ライトの話
勇者と呼ばれたその少年は、外見から得る印象に比べて、
その立ち姿や振る舞いから、とても大人びて見えた。
着ている服も、まるで旅人が着る動きやすそうで、
その反面、高級感が全くない服なのだが、
それでも、彼が着ることでその服が王族の衣装とさほど差が無い上等のモノに思えた。
そこにいるだけで、空気が正常になると言えばいいのか。
少年はピンと背筋をまっすぐしているのだか、そこに一切の力みは無く、無駄が無い。
人間がとるべき姿を自然体でいるのだ。
彼と同じ空間にいる人は、自然と姿勢を正してしまうだろう。
外見も、一切の無駄が無い。
少年は黒色の髪の毛をしていて、
その髪はツンツンと空に向かって伸びているが、
とても柔らかそうで、しかも綺麗だった。
キューティクルとか、なんかばっちり。
肌は健康そのもので少しだけ日に焼けているのが、
よりいっそう彼が健全であることを証明していた。
その少年と少女の中間のような顔は、
芸術家が理想の人間として描いた人物画のようで、
その顔にかけられている銀縁のメガネから見えるその瞳は、
一重だけど大きくて、黒い目をしていた。
その瞳は、とても澄んでいた。
まるで全てを見透かされるような。
「この人が魔族ですか」
じっと、その綺麗な瞳でコッタを見つめる勇者、ライト。
思わず赤面するコッタ。心臓の鼓動が速くなる。
うわ、うわぁぁ。
コッタは、これまで王宮にいて、年下の男の子を接する機会がなかった。
いつも年上の男性としか接点を持てなかったが、コッタは勇者を見て確信した。
さっきまで、アルト様のような、背の高くて、カッコいい年上の人から、
抱き締められたり、叱られたりしたいと思っていたけど、
今は違う。
勇者さまを抱きしめたいし、勇者さまの言われた事を何でも聞きたい。
奉仕したい。
されたい!
じゃなくて
してあげたい!
コレが本当の恋だったんだ!
一目ぼれだ。
私、年下好きだったんだ。
そのコッタの確信は、
おそらく、コッタが見た勇者の外見年齢に大きく左右されているのだが、
それほど、勇者の存在は凄まじかった。
一目ぼれどころか、一目見た女性の性的な価値観を一変させてしまう。
コッタ。王宮メイド。美少女。ロリ。巨乳。ドM。ショタコン。
「ちょっと、顔を見せていただけますか?」
勇者は片膝をついて、右手でコッタの顔を持ち上げた。
ひぃぃぃぃぃ 近い、近い、顔、目の前!
コッタの心臓の鼓動が、すさまじいビートを刻んでいたが、
その音を止める術は、この世に存在しない。
恋する乙女は何者にも止められない。
たとえ神だろうが。
唇、ぷるぷる!目、キラキラ!勇者さま!手?手!?触れてる!?ひぃぃ!!?
死ぬ! 死ぬ!このままじゃ自分の心臓に殺される!
頭が沸騰して、意識が自分の脳を行ったり来たりしているコッタ。
ほとんどメダパニ状態。
「なるほど、わかりました」
と勇者がコッタの鑑定を終えて手を離した。
あ、あぶない。
危うく死ぬ所だった。
安堵するコッタ。
一目ぼれした相手が、近づいたことは素直にうれしい事ではあったが、
急すぎる。
体が持たない。
「それで、彼女をどういたしますか?やはり退治でしょうか?」
どこから出したのか。
青年騎士のアルトはいつの間にか、刀身が真赤の片刃の剣を取り出していた。
柄は不死鳥を模しているようだ。
「いや、その必要は無いでしょう。彼女を解放してあげてください」
勇者は、あっさりと言った。
もう自身の椅子に座り、マグカップに入った紅茶を飲んでいる。
「え?しかし魔族ですよ?しかも、魔法が使えます。そんな奴を野放しにしたら」
「大丈夫でしょう。見たところ悪い人物では無いようです。魔族……」
勇者は紅茶が入ったマグカップを置き、少し考えてから
「かどうか、僕には判断がつきませんでした。アルトはなぜ彼女が魔族だと?」
「それは、勇者トロン様が残した排除の鎖が反応したからです。
鎖は、魔のモノか、魔力にしか反応しません。」
勇者の問いにアルトは答えた。
「ええ、だからといって、彼女が魔族であるとは限りません。
たまたま鎖の上で魔法を使ったのかもしれませんし、
もしかしたら、彼女に魔物の死体が付着していて、
ソレに鎖が反応した可能性もあります」
勇者は再び、マグカップを手にした。
「とにかく、彼女の言い分を聞きましょう。
女性をいつまでも拘束して、猿ぐつわをさせるなんて、勇者の名前の恥になります」
勇者は、コッタの拘束を解くようアルトに命じたが、
アルトはその命令が不服そうだった。
「大丈夫ですよ。
もし彼女が本当に魔族で、僕を襲って来たんだったら僕と君で返り討ち出来ます。
それに……」
ふふっと勇者ライトは笑って続けた。
「それに、彼女の僕を見る目が、アルトさんにそっくりでした。
いつも僕を情熱的な目で見ているアルトさんに……」
「うわ------止めてください!分かりました。外します!拘束を外します!」
赤面して、あわててコッタの拘束を解く青年騎士アルト。
拘束を解かれながら、アルトの反応に思わず色々妄想してしまうコッタ。
私が勇者さまに一目ぼれしている事は、
あの勇者さまの全てを見透かすような澄んだ目を見た時に、
気付かれるんだろうなって思ったから別に良いとして、
その私が勇者さまを見つめる目が、アルト様が勇者さまを見つめる目と一緒?
え?
それって……
ホモォ……
いや、けど、確認だけど、
アルト様って男だよね?長髪だけど。
勇者さまも、どんな女の子よりも可愛い顔しているけど、男だろうし。
そんな二人が……
え?
ええ!?
まさか、そんな……
ホモォホモォ
いやいや、でも、
アリ……か?
長髪イケメンの従者と、背の低い可愛い勇者。
ホモォホモォホモォ!!
コッタの何かが腐っていった。
コッタ。王宮メイド。美少女。ロリ。巨乳。ドM。ショタコン。腐女子。