No.2 ストーリー変更は大変です
月の女神を信仰する、花の都・セレーネ王国。
今の私は、ディアティア・セレーネ。
この王国の王女として、転生していた。
日本の記憶を持ったまま。
だから、すぐに気がついたよ。
天使が言っていた゛よく知る剣と魔法~゛のくだりに。
そりゃ、よく知ってるよ!
私が愛読していた『セレーネ王国の軌跡』の世界なんだから。
しかも、これもまたあるあるで゛悪役゛に転生。
ヒロインをイジメる、双子の姉のポジションに。
産まれてすぐに、それに気がついたのは父と母、兄の会話からだ。
双子なのに似てない姉妹に、母は半狂乱になったらしい。
『こんな子、ワタクシの娘じゃないわ!!』
『やめないか!君の子なのは明らかだ。子供の前で恥ずかしくないのか!』
『そうです!この子はセレーネ王国の一姫で、僕の妹です!』
産まれてフワフワしてた思考が、すぐに引っ張られてパッとある一節が浮かんだ。
『平凡な顔で産まれたのは、私のせいですの?あの子ばかり…父様も母様も!兄様まで!』
悔しげに両親を見る小説のディアティア。
心にあるのは、悲しさか憎悪か。
ただ、産まれてすぐに聞いた言葉は、私の中では『うわー微妙!』としか言えない。
生後数時間とは思えないかもしれないが、それが本心だった。
だって中身は二十九歳だよ?
ただ、別の部屋に寝かされてしばらくすると、焦りに変わった。
少年らしき声が言った『セレーネ王国の一姫』とは…ここが゛セレーネ王国の軌跡゛の世界だと断定している。
産まれてすぐで視界がぼやける中見えたのは、美しい銀髪の男性と金髪の美女。
小さな少年は、淡い青銀の髪だった。
私は眠気に負けそうな頭を、フル回転させて記憶を辿る。
すぐに愕然とした。
全て一致したから。小説の中では兄・ディルアルは十七歳だったけど、色彩はそうそう変化しないだろうし、父も母もそう。
そして、小説の後半に出てきたディアティアの視点の番外編での話。
『貴女みたいな平凡な顔の娘はいないわ!』
そう母に言われて育ってきたからディアティアは、何でも持っている綺麗な妹が憎いと秘密の日記に書き記していた。
だから、奪う側に立つとも。
積み重ねてきた悪事を考えると、同情は出来ないし極論とも思えるけど、実際に自分の立場になってみると…ハードな環境かもしれない。
だって、産まれた瞬間に存在全否定。
ひねくれるなって方が無理だよね。
まぁ、現在の私は思考に没頭出来るぐらいには、ダメージはないけど。
正しくは、ダメージを考えている暇がなかった。
考える事はいっぱいある。
これから平和に生きていくのに、必要なモノは何か?
平凡な顔上等ですよ。人間は顔じゃないのです。
目指せ・平和な老後!
そのために考える。
小説のストーリーは、私達双子の姉妹の婚約者を探すパーティーから始まる。
そこで、ヒロインである妹は色々な面々に溺愛されて、逆ハー状態になる。
それを妬んだ姉は、いつものように嫌がらせをする。
時には、招待された方々を巻き込んで。
ただし、後半はそれらが父にバレて罪を追及される。
ここまでは、日本で発売されていたから分かる。
この後は…発売される前に死亡で想像でしかないけど、姉は良くて身分剥奪か幽閉。
最悪、処刑。
あれ、詰んでない?!ヤバイ、ヤバイっ!
マジで考えなきゃ花の十代で終わる!
天使とご対面は、八十年後ぐらいにして欲しい。
眠気と戦いながら、考えた結果は…独り立ち出来る知識と職を手に入れる。
もちろん、妹イジメもしませんよ。
そんな時間はないから。
それから二年は、ストレスの毎日だった。
食事は百歩譲って我慢するよ。
でも動かしずらい体とすぐ眠くなる体は、本当にストレスになった。
三歳になって、自分でウロウロ出来るようになった時は本当に嬉しかった。
一番確認したかった自分の容姿。
髪はサラサラの淡い青銀色、瞳は金色。毛並みと血統は無駄にいい。
ただ、顔立ちは可もなく不可もなく。普通・平凡・凡庸。
色彩は父に似たらしい。ただ平凡さは隠しきれない。
父は『私の祖母に似てるんだよ』と言って、可愛いがってくれた。
そして、分かる事が日増しに多くなる。
父と母の関係は冷めきっているらしい、とか。
お城で私は゛呪われ姫゛・゛平凡姫゛と呼ばれているとか。
関われば呪われるとか。
妹・ローズニアは、母に猫可愛がりされているとか。
兄は毎日の様に私に会いに来ては、心配してくれた。
と、言うのも私の世話係は、年配の御婆さん一人だけ。
他は噂からなのか寄り付かずに、私は本を読み漁りながら快適なプチ引きこもりを満喫した。
少しでも知識を得るために、兄や父に頼んで本を貸してもらって勉強の毎日。
最初に本を開いて読めた時、チラッと腹黒いの天使の笑顔が浮かんだけど、気にしない事にした。
四歳である事を確信した時は、神様への軽い殺意が沸いた。
地味に過ごそうとしていたのに、私の魔力が高位魔導師以上だと発覚。
発覚の原因が、自分の出来心で空を飛んだ事なのは笑えない。
父と兄は爆笑してたけどね!
