天使の話
ぼやけた視界が、だんだんと鮮明になっていく。
「うっ」
クラウンスライムに飲まれていた元勇者バスタは目を覚ました。
ここは、ドコ? 生きるって何?
57歳になっても思考と人生がまだはっきりとはしていないバスタの目の前には、
ウェーブがキレイにかかった金髪の少女の姿があった。
天使……?
まだあどけなさの残る可愛らしい少女をバスタは天からの使いと思った。
その天の使いの鼻から、2本の赤い血流が出ている。
天使……?
ハァハァと若干いやらしさを感じる息使いと2本の鼻血から、バスタは変な使いと思った。
意識が鮮明になるにつれ、自分の視界以外の情報が鮮明になっていく。
聴覚 ハァハァ 嗅覚 良いにおい 味覚 スライムでヌルヌル
触覚 左手……柔らかい。
バスタは、自分の左手にある柔らかいモノを思わず揉んでみた。
モミモミ
「きゃっ!」
目の前の天使が声を上げる。
!?これは!!
片手ではとうてい収まりきれない大きさ!GカップのスヒマやFカップのアンナ
が霞むほど!
大きさだけではない!
掌を押し返してくる弾力!
指が包まれていく柔らかさ!
うおぉぉぉぉ!!
モミモミモミ……!
バスタは天使の胸を揉み続ける。
「ちょっ……やめッ……やめんかゴラァァーーーーーーーーー!!」
天使は、コッタは抱えていたバスタを思いっきり放り投げた。
ぐしゃり
とバスタは頭から教会の壁にめり込んだ。
「なんだあのおっさん?」
コッタは揉まれすぎてズキズキと痛む左胸を抑える。
「イケメンでもエロオヤジは勘弁よ!」
コッタがバスタに向かって悪態をついていると、
ふいにコッタの周囲が暗くなる。
「あっ」
コッタが上を見ると、クラウンスライムが落ちてきていた。
コッタが凍らせた地面を砕く強烈なボディプレスを仕掛けるクラウンスライム。
その表情は憤怒を現していた。
コッタは軽々とクラウンスライムの攻撃をかわし、
クラウンスライムが先ほどまでいた池の淵に着地した。
「うーん、どうしようかなー」
悩むコッタ。
神父さんを助けるために、慣れない炎の魔法を使っちゃって、
魔力がほとんど残っていない。
その慣れない炎ももう消えちゃっている。
よく見ると、クラウンスライムの大きさが、
2~3メートルほどに小さくなっているので、
それなりのダメージを与えたみたいだけど。
うーんと腕を組んで悩むコッタ。
まぁ、あれしかないか。
決断したコッタの上に
またのしかかってくるクラウンスライム。
体が小さくなった分、動作が速くなっている。
コッタは、そののしかかり攻撃を今回は避けなかった。
護身術の基本。
相手の攻撃をいなす。
コッタはクラウンスライムがのしかかってくる重心を右手で少しずらして、
そのまま左手で誘導した。
クラウンスライムの水流攻撃で出来た大量のツララがある場所へ。
そのまま、コッタに向けて落ちてきたスピードで、ツララにぶつかるクラウンスライム。
グサグサと体中にツララが突き刺さる。
コレで絶命はしないが、少なくても身動きは取れないだろう。
コッタは、バスタを抱えるために落としていたランスと十字架を手にしてクラウンスライムに近づく。
「この十字架、炎だけじゃなくて魔法全体を強化出来るモノかー。
珍しい」
コッタは十字架の先端にランスを置いて、氷で一体化させる。
3メートルの大きさの十字の形の巨大な槍、
ハルバードになった氷の塊を振り回すコッタ。
槍に触れた空気中の水蒸気が凍り、きらめく結晶を作り出す。
コッタは氷のハルバードを構える。
後ろに氷の壁を作り、槍と合わせる。
「じゃあ、スライムさん。終わりだよ」
コッタは、氷のハルバードの持ち手の部分を急速に凍らせて伸ばす。
目にも止まらぬ。
先ほどまでクラウンスライムが吐き出していた水流よりも速く。
氷のハルバードはクラウンスライムを貫いた。
体内にバスタの十字架が残る形で動きを止めた氷のハルバードに近づくコッタ。
コッタは、十字架を掴むと、クラウンスライムに魔子を送り込む。
パキパキと音を立てて凍りつくクラウンスライム。
一分後には、クラウンスライムの氷像が出来ていた。
「はぁーーーー」
コッタはその場に座りこむ。
「寒い!暖かいハーブティー!!」
コッタは白い息を吐きながら、叫んだ。




