表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
8/66

No.8 どうしてこうなった?!


朝の爽やかな空気と陽射し。

いつも稽古をする草原にいる。

短めの膝上ワンピースに、刺繍の入った細身のズボン。腰には利便性を追求したアイテムボックス。相棒の宝石付きの杖を持てば、冒険者の完成。

ハーツやユーリ、ジェニーも冒険者スタイルの軽装で、各々の武器を持っている。

いつもと変わらない風景のはずなのに、私は一点を見て頭を抱えてしまう。

視線の先には、笑顔で佇むサンエーリ様とリーフ様。

これには理由があった。

昨日の夜、『一緒に晩餐でも』との手紙を兄様が持ってきて…有無を言わせずにサンエーリ様とリーフ様と兄様の四人で夕食会が開かれた。

その時に、明日の予定を聞かれて『明日は稽古の後に森へ行きます』と、素直に答えたのが間違いだった。


『じゃ、私達も一緒に行ってもいいかな?』


『おっ、いいな!移動中は鍛練出来なかったし、いい運動になるしな』


決定しかけた言葉を何とかかわして、父に助けを求めた結果。


『ティアが一緒なら安心だね。どうせ、オババ様に会いに行くんだろ?』


一切の助けを得られないまま、ご一緒コースまっしぐら。

眩しい笑顔の父様に、ガックリ脱力する私。

オババ様は、暁の森に住む魔女で千里眼を持つと言われている。

だから、呪いにも詳しいから、暗に案内せよとの命令の様に思えたのは…間違いじゃないはず。

内心、父様が狸に見えたのはきっと気のせいだと思いたい。


こうして、今にいたる。

少し離れた場所に大判の布をひいた場所に、用意されているのは温かい紅茶とお菓子。

一応、護衛のハーツ。

そこに座るサンエーリ様とリーフ様。

シールド結界の中で手を振っています。

これに脱力するなって方が無理。


「……ティア様、大丈夫ですか?」


少し離れた場所で心配そうに聞いてきたのは、レイピアを構えていたジェニーだ。


「大丈夫…ちょっと頭がついていかないだけで」


「分かります。現在、僕もそうですから」


「気にするだけ無駄です。ティア様の邪魔をするなんて…殺りましょう」


「ちょっ、待って!私は大丈夫だから!あーと、よし鍛練始めよう!」


「そうですか?ティア様が良いなら…」


冷めた容姿からは想像出来ないような過激な発言をするジェニーに、慌てて止めに入る。

ジェニーは有言実行だからね!

ヤバさ加減はハーツ共に抜きでている。

頭を振って切り替える。


「じゃ、始めようか!」


その掛け声で飛んでくる魔法と剣を、右に左に避けて私も攻撃魔法を撃つ。


「今日の二人へのミッションは…私の持つウォーターボールを消す事!さぁ、頑張って行ってみよう!」


次々と魔法を避けては、三つ、四つと魔法を撃ちつける。

ユーリは魔法で相殺して、ジェニーはレイピアで切りながら攻撃してくる。

いつも通りの稽古を繰り広げる中、私の頭は父に言われた質問が頭をグルグル回っていた。


『強さとはなにか?』


退室しようとした時、父様は私に突然そう問いかけてきた。

これは、ストーリー中盤にヒロインが聞かれる言葉だ。

しかも、兄王子にされる質問であって父王ににされる質問ではない。

ヒロインは゛希望゛だと答えていた。

でも、私は当時微妙にその流れに乗れなかった。

強さは人によって違うから否定はしないよ。

ただ、三十路間近の私からしたら…正直゛希望゛なんてこっぱ恥ずかしい。

いや、小説だからありなのかな?

