第4話【粉砕した心】
彼とは週末ごとにデートた。ただ、結婚と言う言葉はお互いタブーとなり、二人の成り行きを心配している私の両親への紹介も延び延びになっていた。
ある日、都内をドライブしている時、彼がある女子大学の門の前に車を止めて「君、今の会社を辞めてこの大学に入るつもりはない?」と言う。
門に掲げられている名称をみて、驚いた。有名なお嬢様大学だ。それもそれなりの頭がないと入れない。
私は自分の出た学校に不満はなかったし、短大とはいえその学年ではトップクラスの成績になって今の会社に入った。その私のがんばりや今の気持ちも聞きもせず、一方的に折角入った会社を辞めて、彼との結婚のために大学受験しろという彼にむっとした。
そんな私の気持ちを知らず彼は淡々と付け加えた。
「あと4〜5年したら俺は海外支社へ転勤になると思う。あっちに行ったら同業者の奥さん同士の集まりもある。その時、君が大学を出てないと肩身が狭くなるだろう?だから今のうちに行ったらどうかな・・・と思って。」と。
「それって、もしかしてお母様に言われたの?私が四大を出ていないとがお母様にのお気に召さなかった理由の一つなの?」
彼は否定もせず黙った。
そしてしばらくして、「俺と一緒になるつもりがあるのなら、大学のこと一度考えておいてくれ・・・」
私と一緒になるために、彼なりに考えてくれているのは確かだけど、それが私の気持ちとはちぐはぐになっている。
私だって、彼をすごく愛してるし、大切な人に変わりはない。でも、彼の行動にとまどいを感じ、心はつまされていくばかりだった。
数日後、彼の申し出を何気なく両親に話した。両親は激怒した。
しまったと思ったがもう遅いく、両親は私の今までの生き方を否定されたのと同じだと言い、さらに、親のいいなりになる男のところになど嫁に行くなと言い切った。
これで両方の両親から二人の結婚が反対されたことになった。
もう、無理かも知れない、一緒になることは。
でも、この彼への気持ちはどうしたらよいのだろうか。
夏になって私は高校時代の友人たちと旅行に出た。家には二泊三日だと言って。
一泊だけして二日目には友人たちをおいて、先に新幹線に乗り帰京し、彼に東京駅まで迎えにきてもらって二人で夕飯を食べに行った。
彼はいつもの休日のデートの時のように、遅くならないように気を配り、送るよと車に私を招いた。
高速への入り口の緑の掲示板が見えた時、彼の顔をみずに「私、今日、まだお友達と泊まっていることになっているの。だから家には帰れないの。」とドキドキしながら言ってみた。
彼は大きなため息をついた。
すでに高速の入り口を避けるこはできずそのまま高速に乗り、二股にわかれる時に家とは違う方向にいく路を選んで走り出してくれた。
「何を君は考えているだ・・。もし、俺の都合が悪かったらどうするつもりだったの?」
「考えてなかった・・そんなこと。」
彼は高速を川崎インターで降りた。そして、ぐるぐる回ってとあるカップルが使うホテルに入った。
もう夜も遅く、部屋は一部屋しか空いてなかった。
彼と部屋に行っても、彼はぶすっとしていた。実際は私は喜んでもらえると思ったのに彼の反応は違っていた。作戦は失敗だった。
私は旅行鞄を持ったまま部屋の入り口で立っていた。
彼は「早く入っておいで。そんなところに立ってないで・・」と私の行動が、さらに彼の憤りを増させたようだった。
しばらくして、ずっとうつむいて黙っている私をベットへ行こう・・と目だけで誘った。
私は初めて男性と同じベットに入るのでどうしたらよいか、さっぱりわからずおどおどしていた。
洋服を自分で脱いでよいものか、どこまで脱いでよいものかもわからなかった。
仕方なく、スカートとブラウス・・そしてストッキングを脱いで彼の横にすっと入った。
なんか悲しかった。
そこからどうなったのかは今では全く思い出せない。
ただ、最後まではいけなかったことだけは確かだった。
「大丈夫・・君はまだ処女のままだよ」と言われた。
愛している人にどうやって抱かれたらよいのかすらわからなかったが苦痛だったことは確かだった。
そっとベットから出て洗面所で血のついた手を洗い、そばにあったタオルを絞って身体を拭いていた。
「シャワー浴びておいでよ・・。」なんか冷たい声だった。
シャワーを浴びて、下着をつけて彼の寝ているベットにもどった。汚れたシーツははいであった。
そっと彼の腕まくらに頭をのせて、彼の胸に顔を埋め眠ろうと努力してみた。
彼の「大丈夫・・君はまだ処女だよ。」という言葉の大丈夫という言葉がなんか寂しかった。
愛してるなら自分のものにしたくはなかったのだろうか?
いつもkissして抱きしめてくれて、その先はずっとお預けのままでよかったのだろうか?
普通の男性なら抱きたいと思うのが普通なのではないだろうか?
彼がどうして私を抱きたがらなかったのかは今でもわからない。
その後のデートでももう、二度とホテルに誘われることはなかった。
それから間もなく、彼から「君にはもっと他に相応しい人がいると思う。今日でお別れしよう・」そう告げられ私の熱い恋は粉々に砕け散ったのだった。