のほほんでいず*りたーんず
カーテンを開けると、晴天の空が嘲笑うかのように煌々と太陽を突き出して来る。
「……あぁ、なんて神々しいんだ……俺のアンジェは」
なんて日の光に対して気取ってみたり。
「……」
やっぱ無理。現実からは目は逸らせない。
「……あんな夢を見るなんてな……」
俺は先程まで見ていた夢を思い出す。
「……ん、そこは…っ」
「いいだろう……な?」
「……でも」
「……俺とお前の仲、だろ?」
「…………うんっ」
そして俺は彼女のその桜色に染まった部分を──
「ふんぬ!」
──ガン!
俺は壁に頭突きをかます。
何思い出してんだ俺。しかも思い出して恥ずかしがって……恥ずかしいのはおまえだぞ、加賀剣。
細かい所は曖昧模糊でフィルターがかかったようにモヤついてるけど、恥ずかしい夢だったのは覚えている。憶えているのだ。
「ふおぉおぉぉぉぉおおおぉぉおっ!」
「──うっさい!」
「ぶっふぉっ?!」
ノックなしに入って来た妹のラリアットが見事に鳩尾に入って撃沈した。
* * * * *
鏡を見て寝癖を直し、再度全体的に跳ねた髪など枝毛がないか確認してからわたしは──パシンっ。
顔を張って気を入れ直す。
「よしっ」
胸の前で両手で拳を作って気合い入れ完了。
支度済みの鞄を持って家を出る。
「けーんー!」
隣の家に済む幼なじみ名を大きな声で呼ぶ。
と言っても、名前の読みは剣と書いて『つるぎ』なのだけど。わたしは『けん』と呼んでいる。
「うっせぇよ」
ブスッとした顔して玄関から出て来たわたし、御園花の好きな人、幼なじみの加賀剣。
クールで無愛想、だけどたまに照れて顔が赤くなるのがかわいいの!
かっこいいしかわいい!これ、萌ポイント!
そんなわたしはけんを見て顔ニヤついてしまい……
「キモいぞ、おまえ」
一言ズサッと心に突き刺さったが、それは気にしないで笑顔を〝つくって〟対応する。
「ごめんごめん。ブサイクだもんね。キモいね」
「……そうだな。激ブサイクだ」
「ホントにごめんね!」
「……」
無言で歩き出して、それに着いて行く形でわたしも歩き出す。
彼の横顔は凛々しく胸がキュンと締め付けられる……。
「……かっこぃぃ……」
つい声を漏らしてしまい、
「あ?なんか言った?」
「え、あ、うぅんっ。言ってない!」
「……」
わたしを睨み付けてからまた前を向く彼。
今日はこれが続くのかな……。
一緒にいられるのはいいけど、もう少し接近できたら……うぅんっ、これ以上望んだらダメ。
こうしていられるだけで、幸せなんだから!
だって、彼はわたしの……──なんだから。
* * * * *
肩を並べて幼なじみと歩く──はずが、一歩下がって歩く幼なじみの姿を横目で見やる。
花。御園花。幼少の頃からずっと一緒だった、俺の幼なじみ。
出会いはそう。彼女が隣に引っ越して来た所から始まる。
だがそれはまた別の話だろう。
と、気取ってる間に学校にあと数分で着きそうだ。
できるだけこの時間を伸ばしたい。
まだ俺なんも優しくしてあげられてねぇんだもん!
不器用過ぎるだろ、俺。
なんで返答が全部冷たくあしらうか罵倒なんだよ!おかしいだろ!?好きな相手──ゲホッ、ゲホッ。なのに。
なんでむせたのだろうか。恥ずかしいからだよ!
……一人でボケとツッコミとか……虚しいわっ。
てかこうやってぐずってる間にも校門が見えて……あぁっ、時間よ止まれ……!
* * * * *
幼なじみのけんと肩を並べて歩いて、もうすぐ校門だ。
いつもと同じ。玄関までではなく、校門で別れる。
それぞれに違うクラスと友人を持っているから。
だから最後まで一緒ではない。
「……」
けんを見ると、家から出るよりもブスッとしていて、怖い顔をしている。けど、愛おしい。
いつもはここまでだ。
わたしもこれ以上は何もしないし、望めない。
だけど、やっぱり、わたしはけんと……
「……、けんっ」
大好きな彼の名を呼ぶ。
「んあ?」
彼が振り向くのと同時にわたしは──
「──!」
彼の目が大きく広がり、一瞬の出来事に頭が追い付いてないようだ。それでいい。
より大きく、より刺激的に、よりわたしから離れられないように。
そんな風に……しないと、この世の中では勝ち残ることはできない。
「けん、行こっ?」
だからわたしはけんの、大好きな幼なじみの彼の腕を取って笑顔でリードする。
「……あ、あぁ…」
──より大きい、幸せを手にするために
*The end.*