小説家の俺が執筆力で異世界を制す!!……ことができたらいいなぁ
俺の名前は占内文士。
いきなりだけど簡単にだけど俺の紹介をさせてもらおうかな。
元々は日本で高校に通い、良くも悪くも平凡な生活を送っていたただの男子学生だ。
……強いて言えば周りの学生たちと違っていたのはネット小説を書いていた作家(自称)ということくらい。
さて、なぜ元々と表現したのかについてだけど。
俺は今、日本にいない。
そう、いわゆる異世界転生を果たしてしまったのだ。
なぜ?……俺にもわからない。
その日はいつも通り学校から帰宅後、自室の机に張り付き宿題そっちのけで自作小説の執筆に取り組んでいたんだが、いきなりPCの画面が光だしたかと思えば、気づけば見たこともない街の中心に立たされていたのだ。
ね?わけわからないでしょ?
そんなわけのわからない状況ではあったが、色々試行錯誤しているうちにわかったことがいくつかある。
まずこの世界についてだが、さっき見たこともない街とは言ったが全く身に覚えがない場所ではなかった。
結論から言うと、ここは俺が執筆に取り組んでいた小説に出てくる街であった。
色々探索を続けていると出てくる街の名前や店名やらすべてが俺の用意していたプロットと同じ。
店主の名前まで一致となればこれはもう確信的であった。
他にもよくあるステータス画面の出し方や俺には3つのスキルなんていうものが備わっているのもわかってはいる。
えっ?スキルが何かって?
それはまあ、後々説明することにするよ。
どうせすぐに使うことになるからさ。
――――
――――
――――
場面を今に戻そうと思う。
俺は今、1人のメンバーとパーティーを組み旅をしている。
この世界にもよくある設定通りにラスボスというべき魔王が存在しており、俺は主人公として討伐を果たすべくしている最中なのだ。
そして現在俺らはよく晴れた空の下、見晴らしの良い草原の上にいる。
「おーい!文士ー!!」
少し離れたところから少女が俺を呼ぶ声が聞こえる。
しかし俺は少女の声に耳を傾けつつも返事もしなければ見向きもしない。
棒立ち状態でただひたすらに手に持ったノートにペンを走らせようとしている。
そう、これが俺の一つ目のスキル「ノベル」だ。
転生時に俺の手には1冊のノートとペンが握られていた。
簡単に説明すると、これらが「ノベル」を使うのに必要な専用道具であり、このノートに書いたことを実際に起こすことができるという能力。
もしくは実際に起こった出来事がノートに勝手に転写されていくというもの。
後者は置いていても神スキルでしょ?そう思うよね?
……でも残念これはそこまで万能なものではない。
「おーい!!危ないって!?そっち行ってるよって!!」
再び遠くから声がかけられる。
今度は焦りまじりに。
俺はそれでも先ほどと変わらずその声には反応せず手元に集中する。
今現在、俺たちは猪型の魔物と戦闘中である。
戦う手段がノートとペンしか持たない俺は後衛に引きこもり、少女が前衛で戦うスタイル。
当然、今の戦闘もそうしているんだけど、猪の魔物が俺の存在に気づいてしまったらしく俺に向かって一直線に走ってきているようだ。
さて、これをどう切り抜けようか。
俺は集中し、急いで打開案をスキルを発動させるためにノートに書くべくペンを走らせようとする。
猪が俺に到着してくるまでに案を出し、ノートに速筆できなければ意味がない。
そう、これが「ノベル」の弱点その1であり、執筆時間を周りが待ってくれるわけではないのだ。
だから本当に急がなければいけないんだけども……
文字を書くペンの動き止まる。
…………
…………
…………
「うぉぉぉぉ!!こんな何もない草原で猪を止める案なんか出てくるかぁぁぁぁ!!」
俺は大声で叫んだ。
そう、これが弱点その2。
俺のスキルでは普通にあり得ない現象を起こさせることはできず、あくまであり得るかもと説得力がある文でなければノートに書いたところで効果を発揮してくれない。
例えば、今の状況でいえばノートに『猪が突然空高く舞い上がり、落下の勢いで死んだ』とか普通に考えてなぜ?って疑問が出るようなものや、『大岩が転がってきて、猪と衝突し助かった』なんてものもこんな見晴らしいい草原で起こり得るわけなく却下されてしまう。
このスキルは俺の速筆力、辻褄合わせを行える構成力や想像力やら、つまるところ俺の作家としての才能がなければ大きいな力は働いてくれないのだ。
ちなみに『街中の女性が目をハートにし、俺に熱視線を向ける』を試して大失敗した俺がいうのだから間違いない。
そんなこんなで俺の頭脳と才能ではこの状況を打破する方法は思いつかず、そのまま――
"ドンッ!"
