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兄の話

 はっはっはっと快活な笑い声が部屋の中に響く。


 ココは、先ほどコッタが鼻血を出して気絶した応接間から

 2階上にあがった場所にある勇者達の私室にいた。

 

 気絶したコッタは、そのまま応接間にて、勇者ライトの兄。

 聖騎士ライムから治癒魔法を受け、そのまま勇者達の私室に運ばれたのだ。


 コッタが意識を取り戻した後、血だらけの格好では困るので、

 血で汚れた服は、変えの服をもらい着替させてもらった。

 

 スカート丈の長い長そでのメイド服。

 フリフリが付いているが、いやらしさは無く。清楚な感じだ。

 これしか女性モノの変えが無くて済まないと、ライム様は申し訳なさそうだった。


 勇者さまのご自宅に、メイドは現在いないのだが、

 たまに迷子になった子供や女性が、

 当分の生活が出来るように、臨時で雇う事があるそうだ。

 ただで養う事はしない。

 働かせる。

 それは長期的に見れば、養ってあげることは、その人のためにならないからだ。

 

 ちなみに王宮のメイド服は、好色スケベなバカ王子の趣味に合わせて

 ミニスカノースリーブの露出の多い服だった。

 あんなエロい格好させるなら、さっさと襲ってこいやぁ!と当時は思ったが

 まぁ、今となっては綺麗なままで良かったと心から思える。


 そして着替えた後、安静にするために、部屋に置いてあるベットに寝かされ、

 ライム様から色々事情を聞かれた。


 コッタは城を出てから気絶をするまでの間に起きたことを一通り説明したのだった。



 「由緒正しき、ナンス帝国のメイドで、

 キングオーガの群れを一人で撃退したツワモノが、

 イケメンを見ただけで気絶とは……」

 くっくっくと笑いがおさまらない勇者の兄、ライム。


 ちなみに、勇者ライトと深紅の騎士アルトは部屋の外で待機している。

 またコッタが気絶したら大変だからだ。


 「まぁ、コレであなたに排除の鎖が反応した理由が分かりました。

 キングオーガの群れを相手にしたのです。

 体にオーガの肉体が付着していたのでしょう」


 顔を真っ赤にしながらうつむくコッタ。


 は、恥ずかしい。


 自分に掛かっている魔族の疑惑を晴らすために、

 オーガの群れを相手にした話をするまでは良かったのだが、

 自分が気絶した理由を話したくはなかった。


 しかし、若い健康そうな少女が、突然勇者の目の前で鼻血を出しながら気絶したのだ。


 何らかの奇病や、呪い、魔術の可能性もある。


 かたくなに気絶した理由を話そうとしなかったコッタであったが、

 聖騎士ライムの執拗な追及に、とうとう気絶した理由を話したのだった。


 うー


 自身の先ほど行いを後悔するコッタ。

 先ほどの行いとは、もちろん気絶したことだ。


 まさか、イケメンが近づいただけで気絶するなんて……

 王宮にも、アルトや勇者程では無いが、カッコいい兵士はいた。

 そんな兵士と暗がりで二人きりになった事もあるが、

 ここまで興奮した事は無い。


 期待をしすぎた……か。


 女性の心理について、研究した本を読んだ事がある。

 女性は行為よりも、その行為を想像する事に喜びを得るそうだ。

 

 今回のコッタもそうだった。


 半年前から、コッタは勇者の事を考えていた。

 勇者の事を想像し、妄想し、期待値をドンドン上げていた。

 そして、いざ実物の勇者と会うと、その高めに高めた期待値を大きく超えていたのだ。


 会う前に、アルトに拘束されて色々された事も、

 コッタが気絶するほど興奮した要因である。


 もうコッタは、通常の心理状態から大きく乱されていて、

 ごちゃごちゃで、ぐちゃぐちゃしてぐつぐつでぎゅりぎゅりに、なっていたのだ。


 アルトに耳元で声を発せられたのは、きっかけに過ぎない。

 おそらく、そのような事が無くても、近いうちにコッタは意識を失っていただろう。

 それほど、コッタの精神は参っていたのだ。


 「まぁ、あなたは悪い人ではなさそうですね。

 落ち着くまで、ココで休んでいてください。

 ハーブティーでも出しましょう。気持ちが安らぎます」


 ポンポンと。コッタの頭を軽く叩き、立ち上がるライム。

 そのまま部屋を出て行った。


 優しい。

 自然と顔がほころぶコッタ。

 ごちゃごちゃに気持ちを乱されたコッタの心は、完全に回復していた。


 聖騎士ライム。

 聖騎士になるには、剣術、槍術、盾術、馬術、の他に、

 希少な回復魔法を使えなくてはいけない。


 魔法は、魔子を操る技術ではあるが、魔子を操るのは術者の精神である。


 自然と、使用者によって、使える魔法とは異なっていくモノなのだ。


 火炎の魔法を使う者は燃え盛る焔のように猛々しく、風の魔法を使う者はそよ風のように優雅に可憐で、氷の魔法を使う者は、氷点下の、時を止めた世界のように冷静、冷徹で。


 ……いや、普段のコッタは意外冷静できっちりとしているんですよ?