五歳で物知りの乳母が亡くなると、私は父に頼んで専属の教師をお願いした。
『私は容姿は平凡なんで結婚でお役には立てません。だから、それ以外でお父様のお手伝いがしたいです。先生をつけて下さい』
父は微妙な表情でいたけど、結局了承してくれ、すぐに手配すると約束してくれた。
五歳の思考じゃないけど、貴方の娘は生きるのに必死なんです!
結婚や可愛い孫は、兄か妹に期待して下さい。
数日後に現れた先生は、父の親友の金髪・碧眼の素敵な紳士でした。
家柄なんかは、スノーリー先生本人が言わなかったので、私もあえて聞きません。
空気は読める子です。
先生は歴史・魔法・薬学・礼儀作法など、色々教えてもらいました。
『誠実さ・優しさ・心の強さ、少しの向上心と好奇心を持ちましょう』
『弱点は弱さではありません。弱点を知らずにいる事が弱さです。諦めずに挑み続ければ、きっと先には素敵な未来が待っていますよ』
先生は最初にそう言って、いつも笑顔で色々な勉強を教えてくれた。
特に力を入れて教えてくれたのは、魔法の使い方や新しい魔法の製作。
薬の作り方や効能。
一般常識を覚えるために、たまに街へお忍びなんかもした。
そのおかげで、十歳で魔導師と薬師の試験をクリアして免許を手に入れた。
独り立ちへの大きな一歩。
でも、一番嬉しかったのは…先生が抱き締めて喜んでくれた事。
それを見届けた様に、先生が空へと旅立ったのは十歳の青の季節。
日本で言えば真夏。
先生は昔から持病を持ち、セレーネ王国で暮らしていたのは療養のためだったらしい。
『愛しい人・ディアティア様。
貴女は笑顔でいて下さい。一人で頑張り過ぎずに、分かち合える友を探して下さい。
貴女は最後で最高の生徒でしたよ。
私はこの五年間幸福に満ちた時間でした。
これからも、私はティア様のそばで一番の味方でいましょう』
手紙に力なく書き記されていた、先生の手紙を握りしめて、私は初めて父や兄の前で号泣した。
ずっと側にいたのに。
何か出来た事があったはずなのに。
これから少しずつ恩返しをする予定だったのに。
のに、のに、のに。
私は思いっきり泣いた。
泣いて泣いて、泣き疲れた頃、先生に恥じない生徒になろうと、先生が言っていた言葉を実行すべく動く事を決意した。
『彼等もこの国の未来を担う、大切な人々なんです。いつか教育が受けられたなら、国はもっと豊かになりますね』
先生は孤児院の訪問をかかさなかった。
時には私を連れても行ってくれた。
先生の夢の一つは、孤児院再建。
教師をつけ、字を覚えるだけでも就職の幅は広がる。
礼儀作法が出来ていれば、女の子ならメイド、男の子なら騎士だって夢じゃない。
先生は国の将来だけでなく、親のいない子達に少しでも明るい未来を願っていた。
それなら、私が代わりに実行する!
すぐに父に相談すると、ある課題がクリア出来たらとの返答をもらった。
一つ、孤児院の子供達と信頼関係をきずく事。
二つ、孤児院の建物の修繕費を半分、私が集める事。
私はそれを呑むことにした。
修繕費は街へお忍びに行った時に見つけた、冒険者ギルドに登録して依頼を受ける。
平行して薬師の仕事と、孤児院訪問をして少しずつ信頼関係を作る。
神様からのギフトであろう、無駄にある魔力と、高い身体能力はおおいに役にたった。
一年、午前は冒険者、午前は孤児院か薬師の日々を過ごした。
姫業を時々こなしながら。
こんなに多忙な十歳はいよね。
睡眠は毎日、四時間。
背が伸びなかったら泣くな…なんて思いながら、日々頑張った。
そして、二年後に課題がクリア出来たと父に報告すると、一連の経緯を聞いて爆笑した。
まぁ、確かにお姫様がする事じゃないよね。
一緒に聞いていた宰相のブロッサムさんは、呆れた後に説教をされました。
多少反省はしましたが、後悔は全くありません。
かくして、孤児院再建は実行されました。
教師の派遣も決まり、いい方に流れが進みました。
私の新たな゛珍獣姫゛や゛魔女゛と、いうあだ名が増えた。
この後は、父のお手伝いで貴族の汚職の証拠を集めたり、現れる暗殺者を生け捕りにしたり。
薬師の仕事に、時々王女業をしたり。
同時期、私に専属の魔導師にと立候補で側近になった物好き、お姉系ハイエルフの美形賢者・ハーツが仲間に加わったり。
時々図書室で会っていた、女嫌いの碧髪の美少年・ユリエルが、宰相さんの次男で後に側近になったり。
孤児院で仲良くなった女の子・ジェニーが、騎士になったり。
誘拐されかけて、犯人を生け捕りにしたり。
色々な事があって、充実した日々を過ごした。
『充実』って言葉は便利だね。
殺伐感が緩和されるから。