「!?!?」
俺の体に強い衝撃が走る。
そして空中に投げ出された俺は、そのまま意識を手放していった。
――――
――――
――――
「ハッ!?」
つい先ほど猪の突進によって死んでしまった俺は、町の門の前で意識を取り戻す。
「……またやり直しかぁ」
俺は項垂れるように膝をついた。
そんな俺の傍らにはもう1人。
パーティーを組んで一緒に旅をしている相方のエリナが怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。
……というより見下してきている。
綺麗な金髪に美しい碧眼な眼をした美少女。
接近戦にも長け、戦闘力も持ち合わせており全てにおいて惚れ惚れとしてしまう。
そんなエリナにじっと見られて、思わずドキドキしていまう。
「ねぇ……あのさ」
そんなエリナが口を開く。
小ぶりなお口がお可愛い。
「な、なにかな…?」
俺は次にくるエリナからの言葉に身構える。
「たまにあるけどさ。そのレポート!!って突然叫ぶのなんなの?びっくりするし、怖いんだけど」
「…………」
彼女の冷たい言葉に俺のドキドキした気持ちが恋心とともに砕ける音がした。
エリナの言っているもの、それが俺の2つ目のスキル[レポート]である。
能力としては死んでしまっても、レポート……つまり一時保存をかけた時間まで戻ってくることができるというもの。
この効果だけ聞くと非常に便利なスキルだと思うじゃん?
けどこれにも[ノベル]同様にデメリットが存在する。
死んでしまった時の痛みや恐怖は当然記憶としては残るし、レポートしてから死ぬまでの行動すべてが無駄になってしまったという虚無感も残るというのはある意味俺の心にくるデメリットだろう。
ただ、それはまだ可愛い方とすら思う。
このスキル最大の嫌なことが、発動条件として大声で「レポート!!」と叫ばないと一時保存判定してくれないというもの。
さらに死んでみないとちゃんとスキルが発動しているのか確認することができないということ。
つまり、絶対にスキルを発動させるためには人目を気にせず全力でやるしかなく、やったらやったで周りの人間から突然発狂するやばい奴認定される仕様なのだ。
エリナも当然、そんな顔をしている。
そんなエリナの視線に俺はたまらず――
「あぁ、いや……なんでもないです…ごめん」
と、どもりながら謝ってしまう。
そんな俺の姿を見て、エリナは俺を一瞥し、「ふんっ」とそっぽ向いて門外に出ていってしまう。
これが毎回毎回俺のメンタルに非常にささる。
悪い意味で。
なんならこのやりとり自体レポートを書くために一度体験しており、俺にとっては2回目の光景なのだ。
M体質ではない俺にとっては死ぬことよりこのやりとりの方が辛いまである。
2度目のエリナのそっぽ向きに肩をさらに落とす俺。
そんな俺の頭の中に"ピコン"と音がなる。
そう、これが3つ目のスキルが発動した合図である。
その3つ目のスキルとは[コメント]という。
これは大声は出さなくてもいいのだが、「オープン」と唱えると、謎のメッセージが頭の中に流れ込んでくるというもの。
よくあるチュートリアル的なメッセージとか、スキルアップしましたみたいたアナウンスが流れてくると思うじゃん?
