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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
11/66

No.11 新たな登場人物は仕事馬鹿です


小走りに医務室に急ぐ。

廊下はパーティーとは違うざわめきに包まれていた。

廊下を曲がれば、すぐ医局の医務室という所で一旦足を止めて深呼吸する。

華やかなドレスは、場違いだけど第二騎士の面々は私を知っているから問題ない。

医局の医師も、お茶を飲みながら薬や治療について語り合えるので大丈夫。

二回深呼吸をして、中に入ると見慣れた…正確には小説を読んでて知っている人物・侯爵家次男、イルク・ナルサスと目が合う。

藍色の髪に同系色の瞳の綺麗な顔には、眉間にしわが寄っている。

治癒魔法の研究者として、手伝っているらしく剣呑とた目付き。


『場違いな小娘が邪魔をするな』


そう言われている気がして、仕方ないよな~と思いながら医局長を探す。

視線が痛いけど無視だよ、無視!

華麗なスルーを決めてみる。

すぐに、視線が合って医局長は細い目を更に細めて手招き。

白髪のダンディーな医局長は、簡単に説明してくれた。


「青き草原で魔獣にやられたらしい。氷上ウルフが群れで現れたとか」


「氷上ウルフが??」


氷上ウルフとは、山頂近くの寒い場所に住む大きなウルフで比較的温厚のはずなのに。

山を下りるのは、年に一回あるかないかのはずだ。

ましてや、群れで行動するなんて…稀であり人間に攻撃なんて、相当刺激しなきゃあり得ない。

思考が沈んで行きそうになって、むむと眉間にシワが寄る。


「悪いが先に治癒魔法頼めなんかい?ウルフの調査はその後だ」


「そうですね。じゃ、私は重症な方から診ていきますね」


ウルフを頭から追い出して腕まくりをすると、顔見知りの女性医師が慌ててエプロンを差し出してくる。

優しい配慮に感謝しながら、重症な人のベットに向かう。

重症者は三人。どの人も顔は知ってる。

話した事はなかったけど。

まずは一番危なそうな少年から。

足から出血と骨が少し見えている。


「ちょっと違和感あるかもしれませんけど、少しの我慢ですからね?」


さすが騎士と言うだけあって、少年は青白い顔で苦痛に耐えながら頷く。

歯を食いしばる少年の足、膝より下の傷の部分に手を軽くあてる。


「消毒」


小さく呟くと小さな光の粒が降る。

見つめながら集中していると、傷が綺麗になったのが分かった。


「血管結合・筋肉再生」


また光の粒が降る。

同時に二つの作業をする。

傷を塞ぐ場合、血管を繋ぐのと一緒に肉を再生させなきゃ大変な事になる。

間違えてしまえば、動かなくなる事もあるから大変。

慎重に魔力を送り込む。

前世で人体を多少知っていた程度で、ここまで出来るのは魔法の恩恵。

この世界の魔法は、イメージ重視だから私でも役に立てている。

イメージは前世の溢れる情報と、オタクの知識で死角なし。

本当に魔力がなきゃ、何も出来ない出来損ないだけどね。

なんて、少し考えて落ち込んじゃう。

少年の顔が驚きの色に染まっている。

私は構わずに最後の仕上げ。


「サーチ」


光の粒が少年を包むのを、頭から足までをゆっくり視線をずらしていく。

サーチを使えば悪い部分が、赤い光で分かる。

数分見つめて息を吐く。

全身が淡い青色の膜に包まれていたら、治療完了。

後は体力回復と血液増強剤で大丈夫。


「あ、ありがとうございます!」


「どういたしまして。でも、まだ動くのはダメですよ?ハーツが薬を持ってきますから、飲んでくださいね」


「はい!本当に良かった…」


目に涙を溜めているのは、見なかった事にしよう。

少年の表情を見て、私は安堵の笑みを浮かべる。

純粋な感謝の言葉は、何よりのご褒美だと思う。

さて、次は…と視線を巡らせるとピタッと藍色の瞳と目が合う。

その瞳が先程とは違って、好奇心が見え隠れしている。

一瞬、ゾワゾワしてフリーズしていると、靴音を立てずに近寄ってきたよ。

なんで?!ここでイベントらしきものはなかったはず。

そもそも、今の状況がイレギュラー。

誰か説明プリーズ!


