はじまり2
どういう状況よ……これ……。
川べりにあった大きな石に腰掛け、考える。考える人ならぬ考えるドラゴンの完成だ。そんなこと考えるあたり、俺は意外と余裕があるのかもしれない。……ただの思考放棄ですね。はい。
まあ、それにしても勘弁してほしい。
こちとら昨日、というかついさっきまで現役のDK(男子高校生)だったんだから、何していいかなんて全く分からない。
学校で先生のあれやりなさいこれやりなさいに従っているだけの、簡単なお仕事を日々繰り返すだけの日常を送ってきた俺としては、こんなイレギュラーな自体が起きても困惑するだけだ。
なんとか混乱する頭を抑えて、今の状況を振り返ってみることにする。
起きた。ドラゴンになった。以上。――あれ! 一行で済んだ!
そうか。単純な事だったのかもしれない。俺は起きたらドラゴンになってて、叫ぶだけで生き物に悪影響を与える最強生物になったのだー! ……もうやだ。
とりあえず、状況の振り返りで得たことは、考えても仕方がないってことだな。
そこまで思考を進めたところで、あたりを確認する。
先程、マイボイスでめちゃくちゃにしたところ以外は、あいもかわらず穏やかな風景である。
繰り返し波のように吹く風に揺られる草原。
空には薄い雲が微かにその青を覆い、太陽は緩やかな日差しを大地に注ぐ。
耳を澄ませば、清流の流れる音が耳朶をうち、川を超えた先にある森から木々のざわめきが届く。
そして、目の前の川を見れば、先ほどの衝撃で浮かんできた魚が岩に引っかかっていた。
魚を見たとたん、腹の虫が急に自己主張するかのように鳴き、ドラゴンもやっぱり腹は減るんだなぁ、なんてことが頭によぎった。――まあ、とりあえず腹ごしらえでもしますか。
そんな感じで、異世界初の行動目標ができた俺は、目の前の川にザブンと浸かり、魚に手を伸ばす。
若干、流されそうになりながらも、なんとか魚の捕獲に成功した。その数、なんと三匹。……絶対に足りないだろ。
まあ、食えるだけいいか、と思い直し、魚を持ちながら川を出る。
手元にある三匹の魚を眺めながら、大事なことに気づいてしまった。
そう! 火がないのだ!
いやぁ、流石にドラゴンと言えどねぇ……川からダイレクトで生食はちょっと抵抗あるっていうか、純日本人らしく寿司は大好きだけど、それとこれとは別っていうか、腹壊したら嫌だなぁっていうか、そもそも俺ってただの羽根つきトカゲかもしんないし……
川のほとりで魚を持ったドラゴンがうんうん唸るというシュールな光景を作りながらも、頭の中で一つ思いつく。――俺ってもしかして、火吐けるんじゃね?
思い立ったらすぐ実行。失敗は成功の母と昔の偉い誰かが言ってたらしいし、なんとか火を吐けないか試してみよう。
とりあえず一旦、魚を先程まで座っていた岩の上に載せ、自分は草原に仁王立ちする。
うーん。火を吐くっていってもなぁ。俺、火を吐いたことないし(当たり前)、どうすればいいんだろう。
軽く頭を捻って考えてみるが、何も良いアイデアが思い浮かばない。
とりあえず、唾を吐いてみる。
――ペっ! ……唾が草についた。そりゃそうだ!