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Delete×Dreamer  作者: あまぎごえ
消失の章
2/2

第2話 涼子の願い

「僕の能力はこの剣を召喚する事です。もちろん剣を消すことも出来ます」

「ペラペラ喋るんだな。そんなの漫画の世界だけかと思ってた」

「信用してもらうためですよ。味方ということをね」

 

 

 そういって少年、いや篠原と名乗った細目の少年は長剣を出したり消したりして見せた。正直俺の部屋で危なっかしい真似はやめてほしいし、なんなら俺の部屋のドアが壊れたままなのをなんとかしてほしいものである。寮長に大目玉を食らうこと間違いなしだ。最悪ご飯抜きかも。

 

 

「まだ貴方の名前を聞いていませんでしたね」

「杉浦春斗」

「能力は?」

「いや俺は…なんにも」

「おそらく奴は能力が使用されたことに反応して貴方の部屋に現れたと思います。気付いてないだけで貴方には特別な力が――」

「春斗ーっ!どうしたのドアがばっきゃばきゃに壊れ、て…」

 

 

 能力があるのは俺じゃない。その事をどう説明したものか悩んでいたところへ、張本人がドタドタと登場してきた。内間涼子、俺の幼馴染であり、能力が宿った女の子だ。

 

 

「能力があるのはこっち、俺じゃない」

「なんと…」

「どちらさま?」

 

 

 呆けている涼子に、謎の男は伏せたまま説明をする。こいつは篠原といって能力が使えるとか何とか。説明したようで何も説明できていないような気もするが、涼子は「へえ~」と納得していたのでよしとしよう。

 

 

「それで、涼子さんはどんな能力を?」

「えーっと物を直す能力?ていうか…うーんと…」

 

 

 俺を見るな、自分で考えろ。と言いたい所だが涼子の人見知りは昔から良く知っているので助け舟を出してやることにする。

 

 

「ちょっと待ってろ」

 

 

 俺は使って二年にもなる目覚まし時計のベルを打つ金属棒をぐにゃりと曲げる。結構力をこめたのはここだけの秘密だ。

 

 篠原は黙ってこちらを見つめている。真剣な表情でまじまじと見られている涼子は緊張した様子で目覚まし時計を受け取る。

 

 

「あ、じゃ、じゃあいきますね」

「お願いします」

「…えいっ」

 

 

 昨日はそんなかわいい掛け声じゃなかっただろ、と思いながら俺は曲がった金属が元通りになるのを見守った。完全に戻るのに三秒くらいか、気のせいでなければ昨日より戻るスピードがはやくなった様な気がしないでもない。

 

 

「…涼子さん、もう一度お願いしてもいいですか」

「え、あ、はい。春斗もう一回だって」

「もう一回って言ったって俺は曲げるだけだろ…」

 

 

 まるで自分がマジシャンの助手になったような気分になりつつ目覚まし時計を受け取ろうとすると、篠原が「待ってください」と涼子の手を止めた。

 

 

「時計はそのままでいいです。それでもう一回力を使ってください」

「…?」

 

 

 俺と涼子が揃って疑問符を浮かべるのに対し、篠原の目はさらに真剣味を帯びたものに変わっていた。少し眉をひそめてもいるようだ。涼子と目が合う。いやそんな助けを求めるような目で見られても困るのだが。

 

 

「やってみろよ」

「…うん」

 

 

 俺の言葉に少し寂しそうな表情を浮かべる涼子。いや俺にどうしろというのだ、能力があるのは涼子、当事者は俺ではないのだ。それこそ俺はたまたまここにいるモブキャラみたいなものなのだから。

 

 再び涼子が掛け声を上げると、篠原がグイッと身を乗り出した。

 

 

「あひゃあ!」

「これは…いやまさか…そんな馬鹿な」

「どうしたんだよ」

 

 

 篠原に俺の声は届いていないのか、一人でぶつぶつと何やらつぶやいている。

 

 

「あ、あの…私のコレはなんなんですか…?」

「もう一度お願いしてもいいですか?」

「え、はい」

「時計の針を良く見ておいてください」

 

 

