クラウンスライムの話
ライカ広場
そこには、苦悶の表情を浮かべながら片膝をつく青年騎士アルトがいた。
自慢の深紅の鎧は左肩の部分から大きく溶けて、胸部まで達している。
そこからは、アルトの白くて美しい肌が露出していた。
そして彼をかばうように立つ勇者ライトの姿。
その二人が見つめる先にいるモノは、一国を壊滅した伝説の魔物
クラウンスライム。
アルトは、自身のふがいなさにイラついていた。
村人たちがブロムによってまとめられ、
村に点在しているスライム退治に向かってほどなく。
10名ほどスライムが逃げ出さないように監視役として残ってはいたが(全員女性)
広場にいるスライムの撃退をする人が勇者とアルトの二人だけになっても、
難なくとスライムを退治してしまった。
最後の1匹を勇者さまが倒すのを見届けると同時に。
勇者さまの成長に、感動と寂しさから涙が出そうになった瞬間。
アルトは左肩に強烈な痛みを感じた。
とっさに振り返りつつ、肩を襲った異常を確認して、その異物を炎で溶かしたが、
異物はあっという間にアルト自慢の深紅の鎧を溶かし切り、
肩に重傷を負わせた。
そして、その異物が放たれた方向、
勇者トロンとその妻ライカの銅像の方を見ると、
銅像の周りの池の水面がわずかに盛り上がっていた。
徐々にその水面が高くなったかと思うと、
その水面が形を変えて王冠状に、
水面の下の液体が球体に変化して、
体長5メートル程の大きさの巨大なスライムに変わった。
クラウンスライムが現れた!
聖水の池から。
そんな……バカな。
聖水は魔を清め、聖を強める。
魔物が存在出来る場所ではない。
クラウンスライム……スライム100匹分の戦力が一個体に集まっているモンスター。
アルトは戦況を分析する。
クラウンスライムが、
なぜ教会から流れる聖水で出来た池から姿を現せたのか分からないが、
今必要な事はクラウンスライムに私たちが勝てるのかどうか、だ。
私たちは、特に苦も無く90匹、約100匹のスライム達を倒したが、
それが一つに集中した時にどうなるか分からない。
100匹を個別に倒すより楽なのか、100匹集まればすごいのか。
100人乗るのはすごいのだろう。
ただ確実に問題なのは、
私が左肩をケガして
さらに二人とも100匹のスライムを倒して少なからず疲労している事だ。
残った村人も、そこらへんの兵士よりも数倍強いが、
伝説の魔物相手に戦力として考えるほどではない。
不利……だ。
そうアルトが分析した時。
クラウンスライムが、そのふくよかな口を
スッパメレモンを食べた時のように思いっきりすぼめて、
アルト目がけて超高速の液体を吐きだした。
吐きだした!
過去形だ。
実際アルトはあまりのスピードに、
クラウンスライムが何をしたのか見えていなかった。
アルトが、クラウンスライムの口から何か吐きだされたんだと認識したのは、
勇者ライトがアルトをお姫様だっこしながら跳躍し、
元いた場所から25メートル程左、監視役の村人たちがいる場所に移動した後だった。
「っっっ…………!!!」
言葉にならない息がアルトの口から洩れる。
元いた場所を見る。
クラウンスライムの水流攻撃で、
地面に半径5センチほどの暗くて深い穴が開いていた。
今、勇者さまに助けてもらわなかったら、確実に死んでいた!
アルトが過ぎ去った恐怖にキモを冷やしていると、
勇者はアルトを地面に下ろした。
「魔子を周囲に放出して、ガードしていてください」
勇者はアルトと、監視役の村人に告げる。
「アイツは僕が一人で倒します」
そう言って、勇者は再び跳躍し、クラウンスライムの目の前に着地した。
アルトが叫ぶ。
「無茶です!アイツの攻撃を見たでしょう?
スライムの群れを討伐して疲れている今は無理です!
ライム様か、バスタ様の応援を待ちましょう!」
「応援が来る状況じゃありません!
どうやら教会にもクラウンスライムがいるようです!」
その勇者の言葉を聞いて、アルトは慌てて
魔子を探査用に広げて、教会の現状を見る。
確かに、今目の前にいるクラウンスライムと同等の魔物の反応がある。
こんな……国を滅ぼせる魔物が2匹も!?
魔物が魔を滅する聖水に擬態していただけでも驚いているのに、
さらなる追い打ち。
そんな……こんなの、一体どうすれば。
絶望するアルト。
「大丈夫!僕が何とかする!」
勇者は笑いながら簡単そうに言った。
勇者とは、勇気を与える者。
兄ライムの言葉が勇者ライトの頭によみがえる。
皆に勇気を与えるために、僕は強くなった。
ライトの周りに光る魔子が放出され、それが強烈な風となって勇者の周りを囲む。
パチパチと閃光が弾けて、その量と音が大きくなっていく。
「奥義……!」
勇者は鉄剣を構えて、閃光を剣に集め始めた。
監視役として残った若い女性たちは、
恐ろしい魔物を見ればいいのか、
光を出し始めたカッコ可愛い勇者を見ればいいのか、
胸部を露出して辛そうな顔を浮かべる長髪のイケメン騎士を見ればいいのか悩んだが、
結局は苦しんでいる顔がセクシーな、
イケメン騎士の白くて美しい胸部を見てしまったようだった。




