No.7 興味深い珍獣~王子様と珍獣
<サンエーリside>
案内が終わり部屋に戻ると、そこにディルアルはお菓子を摘まみながらいた。
どうやら、フェリオス王の用事が終わったらしいね。
「やぁ、どうだった?僕の白魔女さんは」
確信犯らしい顔で言うディルに、私は苦笑してしまう。
私がティアに興味を持つと分かっていたらしい。
この親友は、勘が良くて困ってしまう。
ソファーに腰かけながら考えたのは、ちょっと変わった王女の事。
魔法を行使した時の綺麗な光景と横顔。
私達に頬を染める訳でもなく、媚びるでもなく。
゛珍獣ですよ?゛なんて、平気で言って笑う彼女は飾っていないはずなのに、私にはしなやかで可憐な野花に見えた。
いい意味で規格外。
一緒にいると楽しくて仕方ない。驚きと笑いの連続に、自分の身分も忘れて声をあげて笑った。
「とっても楽しかったよ。久しぶりに笑わしてもらった」
「そうだな~。あんな安定の笑いを提供はなかなか出来ないぜ?」
「でしょ?あの子は見てて飽きないし、僕はあの子には幸せになって欲しいんだ。今までの分まで…」
「あぁ、あれか…」
「そう。途中で会っただろ、あの女に」
嫌悪感を隠すことなく話すディル。
きっと最悪を想定して、精霊をつけていたのかもしれない。
気がつかなかったのは、悔しいけど…あの状態なら仕方ないと思える。
癇癪を起こす王妃と無抵抗なティア。
頭の良い子だから、一番被害の少ない方法を考えた結果なんだろう。
それを学べるぐらいには、彼女の扱いは雑で劣悪だったんだろう。
一瞬にして可憐な野花が萎れたように佇む姿に、心から苛立ちが募った。
「あれは前からなのかい?」
「産まれた瞬間から。僕と父上が守っても追い付かないくらい、今よりもっと酷かったんだ」
「今よりもって……」
私とリーフは唖然としてしまう。
ディルはお菓子の手を休めると、苦々しく呟く。
「゛平凡姫゛・゛呪われ姫゛。顔が父上やあの女に似ていないから、ずっとあの女は勿論貴族にまで言われていて」
「似てなくても実の母子なんだろ?」
「リーフ、勿論だよ。証人は父上だし僕もすぐに会ったから…でも、あの女は認めなかった」
「自分の子じゃないと?愚かとしか言えないね」
ティアから感じる魔力の波長は、穏やかかつ温かい。呪われた人間のものじゃないのは、゛呪い゛が身近にある自分達だから分かる。
リーフも黒魔女の呪いにさらされている身としては、ティアが呪われ姫と言われている事に苛立っている。
ティアが何をしたのか?
同じく私もモヤモヤしたモノが心を占める。
憤りを感じるのは、どうしてかは分からないけども。
「今はまだマシなんだよ。ティアは自分の力で切り開いてきたんだ。時には薬師だったり、魔導師だったり…見返りなんて求めずにね」
「……それでも、風当たりは強い、と?」
「あの女が牛耳る貴族は、それなりのいい位置にいてね…何かしらしているのに、ティアすら掻い潜るんだよ」
「おいおい、妹になんて事させてんだよっ!いくら魔導師だったとしても…」
リーフの意見に賛成だ。
いくら魔導師だったとしても、姫であるティアが隠密行動をするのは普通あり得ない。
私達の意見に、一呼吸置いてクスッとディルが笑う。
「ティアだから大丈夫。そこらの騎士より強いよ?冒険者レベルならAかな。簡単に殺られないよ」
「ティアは冒険者までやってるのか?!」
「そうだね。始めたのは十歳からで、今では知名度は三本の指に入るよ。だから隠密行動も、案外軽くこなすんだよね」
本当に信頼・安心しているらしく、ディルはクスクス笑いながらお菓子を口に放り込む。
「知れば知るほど興味深いね…」
「あぁ、本当に次に何があるか楽しみになる位にな」
「でしょ?今までのティアの武勇伝聞きたい?もう、すっごくて笑えるのは保証するよ?」
「えぇ、是非聞きたいね。リーフも聞きたいよね?」
「あぁ、もちろん。どうせなら有意義に過ごしたいしな」
そう、と頷いたディルは産まれた時から始まった。
゛私の子じゃないわっ!゛から始まった物語は、鬱々したものかと思いきや…驚きから始まった。教師が叔父上だったとか。
その後、色々やらかしては宰相殿に二人で叱られたらしい。
十歳で叔父上が亡くなると、ティアは他の人とは違う斜め上を行く行動をした。孤児院再建。
その後も冒険者をしながら、薬師の片手間にレース編みやら生活魔法の作製に勤しんでみたり。
父王のお願いで汚職の証拠を集めたり。
普通なら考えられない規格外さ。
でも、何故か悲壮感より爽快感が勝る。
不運としか言えない状況なのに、真っ直ぐに生きるティアを尊敬すらする。
「きっとこれからも、もっとティア面白い事をしてくれると思うよ。僕はね、ティアは゛奇跡゛だと思うんだ」
゛奇跡゛の一言に息を呑む。
奇跡とは、黒魔女の呪いを解くヒントの一つ。
゛月と太陽が奇跡を連れてくる゛
人好きする笑顔で何気なく続ける。
「もしも、本当に奇跡だとしても、ティアの意思を無視して何かしようとしたら…君達でも許さないよ?」
フッと見せた瞳が獰猛に光る。
凍てつくような空気が走ったかと思うと、すぐに霧散していつもの雰囲気に戻る。
「まぁ、君達はそんな人じゃないのは知ってるけどね」
「約束するよ。私達はティアを傷つけないと」
「だな。ティアとは仲良くしたいしな」
「分かってくれて嬉しいよ。ティアにもサンやリーフにも幸せになって欲しいからね」
笑顔にも邪気はなくて、心からの言葉なのが分かる。
ティアが大切なのも、私達を大切に思ってくれているのも。
「私やリーフは幸せになれるだろうか…」
「なれるよ。ティアが大きな壁なんて、ぶち壊してくれるから。 もちろん、僕だって手伝うしね!」
「ぶち壊すって…お前な~」
「えっ、ティアが言っていたんだよ?進路に邪魔な壁があるなら、ぶち壊せばいい!って。ティアらしいでしょ?」
「フフッ、ティアはやっぱりティアなんだね」
私の呟いた言葉に返ってきた言葉は、とてつもなく面白く心強い言葉だった。
゛珍獣ですから゛
奇想天外な思考で私達の目を惹き付けるティア。
会ったらどんな話をしよう?
次はどんな表情が見れるのか?
私は小さな笑みをこぼす。
久方ぶりの平和で温かな時間。
ティアと過ごす時間に思いを馳せながら、冷めたカップを傾けた。