠ってるよ。
薫は、、私の全てだから。
あぁ、今日はやけに雪が綺麗だな。