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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
2/66

No.2 ストーリー変更は大変です


月の女神を信仰する、花の都・セレーネ王国。

今の私は、ディアティア・セレーネ。

この王国の王女として、転生していた。

日本の記憶を持ったまま。

だから、すぐに気がついたよ。

天使が言っていた゛よく知る剣と魔法~゛のくだりに。

そりゃ、よく知ってるよ!

私が愛読していた『セレーネ王国の軌跡』の世界なんだから。

しかも、これもまたあるあるで゛悪役゛に転生。

ヒロインをイジメる、双子の姉のポジションに。

産まれてすぐに、それに気がついたのは父と母、兄の会話からだ。

双子なのに似てない姉妹に、母は半狂乱になったらしい。


『こんな子、ワタクシの娘じゃないわ!!』


『やめないか!君の子なのは明らかだ。子供の前で恥ずかしくないのか!』


『そうです!この子はセレーネ王国の一姫で、僕の妹です!』


産まれてフワフワしてた思考が、すぐに引っ張られてパッとある一節が浮かんだ。


『平凡な顔で産まれたのは、私のせいですの?あの子ばかり…父様も母様も!兄様まで!』


悔しげに両親を見る小説のディアティア。

心にあるのは、悲しさか憎悪か。

ただ、産まれてすぐに聞いた言葉は、私の中では『うわー微妙!』としか言えない。

生後数時間とは思えないかもしれないが、それが本心だった。

だって中身は二十九歳だよ?

ただ、別の部屋に寝かされてしばらくすると、焦りに変わった。

少年らしき声が言った『セレーネ王国の一姫』とは…ここが゛セレーネ王国の軌跡゛の世界だと断定している。

産まれてすぐで視界がぼやける中見えたのは、美しい銀髪の男性と金髪の美女。

小さな少年は、淡い青銀の髪だった。

私は眠気に負けそうな頭を、フル回転させて記憶を辿る。

すぐに愕然とした。

全て一致したから。小説の中では兄・ディルアルは十七歳だったけど、色彩はそうそう変化しないだろうし、父も母もそう。

そして、小説の後半に出てきたディアティアの視点の番外編での話。

『貴女みたいな平凡な顔の娘はいないわ!』

そう母に言われて育ってきたからディアティアは、何でも持っている綺麗な妹が憎いと秘密の日記に書き記していた。

だから、奪う側に立つとも。

積み重ねてきた悪事を考えると、同情は出来ないし極論とも思えるけど、実際に自分の立場になってみると…ハードな環境かもしれない。

だって、産まれた瞬間に存在全否定。

ひねくれるなって方が無理だよね。

まぁ、現在の私は思考に没頭出来るぐらいには、ダメージはないけど。

正しくは、ダメージを考えている暇がなかった。

考える事はいっぱいある。

これから平和に生きていくのに、必要なモノは何か?

平凡な顔上等ですよ。人間は顔じゃないのです。

目指せ・平和な老後!

そのために考える。

小説のストーリーは、私達双子の姉妹の婚約者を探すパーティーから始まる。

そこで、ヒロインである妹は色々な面々に溺愛されて、逆ハー状態になる。

それを妬んだ姉は、いつものように嫌がらせをする。

時には、招待された方々を巻き込んで。

ただし、後半はそれらが父にバレて罪を追及される。

ここまでは、日本で発売されていたから分かる。

この後は…発売される前に死亡で想像でしかないけど、姉は良くて身分剥奪か幽閉。

最悪、処刑。

あれ、詰んでない?!ヤバイ、ヤバイっ!

マジで考えなきゃ花の十代で終わる!

天使とご対面は、八十年後ぐらいにして欲しい。

眠気と戦いながら、考えた結果は…独り立ち出来る知識と職を手に入れる。

もちろん、妹イジメもしませんよ。

そんな時間はないから。

それから二年は、ストレスの毎日だった。

食事は百歩譲って我慢するよ。

でも動かしずらい体とすぐ眠くなる体は、本当にストレスになった。

三歳になって、自分でウロウロ出来るようになった時は本当に嬉しかった。

一番確認したかった自分の容姿。

髪はサラサラの淡い青銀色、瞳は金色。毛並みと血統は無駄にいい。

ただ、顔立ちは可もなく不可もなく。普通・平凡・凡庸。

色彩は父に似たらしい。ただ平凡さは隠しきれない。

父は『私の祖母に似てるんだよ』と言って、可愛いがってくれた。

そして、分かる事が日増しに多くなる。

父と母の関係は冷めきっているらしい、とか。

お城で私は゛呪われ姫゛・゛平凡姫゛と呼ばれているとか。

関われば呪われるとか。

妹・ローズニアは、母に猫可愛がりされているとか。

兄は毎日の様に私に会いに来ては、心配してくれた。

と、言うのも私の世話係は、年配の御婆さん一人だけ。

他は噂からなのか寄り付かずに、私は本を読み漁りながら快適なプチ引きこもりを満喫した。

少しでも知識を得るために、兄や父に頼んで本を貸してもらって勉強の毎日。

最初に本を開いて読めた時、チラッと腹黒いの天使の笑顔が浮かんだけど、気にしない事にした。

四歳である事を確信した時は、神様への軽い殺意が沸いた。

地味に過ごそうとしていたのに、私の魔力が高位魔導師以上だと発覚。

発覚の原因が、自分の出来心で空を飛んだ事なのは笑えない。

父と兄は爆笑してたけどね!

