『夏の夜のできごと』作・J田大河
「ほんとにいくの?」
もちろん、という目を向ける。
「もう真っ暗だよ?」
そんなこと、わかってる。
時計を見るともう9時だ。
虫かごと晴れてもいないのに麦わら帽子、虫除けスプレーを持ってぼくはこっそり家を出た。
「まってよ」と妹の麗奈がついてくる。
「ばか!虫嫌いなんだろ?くんなよ!」とぼくは麗奈を突っぱねたのに間髪入れずに麗奈は言った。
「れいなのこと、置いていくならお兄ちゃんのこと、お母さんに言うよ!こんな遅い時間なのに裏の森にカブトムシ取りに行ったって」
こうなってしまうとぼくはお手上げだ。
仕方ないな、という顔でさっさと森までいくことにした。
ぼくの家の裏には森があった…と記憶している。
今から話すのはぼくが幼い頃、妹の麗奈と経験したある奇妙なできごとの話だ。
森までいくところの記憶はある。
麗奈がついてくることになったことも…。
たぶん、なにもなく森へついた。
昼にしかけておいた罠のところへぼくは行った。
「あーやだ!蚊に刺された!」
後ろで麗奈が叫んでいる。
「だからついてくるなっていったんだよ!嫌なら帰れ!」
ぼくの声が大きかったのだろうか。
近くの木からバサバサと鳥の飛び立つ音がした。
「やだ!なに?」
「鳥だろ、だからそんなに嫌なら帰れって」
「もう共犯なんだよ?わかってる?れいなが帰ってお母さんにバレたら私ひとりが怒られちゃうじゃん。一緒に帰ってふたりで怒られなきゃ」
なぜ、麗奈は怒られること前提なんだろうか。
「あのな、じゃあ、なんでついてきたんだよ。てか、ぼくはお母さんにバレるつもりはないぞ」
「え、そうなの?」
待て。麗奈は怒られたくて来たのか?
「バレないように家抜け出したり、お母さんに怒られたり、経験してみたいなーって思ってたの!」
どうやら、麗奈は本気でお母さんに怒られたことがないらしい。
たしかに、麗奈が怒られてるのを見たことがない。
…そんなやり取りがあったような気がする。
事件があったのはそのあとだ。
カブトムシの大量にはいったかごをもってぼくたちは帰路についた。
「なんで、そんな虫で喜ぶのか理解できない」
「うるさいなー」
もうすぐ家かと思ったとき、麗奈が言った。
「ねぇ、あのひかりなに?」
麗奈が言った方向を見るとそこには、謎の光がうようよと漂っていた。
「なんだ、その話」
浩平が全部聞き終わってぼくに言った。
「聞いて損したわ」
まあ、それもそうだろう。大事な昼休みの半分も潰してしまったんだから。
でも、それがぼくの今の外に出たくない性格につながってるのだという説明なんだから我慢してほしい。