違うんだなーこれが。
まあ実際やってみるのが早いよね。
「オープン」
俺は早速小声で発動条件を唱えると、
『草!!!エリナに対してまともに返す言葉が出てこない程度の発想力しかないなら、さっさとこの旅自体やめたら??』
「…………」
このような煽り文が頭に流れ込んでくる。
非常にムカつく。
けど俺は自分に「気にするな、気にするな」と言い聞かせることに必死になる。
実はこのスキルにはもう一つ効果があるのだが、それは「リターン」と唱えると送られてきた謎メッセージに対し、言い返すことができるというもの。
本当はこんな煽り文を受けて文句の一つでも言ってやりたいところだけど、俺はそれをしないように必死に自分を宥めることに努める。
過去に一度、煽りに返事をしたことがあるのだが、当然追いコメントがやってきてしまい、1日中頭の中に"ピコン"、"ピコン"と流れてきて発狂しそうになった経験がある。
それ以降似たことがあっても無視するようにはしているのだ。
しんどいけど…。
正直、魔王退治において一番何の役に立つのか訳わからないスキルである。
「ふぅ…」
一息吐き、アンガーマネジメントで気持ちを落ち着けた俺は辟易としながらも、エリナの後を追って再び旅に出ることにした。
――――
――――
――――
俺たちの戦い方は基本的にエリナが前線に出て、敵をバッタバッタと倒すだけ。
というか俺は特別なスキルが3つあるだけで、それ以外はただの日本人男子なのである。
こんな異世界で戦うすべはないのだ。
ただ、エリナでもどうしても倒せないような強敵に直面した時には俺の[ノベル]と[レポート]を駆使して、死の痛みとエリナからの蔑んだ目に耐えて、なんとかラッキー勝利を模索し、俺の作家としての能力を上げてここまでやってこれてきている。
さて、そんな俺たちはそれなりの月日を掛け、ついに魔王の面前までやってきていた。
魔王がいると思われるクソデカい扉の前に立ち、俺たちは息を整えお互いに顔を見合わせて、一つ頷くとともに一気に扉を開けた。
その瞬間――
"ヒュン"
なにかがとんでもない速度で俺の横を駆け抜けた。
「グハッ!?」
そして、風切音から少し遅れ、俺の隣にいたはずのエリナが後方の廊下端まで吹き飛ばされ悲痛な声を漏らす音が聞こえてきた。
なにをされたのかは全くわからない。
けど、どうしてこうなったのかはわかる。
俺は後方のエリナから視線を前方に戻す。
そこには巨大な黒い影……魔王がこちらを見下して笑っていた。
間違いない、こいつがなにかをやった。
けど、どんな攻撃を受けたのか……。
俺程度の人間にはわからない。
わからないのなら打つ手はない。
その事実に俺の足は恐怖からかガタガタと震え始める。
そもそもエリナが戦闘不能に陥ってしまった時点で俺たちに勝ち目はないのだ。
今回は諦めよう。
そしてまた、やり直そう。
俺はその思いから魔王から視線を外し、地面をただ眺める。
エリナにやったあの攻撃が次は俺に来るその時を静かに待つ。
…………
…………
…………
が、なかなか次の攻撃が来ない。
俺は不思議に思い、再び顔を上げて魔王の顔を見る。
相変わらずニヤニヤしている。
なぜかはわからないが無性に腹が立ってくる思いだ。
「なんだよ……一思いにやってくれよ」
「……」
いつまでも来ないトドメに俺は思わずそう口にする。
俺1人残されたところでこんな場面何をすればいいのか皆目検討が付かない。
だったら早くレポート地点に戻って、エリナと作戦を練り直したい。
それなのに無意味に生かされている。
「……なにがしたいんだよ。俺1人じゃお前を倒せないんだよ。早く殺せよ」
「…………フッ」
早く殺されるために煽ってみるも軽く笑われあしらわられる。
…………
…………
…………
それからただただお互いに無言の時間が続く。
どれだけの時間が経っただろうか。
あまりにもなにも起こらないため、俺が他ごとを考え始めるようになった時、ようやく魔王が口を開いた。
「ワタシがこれだけキサマのような凡才にこれだけ時間をくれてやったのだ。少しは良い案の一つでも思い浮かばないのか?」
「……は?」
ようやく口を開いたかと思えば、煽り言葉をぶつけてくる。
なんだろう、スキル[コメント]で謎メッセージを受け取った時のような気分だ。
「だから言ってるだろう!俺だけじゃ勝てないから早く殺せって言ってんの!!」
俺はついカッとなって言い返す。
内容は酷く無様なものではあるが。
「はぁ…これだから凡才は…」
そんな俺に対し、魔王は再び俺のことを凡才と煽りながら憐れむような目を向けてくる。
「さっきから何なんだよ!人のこと凡才だのバカにしやがって!」
さすがに面と向かって煽られると我慢ができず腹が立ってくる。
「いいか?よく聞け。俺には死に戻りの能力があるんだよ!今回はお前に殺されるだろうけど、今度はしっかり準備して再びその首刈り取りにきてやるから覚悟しとけよ!!」
俺は捲し立てるようにそう言い切ってやった。
特別なスキル持ちで非凡な俺はこれで終わりじゃないと。
「……まぁ?お前は次に俺が来るときには今のこの会話も覚えていないだろうけど、精々影撃ち食らわないようにコソコソしとくんだな!」
煽られた分、しっかり煽り返し、俺が今出せる最大の決め台詞を決める。
これで逆上した魔王がサクッとヤッてくれるだろうとそう思って両手を広げて殺される準備を整える。
が、相変わらず攻撃は来ない。
「……?」
「死に戻り……ね」
それどころかさらに憐れみの意思が強まった視線をこちらに向けてくる。
「……なんだよ?」
「残念だよ。これまでずっとキサマを見てきたが、ここまで根性なしで、自分ではなにもできないやつだとは……」
とうとう視線だけではなく、言葉にまで憐れみを感じる。
「キサマの能力はすでに全て知っているよ」
……なに?能力を知っている?