 篠原の言われたとおり時計の針に視線を移す。そして涼子の声が聞こえた次の瞬間、俺は自分の目を疑った。

 

 

「これは…」

「そう、時計の針が逆回転しているんです」

「ええっと、つまり、どういうこと?」

「あなたの能力は物の修復なんかじゃない」

 

 

 そう。時計の針が逆周りに動いているということは。

 

 

「時間を巻き戻す能力…」

 

 

 俺のつぶやきに篠原が「そうです」と相槌を打つ。涼子はジッと自分の手のひらを見つめている。

 

 ――なんてこった。時間を巻き戻す能力ときたもんだ。俺の幼馴染はどこまで行くというのだろう。

 

 

「すげえな涼子」

 

 

 そういうと、涼子はまた悲しげな顔をする。嬉しくはないのだろうか。時間を巻き戻す能力だぞ?ロマンが詰まりまくって破裂しそうなくらいである。やはりこういうところが男女の感性の違いなのだろうか…。

 

 

「とりあえず場所を移動しましょう。涼子さんは死んでも守らなきゃいけない対象になりました」

「ふぇ?」

「そりゃそうだろ、時間を巻き戻す能力なんてレア中のレアなんじゃねーの」

 

 

「そのとおりです」と言いながら立ち上がると、篠原はついて来るよう促してきた。というか俺も行くのか。まあ、当然か。またここに変なのが来ても嫌だし。

 

 

 部屋を出る直前、涼子が立ち止まり壊れたドアに触れた。飛び散った破片は元あった場所へと収まっていく。なるほど確かに、戻っていく様子を見ればそれはさながら映像を逆再生しているようで、時間を巻き戻していることに違いなかった。

 

 

「へへ」

 

 

 当の本人はドアを直した事への賛辞を欲しているだけで、特別自分の力に驚いている様子はなかったが。

 

 

「ありがとな。ほら急ぐぞ、篠原と一緒にいるのが今は最善策だ」

「うん」

 

 

 俺たちは部屋を後にし、篠原の背中を追った。幸い知り合いに会うこともなく寮を出る。まだ春休み、皆出かけたりしているのだろう。俺たちの出かけ先はわかったものじゃないけれど。

 

 

 

 

 ■ □ ■


 

 


「なんだか懐かしいね」

「何が」


 隣を歩く涼子が楽しそうにこちらを覗き込んでくる。遠足気分なんじゃないだろうか、こいつは。


「昔はよく二人で目的地も決めずに冒険したじゃん、忘れたの?」


 勿論、覚えている。しかしそれはもう何年も前の話なわけだし、正確に言うと篠原が先頭を歩いてくれているわけだから二人じゃなくて三人であって、状況も違う。


「結局私たちいつも迷子になってお母さん達に怒られてたよね」

「お前がまだ冒険するって散々遠いところまでいったからな」

「ちょっと春斗、私のせいみたいに言わないでよ」


 お前のせいだとハッキリ言ったつもりだったのだが、どうやらこのくらいでは涼子には届かないらしい。鈍感な幼馴染である。


「それにしても篠原君、どこまで歩くのかなあ」

「さあな」


 

 それはしばらく歩いたところで起こった。



 何もかもが突然で。

 予兆なんてものは、なかった。


 前を歩いていた篠原の姿が、一瞬で、消えた事からそれは始まった。


「!?」

 

 咄嗟に左手を涼子の前に出し庇おうとする。


 篠原が消えた代わりに現れたのは、2メートルはあるんじゃないかと思うほどの、巨人のような男。


「こいつ…!」


 俺の部屋に来たやつだ。間違いない。


「春斗っ篠原君がっ!」


 涼子の声に目をやると、遠くに篠原が転がっていた。消えたんじゃない、こいつに吹っ飛ばされたのか。

 だとすれば、到底かなう相手じゃない。


「涼子、逃げーー」


 刹那。

 大柄にも程がある男の右手が動いた。俺はとっさに涼子には飛びつきそのまま地面に二人して倒れ込む。頭の上を轟音が鳴り響いた。これでは当たったらどうなるかなど考えたくもない。


「う…」


 立つんだ、とにかく逃げるしかない。

 最悪涼子だけでもーー


「オマエ、ジャマ」


 ーー世界が反転した。目の前に涼子がいたのに、声が聞こえた瞬間俺の視界は回転し空が見えた。肺の中の空気が全て吐き出され息ができない、そして俺はグシャリと地面に落ちた。


「あ…が…」


 かすかに涼子の悲鳴が聞こえる。なんだよ、泣くなんて小学生以来なんじゃないのか?

