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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
10/66

No.10 birthdayは波乱の予感


暁の森から帰宅した次の日。

とうとう誕生日当日になった。

ついつい薬の調合で寝不足気味の私は、窓の前で大きく伸びをする。


「眠いけど…今日はしっかりしなきゃ!」


どこに死亡フラグが隠れているか分からないしね。

とりあえずは、このイベントを無事にクリアしたら…死亡フラグは遠退く。

そのためには、隙を見せる訳にはいかない。

軽く体を伸ばした後。

果実水を飲んで一息。

気合いを入れ直さなきゃダメだ!

パチッを両頬を叩いて、気分を入れ換えていると、ドアのノック音と共にハーツが顔を見せる。


「ティーちゃん、おはよう♪」


「おはよう。今日は早くない?」


「だって今日は婚約者候補が集まるんでしょら?パシッと綺麗にしなきゃ!」


「…ほどほどでお願いします…本当に!」


「えー!…まぁ、でも長い付き合いになるのに、顔面だけに惚れられても大変だものね~?」


納得顔のハーツに、私は苦笑いで頷く。

化粧は本当に化けるんだよ?

凡人顔の私だって、それなりのお姫様にしちゃうんだから。

ハーツの化粧は魔法だと思う。

だから、化粧した顔に惚れられても…ねぇ?


「じゃ、簡単にオイルマッサージと薄い化粧で今回は勘弁してあげる!」


「オイルマッサージ必要?!」


「それは譲らないわよ!気合い入れてマッサージしちゃうんだから」


「…了解です」


オイルの瓶を片手に譲らないハーツに、負けるのは定番化している気がする。

着飾る事に並々たらぬ執念を燃やすハーツに、勝てた試しがないのは…ズボラだからなのか。

うん、最初から色々と放棄してる私だから仕方ない。

準備を始めたハーツをしりめに、私は溜め息を吐き出しながら指示された様に座り直す。


「昨日はちゃんと寝ったの?」


「お兄様に心配かけるのは忍びないし、一応寝たよ?」


「これを期に、二時間睡眠なんて止めてちょうだい。心配でハゲるわよ。アタシをハゲさせないで欲しいわ」


「…ハゲはキツいね、ハゲは。」


冗談じゃない。目が笑ってないし。

うん、気を付けなきゃ。

魅惑と言われている、筆頭魔導師がハゲたら洒落にならない。

今日も三時間睡眠だったのは、秘密にしておこうと思います。


そんな事を考えながら、ハーツの思うがままにマッサージに薄い化粧がほどこされていく。

白百合に近い香油の香りに包まれながら、次ぎは着替えだ。

着替えは父様のメイドが手伝ってくれて、なんとか淡い空色のふんわりドレスに着替えた。

髪型は半分を複雑に編み込んで生花を飾る。

全てが完成された時には、私は疲れから意識が遠くなっていた。


「まぁまぁね。いじり足りないけど!」


「ご勘弁を!」


「今日は勘弁してあげるわ。いい男ゲットしてきなさいよ?くだらない相手なら、あたしが吊し上げるんだから!」


「ゲットね…無理じゃない?」


どう考えてもローズニアに勝てないし、挑もうとも思わない。

今日の目標は、あくまでも目立たずに切り抜ける事でだから。

目立つなんて、死亡フラグが立つ!