五歳で物知りの乳母が亡くなると、私は父に頼んで専属の教師をお願いした。


『私は容姿は平凡なんで結婚でお役には立てません。だから、それ以外でお父様のお手伝いがしたいです。先生をつけて下さい』


父は微妙な表情でいたけど、結局了承してくれ、すぐに手配すると約束してくれた。

五歳の思考じゃないけど、貴方の娘は生きるのに必死なんです!

結婚や可愛い孫は、兄か妹に期待して下さい。


数日後に現れた先生は、父の親友の金髪・碧眼の素敵な紳士でした。

家柄なんかは、スノーリー先生本人が言わなかったので、私もあえて聞きません。

空気は読める子です。

先生は歴史・魔法・薬学・礼儀作法など、色々教えてもらいました。


『誠実さ・優しさ・心の強さ、少しの向上心と好奇心を持ちましょう』


『弱点は弱さではありません。弱点を知らずにいる事が弱さです。諦めずに挑み続ければ、きっと先には素敵な未来が待っていますよ』


先生は最初にそう言って、いつも笑顔で色々な勉強を教えてくれた。

特に力を入れて教えてくれたのは、魔法の使い方や新しい魔法の製作。

薬の作り方や効能。

一般常識を覚えるために、たまに街へお忍びなんかもした。

そのおかげで、十歳で魔導師と薬師の試験をクリアして免許を手に入れた。

独り立ちへの大きな一歩。

でも、一番嬉しかったのは…先生が抱き締めて喜んでくれた事。

それを見届けた様に、先生が空へと旅立ったのは十歳の青の季節。

日本で言えば真夏。

先生は昔から持病を持ち、セレーネ王国で暮らしていたのは療養のためだったらしい。


『愛しい人・ディアティア様。

貴女は笑顔でいて下さい。一人で頑張り過ぎずに、分かち合える友を探して下さい。

貴女は最後で最高の生徒でしたよ。

私はこの五年間幸福に満ちた時間でした。

これからも、私はティア様のそばで一番の味方でいましょう』


手紙に力なく書き記されていた、先生の手紙を握りしめて、私は初めて父や兄の前で号泣した。

ずっと側にいたのに。

何か出来た事があったはずなのに。

これから少しずつ恩返しをする予定だったのに。

のに、のに、のに。

私は思いっきり泣いた。

泣いて泣いて、泣き疲れた頃、先生に恥じない生徒になろうと、先生が言っていた言葉を実行すべく動く事を決意した。


『彼等もこの国の未来を担う、大切な人々なんです。いつか教育が受けられたなら、国はもっと豊かになりますね』


先生は孤児院の訪問をかかさなかった。

時には私を連れても行ってくれた。

先生の夢の一つは、孤児院再建。

教師をつけ、字を覚えるだけでも就職の幅は広がる。

礼儀作法が出来ていれば、女の子ならメイド、男の子なら騎士だって夢じゃない。

先生は国の将来だけでなく、親のいない子達に少しでも明るい未来を願っていた。

それなら、私が代わりに実行する!

すぐに父に相談すると、ある課題がクリア出来たらとの返答をもらった。


一つ、孤児院の子供達と信頼関係をきずく事。

二つ、孤児院の建物の修繕費を半分、私が集める事。


私はそれを呑むことにした。

修繕費は街へお忍びに行った時に見つけた、冒険者ギルドに登録して依頼を受ける。

平行して薬師の仕事と、孤児院訪問をして少しずつ信頼関係を作る。

神様からのギフトであろう、無駄にある魔力と、高い身体能力はおおいに役にたった。

一年、午前は冒険者、午前は孤児院か薬師の日々を過ごした。

姫業を時々こなしながら。

こんなに多忙な十歳はいよね。

睡眠は毎日、四時間。

背が伸びなかったら泣くな…なんて思いながら、日々頑張った。

そして、二年後に課題がクリア出来たと父に報告すると、一連の経緯を聞いて爆笑した。

まぁ、確かにお姫様がする事じゃないよね。

一緒に聞いていた宰相のブロッサムさんは、呆れた後に説教をされました。

多少反省はしましたが、後悔は全くありません。

かくして、孤児院再建は実行されました。

教師の派遣も決まり、いい方に流れが進みました。

私の新たな゛珍獣姫゛や゛魔女゛と、いうあだ名が増えた。

この後は、父のお手伝いで貴族の汚職の証拠を集めたり、現れる暗殺者を生け捕りにしたり。

薬師の仕事に、時々王女業をしたり。

同時期、私に専属の魔導師にと立候補で側近になった物好き、お姉系ハイエルフの美形賢者・ハーツが仲間に加わったり。

時々図書室で会っていた、女嫌いの碧髪の美少年・ユリエルが、宰相さんの次男で後に側近になったり。

孤児院で仲良くなった女の子・ジェニーが、騎士になったり。

誘拐されかけて、犯人を生け捕りにしたり。

色々な事があって、充実した日々を過ごした。

『充実』って言葉は便利だね。

殺伐感が緩和されるから。

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