二次元は、なんでもありだからね。

リアルでは、正解でも゛希望゛なんて口に出来ない。

外見が十五歳でも、中身は前世合わせたら三十路超えてアラフォーだからね。

だから、私は゛人によって違います゛と、遠回しな変化球で乗り切った。

父様が納得したかは別だけど。


パシャンッ!とウォーターボールが弾ける音で、沈んでいた思考が戻ってくる。

あ、鍛練中だった。

無意識に攻撃したり、反射で避けたりしていたらしい。

息を弾ませてる二人に申し訳ない。


「ありがとうございました!」

「ありがとうございました」


「ありがとうございました」


頭を下げる二人に、私も同じ言葉を返して頭を下げる。

手合わせした時の決まり事の一つ。


「私はまだまだですね…」


「ティア様が規格外なんです!今更ですけど、魔法が二つも三つも無詠唱なんて…誰ですか教えた人は!」


反省するジェニーと苦情をもらすユーリ。

その反則技は、先生と編み出した師弟合作で私の自慢の魔法だよ。


「ごめん。ちょっと考え事してて…無意識に反撃とかしちゃった」


「考え事っ!?僕達では役不足なのは分かりますが、鍛練中に考え事なんてしてたら、足元すくわれますよ!」


「以後気をつけるから、その視線は勘弁して…」


「本当ですね?いつも僕達が一緒にいるとは限らないのんですよ!」


首をブンブンと縦に振って、降参を示す。

オカン体質なユーリは、本当に心配性で苦笑してしまう。


「じゃ、もう一本いっとく?今度は気合い入れていくから」


「休ませて下さい…」


「ティア様、申し訳ありません…」


「ジェニー謝らないで。冗談だからね?」


「ティア様の冗談は分かりずらいのですよ!」


「ユーリは冗談も言わないんだもん」


グッと握っいた手を笑顔で開いて振る。

まさか息を弾ませてる二人に、鞭打つわけにいかないしね。

クワッと言い返すユーリ。

毎回いい反応をするのが、実は面白いと思っているのは秘密。


「もう、じゃれてないでこっちに来なさいな」


私達が話していると、ハーツが割って入ってくる。


「ハーツ、果実水ある?」


「僕も同じく。鍛練の後にはサッパリしたモノがいいですよね」


「私は水があるので」


「んもうっ!私は給仕をするためにいるんじゃないのよっ!」


ハーツは言い捨てながらも、用意はしてくれる。

それに小さく笑いながら、王子様達のいる場所に向かう。

迎えてくれた二人は、面白いモノを見つけたように笑顔が輝いていますよ!

自然に視線を反らしながら座ります。


「ティアはすごいね!見ててちょっと感動したよ」


「あ、ありがとうございます…?」


「あぁ、次は俺達と手合わせしないな?」


「いえいえ!私程度ではお二人の相手にはならないと思いますので!」


手をブンブンと振って辞退する。

サンエーリ様もリーフ様も、小説の中ではテラチートだった。

魔導師のサンエーリ様も、剣も騎士に負けない腕前。

リーフ様は、魔術は普通でも剣の腕はピカイチ。

二人とも魔導剣士と言っても過言ではない人達だもの。

私みたいに、剣と魔術を使うと手加減不能になってしまうのとは、えらい違いだよね。

だから、武器を杖にしたんだけど。

魔力も通せて、鈍器としても使える一石二鳥な武器。

うっかり二人に怪我させたりしたら外交問題になりかねない。

そんな面倒はいりませんから!


「そんな事ないと思うけど…」


「まだ、未熟者ですので…ご勘弁下さいませ」


「惜しいけど仕方ないな…サン、次は俺達が手合わせしようぜ」


「そうだね。じゃ、準備運動がてら一本勝負で」


そう言って結界の外に出た二人を、果実水を飲みながら見つめる。

ちょっとだけ、ウキウキしちゃうのはミーハー心がくすぐられてるから。


開始の合図と一緒に、二人は思い思いに攻撃を始める。

魔法が弾けたり剣がぶつかり合う。

右へ左へと流れる動きは剣舞そのもので、美しくもある。

ほへ~と眺めていると、カシャッと剣が弾かれる音で、試合の終わりが告げられる。

勝者はサンエーリ様。

魔法をフェイクに使って、踏み込んで剣を弾き飛ばした。

やっぱり、サンエーリ様は腹黒説が有力で…参謀が得意みたい。


「悔しいけど負けた!」


「私もギリギリだったから、精進しないとダメだね」


動いてた割には、息切れすらない二人は爽やかな笑顔。

まだ高みを目指すなんて…私には無理だから。

鍛練してるのだって、鈍らない様にするためと、新しい魔法の実験のため。

純粋に高みを目指す彼等と、悠々自適な老後を目指す私では…天と地の差があるよね。

不純すぎる自分が、ちょっとだけ悲しいけど改める気はないよ。

生き抜くために必死なんだよ、私は。


「おーい、大丈夫か?」


「うへっ!?」


ぼへ~と呆けていたらしく、目の前でリーフ様が手を左右に振っていた。

色気もへったくれもない声で、我に返った私は仰け反った。

それがいけなかった…。バランスを崩した私の背中にグッと手が添えられて引き戻される。

スッポリと腕に囲まれています?


「ずっと声をかけていたのだけど…驚かせてごめんね?」


甘い声に薔薇の香りに包まれて、前世合わせても経験値の低い私は赤くなったり青くなったり。

サンエーリ様の腕の中で、このイケメンは香りまでイケメンだっ!

なんて、現実逃避しちゃってもいいよね?


「ティア、大丈夫かい?」


「はい、大丈夫ですっ!」


再度問われて私は頷いて、座り直す。

腕が離れていく直前、サンエーリ様が何かを呟いた。

けれど、パニック寸前の私の耳には届かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