「まぁ、最悪売れ残ったらあたしがもらってあげるわ。だからいつも通りにしてなさいな」


「ありがとう…頑張ります?」


なんとも微妙な励ましをもらって、私は会場に向かった。


会場は花があふれて煌びやかに整えてあった。

私とローズニアは、少し高い位置に用意されている椅子に座りながら周囲の喧騒に耳を傾ける。

もちろん、私の背後には筆頭魔導師であるハーツと側近であるユーリが立っている。

ローズニアには、最近お気に入りな騎士が立っているみたい。


ざっと見渡して三十人ぐらい。

他国の王族から貴族までだとか。

小説の知識としては、だいたいが次男坊やら三男が多いのは…セレーネ王国の立ち位置が分かる。

大きな国ではないけど、国としては繋がりを持ちたい。

うん、陰謀が渦巻いているね。

大変ご遠慮したいです。


「一緒に祝ってやって欲しい。二人の姫の誕生日を。そして、皆にも楽しんでくれると嬉しい。乾杯!」


父様が宣言すると皆さんも、グラスを片手に掲げる。

これから本当にストーリーが始まると思うと、心臓がギュッとなる。

手を握り直して、ふぅぅと息を吐く。


肩をポンッと叩かれて、顔を上げるとお兄様が微笑んでいた。


「気楽に楽しんでおいで。僕が見ててあげるから。余計なゴミがいたら助けるから安心して?」


「…お兄様、ゴミはさすがに…でも心強いです」


「でしょ?ほら、何時もみたいに笑って」


「はい、ありがとうございますお兄様」


お兄様のお茶目さに救われましたよ。

縮こまっても仕方ないよね。

この中で、妹に惚れるのは二人。

うちの国の仕事馬鹿の侯爵家次男。

深い藍色の髪に同系色の瞳。

繊細そうな顔立は綺麗なのに、仕事馬鹿で魔術馬鹿の残念な人。

もう一人は、隣国の貴族。

赤い髪に緩い癖毛を背中に流したチャラ男。

涼しげな目もとと細めでありながら、筋肉のある人で、女の子を見たら声をかけずにはいられない残念仕様。

でも、どちらの人物も姉を断罪する場面にいたから油断大敵だよね。


下に降りるとローズニアは大勢に囲まれながら微笑んでいた。

勝ち誇った様に見えたのは、目の錯覚だといいな…。


「可愛い白魔女さん、こんにちは」


「ドレス姿も様になってるじゃないか」


振り返るとサンエーリ様とリーフ様が、藍色の正装姿で悪戯っぽく微笑んでいた。

眩しいくらいの正装姿に、ちょっとだけときめいたのはバレてないはず。

公私はしっかり別けなきゃダメ。

しっかりしないと、父様の顔に泥を塗ることなるし。


「ありがとうございます。サンエーリ様もリーフ様も素敵ですよ?」


「ありがとう。私はこのいう場はあまり好きじゃないんだけどね…」


「分かる。しがらみが面倒だしな…いつもなら、早々にトンズラするな」


「私もです。適当に食べて逃げるんですけど、今日ばかりは…ちょっとマズイかと」


今日はあくまで私とローズニアの誕生日パーティー。

主役が逃げていいものか?

答えは否だろうね。

心では今すぐトンズラしたいけど。


「大丈夫だよ。私達が一緒にいれば、厄介な事にはならないと思うし」


「そうだな。サンは腐っても王子だから、差し置いて押してくるヤツはある意味馬鹿か猛者ぐらいだろうしな」


「腐ってるだなんて酷いな。でも、壁になれるなら幸いかな」


クスリと笑ったサンエーリ様は、今日も甘い笑みを浮かべている。

甘い、甘ったるくて困ってしまう。

誰もいなかったら、ジタバタするくらい。


「さぁ、まずは誕生日おめでとう」


「おめでとう、十五歳だったよな?俺達と二つ違いか」


「そうですね。なんだか今まで本当に早かったです…」


リーフ様がそう言うと、私の頭の中で色々な事が思い出される。

先生との出会いと別れ。

孤児院再建、冒険者と薬師の生活。

父様のお手伝い。

考えながらも前だけ見て生きてきた。


「そうだよね。ティアはいつも頑張っているもんね」


「え?」


「この間、ディルから聞いたんだよ。ティアの今までの活躍を、な」


「えー!?」


口に手を当てて大声にしなかった自分を誉めてあげたい。

マジでお兄様、何してくれちゃってんですか?!

何故か恥ずかしい。

別に悪いことはしてないけど、恥ずかしいモノは恥ずかしい。

サクセスストーリーは恥ずかしくない人はいないはず!