「今のは?」


「はぁ?」


会話が成り立ちません。

見ず知らずの人物…いや、知ってはいるけど、単語で会話なんてどんな嫌がらせだよ!

通訳はいないの!?


「だから、今のはなんだ」


今の……って、治癒魔法の事かな?

それ以外思い当たらないし。

きっと間違いはないはず。

これで間違えたら恥ずかしいけどね!


「治癒魔法を使いましたが、なにか?」


「あれは古代魔法だろ」


「そうなんですか?それより、治療したいのですが…」


まだ患者さんが二人いるんだよ。

空気読んで、仕事馬鹿さん。

ふむ、と納得したように頷きます。

これは治療の続きをしていいと言う事だよね?

うん、深く考えるのは辞めよう。

頭を切り替えて、次の患者さんに向かおうとした時。

ドンッと衝立を倒す音がして、振り返ると腕に包帯を巻かれた人がこっちを睨み付けていた。


「俺は伯爵家の人間だぞ!そんな平民は後だろ!俺を先に治療しろよ」


憤慨した様子の伯爵家のお坊ちゃんは、見慣れない顔から新人さんみたい。

ここ数年隠密行動や魔獣の抜刀でご一緒した人達は、私が誰かを知っているし。

何より第二騎士団は、実力重視の集まりであり身分は塵ほども考慮されない組織。

だから、身分で騒ぐのは新人か馬鹿のどっちか。


「早くしろよ!俺を待たせる気かっ!」


「治癒魔法は重症者が優先です。平民だろうと、命の重さは変わりません。黙って順番を守って下さい」


「平民より俺の命の方が重いだろ!」


「私には身分で命の重さが変わることはありません。腕の切傷程度で喚く軟弱者には、第二騎士は勤まりませんよ」


これで話は終わりと、私は次の患者さんと向き合う。

新人の馬鹿は、年配の医師に引きずられて行ったみたい。

静かになって何よりだ。

次の患者さんは意識はあるものの、腕が食いちぎられている青年。

苦痛に顔を歪めていた。

先程と同じ様に、慎重に治癒魔法をかけていく。

真横には仕事馬鹿さん。

ガン見ですよ、怖いですよ!

治癒魔法を慎重に行使しながらも、視線が気になっちゃう。

サーチを終わらせた時には、違う緊張からどっと疲れた…。

マジでどうしたんですか、仕事馬鹿さん!


「実に興味深い!」


「はぁ…そうでしょうか?」


「是非、人体実け…いや、研究に協力して欲しい」


ぼかし切れてないよ。

はっきりと、人体実験って聞こえました。

真顔でなんて事いってんだ、この人!

私は顔を左右にブンブン振る。

ここにもあったのか、死亡フラグ!


「遠慮します!」


「じゃ、嫁になるか?」


「はぁ?!」


意味不明。

この仕事馬鹿さんは、何を言っちゃっているんでしょうか?!

どの話の流れで、じゃ、嫁になるか?の発言が出たんだろう?