 メイドの仕事はまじめにしていたし。


 まぁ、おいといて。

 

 そして、もちろん回復魔法の使い手は、他者に癒しを与える者なのだ。

 癒し系、である。


 聖騎士ライムは、もちろん超絶美少年勇者ライトの兄なので、

 その顔は、先ほど言った王宮にいるイケメンの兵士よりも、

 もちろん格上のイケメンなのだが、

 アルトや勇者と違い、コッタの気持ちを落ち着かせてくれるイケメンだった。


 アルト様には、してほしい。

 勇者さまには、してあげたい。


 けどライム様には、何もない。

 ただ、お互いに何もせず、そばにいてくれるだけでいい。

 そんな存在だ。

 

 けど、勇者さまが本命なのは変わらないけどね。


 奉仕をするのがメイドの本分!

 私の人生だ!


 あぁ、早く勇者さまのお顔を、この無駄な胸の脂肪ではさんであげたい!


 もちろん、今そのような事をコッタがしたら、出血多量でコッタは死ぬだろうが。


 鼻血による出血死。


 なかなか、歴史に残りそうな壮絶な死に方ではありそうだ。

 そんな残り方ゴメンだが。

 私は勇者さまと幸せな家庭を築いて歴史に残りたいのよ!


 勇者に慣れる。


 それがコッタの当分の目標になった。



 5……いや、10メートル…20かな?。


 コッタは頭の中で勇者をイメージして、

 自身がどれほど勇者に近づけるかを思い描いた。


 20メートル。


 それが、コッタが勇者の正面に立てる限界のように思えた。


 それを徐々に近づけよう。


 戦闘でも起きないかな。


 戦闘中は、さすがに恋の興奮も冷めそうだ。


 勇者さまの事を好きと考える隙もない強敵。


 当分無理か。

 少なくても、この村を出るまでは無理だろう。

 だって、この村には、先代勇者トロンが残した排除の鎖がある。

 その効果は、ほぼ完全に魔物の類をこの村に寄せ付けないはずだ。

 そうで無いと、勇者の子孫がいるこの村はとっくに滅んでいる。

 魔族が一番恨んでいる人物の村だし。

 

 そう考えると、勇者トロンが、なぜこんな辺境に自分の村を作ったのか理解できる。

 危ないからだ。

 自分の子孫が、大きな都市にいれば、魔族はその都市ごと襲うだろう。

 力のない民が襲われることを、一番危惧したのだ。

 だからあえて孤立し、築いたのだ。

 自分の村を。

 守るために。

 そして信じたんだろう。

 自分の子孫を。

 どんな魔族が来ても、自分の体くらいなら守れる人物になっていると。


 実際そうだろう。


 アルト様に拘束される私を、物珍しそうに見た村人を、

 私は逆に見返したが、子供を除いて、全員中々のツワモノのように思えた。

 王宮の護衛兵クラスだ。

 

 魔法使いか、戦士かは分からなかったが。


 あと、イケメンと美人が多かった。


 ……あれか、優秀な遺伝子が集中する現象が、ここでは起きているのだろう。

 もしくは、優秀な人物だから、イケカワになったか。


 どちらにせよ、私が勇者さまの事を忘れて共闘出来るほどの魔物と戦う機会は

 この村にいる限りなさそうだ。



 私はそのままベットに横になって、聖騎士ライム様が入れてくれるハーブティーを待つ事にした。


 美味しいんだろうな。

 不味くても美味しいって言うけど。

 イケメンが作ってくれた料理以上に美味いモノはこの世に無いはずだ。

 

 もっと具合が悪いフリをしようか。

 心配して、ライム様が飲ませてくれるかもしれない。



 きゃーーーーーーーーーーーー

 きゃーーーーーーーーーーーー


 ん?


 なんか今、頭の妄想の悲鳴が、ハモッた気がした。


 ……

 気のせいか。


 しかし、その後の部屋の外から聞こえる喧騒から、先ほどのハモりが気のせいでは無いことを知る。


 かなり騒がしい。


 聞き覚えがあるうねり声もする。


 この声は、……スライムだ。

 しかもかなりの数。


 ……


 はぁ。


 コッタは諦めてベットから出る。


 相手がスライムだったら、ライム様も戦いに行ったはずだ。


 ハーブティは無しか。


 先ほどまで戦闘を望んではいたが、正直今じゃない。



 ハーブティ。


 コッタは涙を目に浮かべながら、悲鳴が聞こえる方へ向かった。



 

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