 慰めてやりたいところだが、あいつがどこにいるかわからないしなんなら自分がどうなっているかもわからない。


 感覚が、ない。


「涼子さん!力を使うんです!!」


 篠原の声が聞こえる。よかった。生きてるみたいだ。

 自分でも驚くほど冷静だったが、視界はもう真っ暗で手足の感触もない。

 涼子が何か言っているがそれも次第に遠のいていく。


 死ぬ、のか?

 こんなところで…?


「…ぁ……」


 言葉は、何も出てこなかった。





 ■ □ ■




「涼子さん!力を使うんです!!」


 ここが山場だ、と篠原将利は考える。

 今の内間涼子では、目覚まし時計や毛布などの物の時間を巻き戻すだけで精一杯だろう。


 しかし、能力は磨きあげることでそのパフォーマンスを上げることができる。

 即ち、能力の干渉範囲の増大。


 ここで内間涼子が、幼馴染の彼を助けられなければそれまでということだ。彼女の能力は物の時間を巻き戻すだけの代物。


 しかし彼の時間を巻き戻し救う事が出来たなら、生き物の時間も巻き戻すつまり、この世に存在するもの全ての時を巻き戻す事が出来るということになる。


 それこそ、不老不死も夢ではなくなる。


(組織の為にも、彼女には何がなんでも開花してもらわないと)


 篠原は右手に銀の剣を召喚し、眼前の大男に向き直る。

 視界の隅で涼子が杉浦春斗に駆け寄るのが見えた。杉浦春斗は見るも無惨な状態で、死ぬのは時間の問題だろう。


 そう、“時間”の問題なのだ。


「春斗、やだよ、春斗、春斗ぉ」

「彼を救えるのはあなただけなんです!涼子さん!」


 泣きじゃくる涼子には声が届いていないのか、血塗れの春斗にしがみつき必死に名前を呼び続けている。


 違う、それでは先に進まない。


「オマエモ、ジャマ」

「少し空気を読んでもらいましょうか、ねっ!」


 目の前の男を処理しなければ彼女の元には行けない。篠原は右手にある長剣をふりかざし男に斬りかかる。しかしたどたどしい喋り方には似合わぬ素早い動きにあっさりと避けられてしまう。


(こいつの相手をしている場合じゃないですね)


 すぐさま追撃をし、大ぶりで斬りかかった篠原には明らかな隙ができる。

 無論大男はそれを逃さず篠原に豪腕をくりだすが、篠原はすんでのところで両腕を交差し、男の殴打を受けそのまま後ろへと吹っ飛んだ。

 吹っ飛んだ先は、涼子と春斗がいる場所。


(狙い通りです)


 受け身をした後すぐさま顔を上げ涼子のもとへ駆け寄る。

 大粒の涙をこぼしわんわんと泣いている彼女には、僕も大男も映っていないようだ。


「涼子さん!!」

「…春斗がっ、春斗があ」

「落ち着いてください!まだ助かります!」

「うぇ…?」


 鼻水も垂れるほど号泣していた彼女の動きが止まる。


「あなたの力なら助けられるんです。時間を、春斗さんの時間を、巻き戻すんです!」

「でも…」

「それしか!ありません!!」


 涼子の両肩を掴み揺さぶりながら珍しく大声をあげる篠原。


「わ、わかった…」

「さあ、はやく!」

「う、うん」


 彼女の涙は、もう止まっていた。これはいけるかもしれない、そう感じた篠原は涼子の横で固唾を飲んで見守る。あとは祈るしか、ない。


「春斗…死なないで…戻って…!」


 彼女が春斗の胸に手を当てる。


 光が、辺り一帯を包んだ。

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