もはや、摩訶不思議すぎてドン引き。

よし、これは聞かなかった事にしよう。

最後の患者さんの治療に専念するしかない。

仕事馬鹿さんをスルーして、最後の患者さんに治癒魔法をかける。

作業手順は一緒。消毒して、骨をくっつけて、筋肉と血管の再生。

時間にして数分だけど、地味に魔力と気を使うからそれなりに疲れる。

その間も仕事馬鹿さんは、ぴったり張り付いてて気が抜けない。


「重症者はこれで大丈夫だと思いますよ」


「ありがとう。ティア姫かいなかったら…若者の未来はなかっただろうからな」


医局長に報告すると、安堵の表情をみせて顔を綻ばせる。

好々爺の顔の医局長に言われると、嬉しくて私も顔が綻ぶ。


「…姫??あのディアティア姫なのか?」


「えぇ、一応…」


「知らんかったのか?稀代の白魔女と言われているのが、ディアティア姫だぞ」


「そんな大それた二つ名は、過大評価ですから!私は私の出来る範囲で、お手伝いしているだけですから!」


慌てて訂正する。

私はある程度の傷は治せても、部位が存在している場合が精々。

部位がない場合は、私になす術はない。

治癒魔法は、万能じゃないから。

今回は、筋肉再生が出来る範囲だったから、上手くいっただけ。


「助かっておるのは事実。私達にあの傷を治すのは不可能だあらの。軽傷者の治癒が精一杯だ」


「…聞いていた話と違う」


「聞いていた話とは?」


医局長が首を傾げる。

私はだいたいが想像出来るので、苦笑いしてしまう。

ナルサス侯爵家は、前当主さんとは親交はあるけど現在当主さんとは、薬師として話した程度。

だから、息子のイルクさんとは初対面。

ただ家に帰らずに、仕事三昧・引きこもりの彼が噂を知っているのに、正直驚いたけど。

彼は私をマジマジと見て、顔を険しくさせる。


「我が儘三昧の醜女。ひと度関わると呪われる、と」


「まぁ、噂なんぞはそんなもんじゃ。呪いが本物なら、我々は生きてないからの」


「そうですね~。まず呪いが本物なら父様や兄様が餌食になってますって!二人とも毎日、顔を会わせてますから」


軽く笑い飛ばしていると、グッと腕を掴まれて真顔のイルクさんが呟く。


「根拠のない噂をそのままにして、悔しくないのか?」


「悔しくはありませんよ。分かる人は分かってくれてますから。あだ名や噂程度で、私の生き方は変わりませんし、慣れました」


これは虚勢を張っている訳でもなく、ごく自然に思えたこと。

半分は、振り回されるのを避けるための処世術ともいえる。

だって振り回されていたら、死亡フラグが乱建ちしするしね!


「ティア姫はそうゆう子なんじゃよ。求めるのではなく、惜しみ無く分け与える。昔からそうだった」


うーん、こっぱ恥ずかしい。

誉められ慣れてない私しとしては、穴があったら入りたい。

これは、逃げるが勝ちだね。

でも、その前に…魔力を手に練り込んで完成したら手を上に上げる。


「ヒール」


その言葉と同時に、室内に光の粒が降り注ぐ。

拡張型ヒールは、室内の患者さんに降り注いで、少しすると歓声が上がる。

単独の治癒魔法と拡張ヒールでは、使う魔力量が違う。

多少消耗が激しい拡張ヒールは、歓声に、包まれて一安心。


「無理せんでも…」


「大丈夫ですよ。私の余力でやった事ですから」


「それでもじゃ。うら若き乙女に、無理は禁物じゃぞ?」


「ハハハ、善処します。では、私は失礼しますね」


エプロンを外して笑顔で退室の準備をする。


「ティアちゃん、エプロン受けとるわ。お疲れ様」


「ナノハさん、ありがとうございます」


ブロンドの髪をなびかせて現れたのは、唯一の女医師ハルク子爵家の三女の美人さんで、面倒見のいいお姉さん。

たまに時間があれば、お茶をしては薬師談義に花を咲かせている。

唯一、私の女の子の友人だ。


「また時間空いたらお茶しましょうね!」


「是非!楽しみにしていますね」


笑顔で約束をして退室すると、グッと腕を掴まれて振り返る。

嬉しくないデジャブ。


「返事を聞いて」


「パーティーに戻らなくてはいけないので」


戻る気なんて更々ないけどね。

言い訳にしては上出来だよね?

ユーリはずっと無言で近くにいてくれるけど、無言だから余計に突き刺さる視線が痛いです。

空気になるならなりきって欲しいと思うのは、贅沢な悩みでしょうか?


「では、後日改めて返事を聞かせてくれ」


イエスともノーとも言わずに、曖昧に笑ってスルッと腕の拘束が緩んだのと同時に、一礼して退室する。

なぜか続くイレギュラー。

死亡フラグがゴロゴロ転がってる気がして、大きな溜め息を吐き出す。

ユーリは何かを言いたげな顔をして、私の後を追ってきた。

うーん…イレギュラーに振り回されないように、気をつけなきゃ。

心を新たかに手を握りしめた。

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