顔に熱くなるのを感じながら、口をパクパクさせていると、リーフ様とサンエーリ様は小さく笑う。


「恥ずかしがるティアも可愛いね」


「なんか新鮮だよな…うん、今までで一番可愛い」


うぅぅ…余計に顔が熱くなる。

今、確実に真っ赤になっているよね。

可愛いなんて、言われなれてないから恥ずかしいし、くすぐったいしで…どうしていいか分からない。


「慣れてないので、ほどほどでお願いしたいします!」


「本心だよ?」


「お世辞は好かないからな」


誉め殺しですよ。

私、墓穴掘ってる気がする。

ここは話を変えてしまう。

羞恥心でメンタルを削られる前に。

話題を考えていると、カツカツとヒールの音を響かせる人物…ローズニアの登場で、軽く目眩に襲われそうになる。

今日も深紅のドレスに、濃い香水に包まれる。


「サンエーリ様、お姉様と話すよりワタクシとあちらでお話しでもいかがかしら?」


自信満々に悠然と頬笑むローズニアは、断られるとは思ってないらしい。

サンエーリ様は、微笑んだまま言葉を口にする。


「いや、結構。ローズニア姫と話したがっている人達がいるみたいだし、遠慮させてもらうよ」


「そんな事ありませんわ!ワタクシはサンエーリ様とお話しがしたいです!他の方々なんて、どうでもいいですわ」


あちゃー…言い切ってしまった。

どうしてくれよう、この頭痛の種は。

招待した側としても、国の王女としてもこの発言は頂けない。


「ローズニア、発言には気を付けて」


「なんですの?ワタクシが何かしたと言うの?!言いがかりですわ!」


キッと睨みつけてくるローズニアに、私は溜め息を吐き出してしまう。

今までで何を学んできたのかな…。

私達、王族は国の顔だったりするのに。

発言一つで、国が簡単に戦争になるのも当たり前で。

だから、しっかり学び、戒めなきゃダメなのに。


「サンエーリ様、リーフ様。お見苦しい所をお見せして申し訳ありません」


「なんなのよ!ワタクシはただ、サンエーリ様とお話しがしたいだけですわ!見苦しいのは、貴女の存在でしょ!」


頭を下げる私の横で、ローズニアが癇癪を起こして私を罵倒する。

私の感想としては、残念すぎる妹で申し訳なくて。


「ティア、頭を上げて。ティアは悪くないのだから」


「そういう訳にはいきません。私は腐ってもこの国の王女で、ローズニアは妹ですから」


「なんなの!?ワタクシがサンエーリ様と話すのが、そんなに気にいらないの?貴女なんて、このパーティーのオマケでサンエーリ様に相応しくないわ。ねぇ、サンエーリ様?」


ローズニアはサンエーリ様の腕にしなだれるように、腕を絡ませようとした。

そう、しようとした。

しかし、サンエーリ様は半歩下がってスルッとかわすと、冷めた目でローズニアを見る。


「私に相応しいか、そうじゃないかは私が決めるよ。ローズニア姫、貴女は少し考えを改めた方がいい。貴女は王女なのだから」


「…そんな…ワタクシは…ただ、他の誰でもないサンエーリ様と仲良くなりたかっただけですわ」


ローズニアが目を潤ませて、サンエーリ様を見上げる。

今までの相手なら、これで許されてきただろうけど…サンエーリ様の目は、更に興味がない冷めた目でローズニアを見ている。

どうやら、ローズニアは小説のヒロインみたいにはなれないみたい。

確かに、こんな残念なヒロインはいないよね…。


「私は己の立場や責任を理解出来ない人間とは、仲良くなりたいと思わない」


「ワタクシは…」


それっきり、ローズニアは潤んだままの目でサンエーリ様を見つめている。

ただ、サンエーリ様の反応は変わらない。

さて、どうしようかこの空気。

父様や宰相さんの頭痛の種は、 まったく反省をしてないようです。

死亡フラグの前に、これをなんとかしなくてはダメかもしれない。


「あの」


「ディアティア様、ちょっとお話しが…」


私の言葉を遮ったのは、焦った様子の見慣れた第二騎士のグレックだった。

鈍い金髪は撫でられているものの、この場には微妙に合わない。

碧を貴重とした騎士服も、少し埃っぽい感じだ。

父様の手伝いで誰かと組む時は、決まって第二騎士の面々と一緒だった。

だから分かる。緊急事態なんだって。


「救助?特攻?」


「救助を…申し訳ありません。こんな日に…でも、仲間を助けて頂きたいのです!」


真剣な瞳で見つめられて、私は父様の方に視線だけを向ける。

父様は目が合うと、小さくだけどしっかり頷いてくれる。


「行きます。グレック、先に戻って医局に知らせて下さい。ハーツ、薬を持ってきて。ユーリは一緒に」


「ありがとうございます!では失礼します」


胸に手を当てて一礼した後、すぐに立ち去るグレックを見送って、私はサンエーリ様とリーフ様に頭を下げる。


「うちの騎士が礼を欠いた事、深くお詫び申し上げます。そして、私がこの場を辞する事お許し下さい」


「緊急事態なんでしょ?気にしてないよ」


「そうだぜ。人の命がかかってんだからな」


「ありがとうございます。またお話し出来る時を楽しみにしてます。では、失礼します」


優雅になるように一礼して、早足で踵すを返す。

心にあるのは、燻るような不安と焦り。

こんなイベントなかったのに。

ストーリーは変わってしまっている。

私の預かり知らぬところで。

石畳の廊下を小走りしながら、燻る気持ちに蓋をして医局の医務室急ぐ。

願わくば、変なイベントが発生しませんように…。




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