「過去の例でいえば、猪の魔物の突進すらかわせず死んだことや、その後の復活時の辱めなんてのもあったな」
「…………ん?」
猪の魔物?辱め……だと?
「ワタシは基本見るだけに専念するタイプだが、キサマのあまりにも幼稚な構成力や人間考察力など様々全てが足りておらず、その居た堪れなさからたまにキサマの能力に干渉して教示してやっていたというのに」
能力に干渉?教示?
というかこの人の才能を煽ってくる感じ……まさか……まさか!?
「お、お……お前かぁぁぁ!?!?人の頭の中に謎の煽りコメント送ってきていたやつは!!!」
驚愕の事実判明に俺は思わず発狂する。
「今頃気づいたのか。やはり才能に欠ける……」
「んなもん気づくかぁ!!」
声を荒げる俺とは対照的に魔王は淡々としている。
「なんなんだよお前!!人のこと毎日毎日無能みたいに言いやがって!逆に全部見てたなら知ってんだろ!俺が死に戻りしながらその度に思考し、[ノベル]への速筆力を上げてなんとかしてきたことを!!」
売り言葉に対し、今日ばかりは全力で買いにいく。
俺がここまで辿り着くのに身につけた力が無意味みたいに言いやがって。
少しは俺だって成長していってるはずなん――
「いやいや、キサマの案などこれまでほぼなく、エリナに案を教えてもらっていただけで速筆力を上げていただけだろう?……なんならそれで誤字脱字が増え、スキル不発を何度もしていたし」
「ぐはっ!?!?」
なんて重たい口撃。
エリナが食らった攻撃以上にクリティカルヒットが炸裂する。
……心に。
「今だって、あれだけの時間をくれてやったというのに何も思い浮かばないとは…。大方、復活時にエリナに闇討ち方法がないか聞けばいいやくらいに考えていたのであろう」
「ぐふっ!?」
さらなる追い討ち。
「だからこれまでも言ってきたであろう。才能を伸ばす気がないのであれば旅は早々にやめろと」
「ぐへぇぇ!?」
怒涛の口撃を受けて、思わず泣きたくなってくる。
「……なんで……なんで、お前にそんなこと言われなくちゃいけないんだよ!」
「うん?」
「お、俺がどんな旅をしようがお前には関係ないだろうがよ!!」
俺は泣き言をこぼす。
というか泣いている。
なんでこんな知らないやつにここまでボロクソに言われなくちゃいけないんだと。
「なんでってキサマ……というか泣いているのか?」
半べそな俺を前に魔王が初めて困惑した姿を見せる。
しかし――
「キサマが旅を始めたからだろう?日の光を浴びたい、外の世界を知りたいとなったのはキサマ自身ではないか……覚悟を決めず出てきてしまったのはキサマ自身だ」
それでも尚、魔王は引き続き淡々と、俺を諭すように返してくる。
「……お…………って……いう……よ」
「?なんだって?」
「お、俺が悪いって、そう言うのかよ!!」
「……」
泣きべそをかき、メンタルブレイク寸前な俺はいよいよまともに返すこともできず、子どものように喚く。
そんな俺を見た魔王は、やれやれといった感じで首を左右に大きく振る。
「…………」
「…………」
そして両者ともにしばらく黙り込んでしまう。
「はぁ、全くもってしょうがないやつだ……あのな、ワタシもかつてはキサマと同じ側であったのだ」
「……?」
そんな沈黙に耐えかねたのか魔王が再び口を開き、語り始めた。
「ワタシもかつては今のキサマと同じように仲間とともに様々な敵を相手に旅をしていたのだ」
「ま、魔王が……?」
こいつは一体急になんの話をしているのだ?
魔王が旅を?
そんか俺の反応は全く気にしていない魔王。
話をいったん区切っていた魔王は一度大きく息を吸った。
「……だが、ワタシは旅を途中で断念してしまったのだ」
「……えっ?」
魔王はどこか懐かしむように話を再開する。
「ワタシはな旅の範囲を広げすぎてしまったのだ。最初から付いてきてくれていた仲間は途中でついて来れなくなり離脱した」
そしてどこか悲しげな顔をしている。
「残ってくれていたメンバーも当然いた。しかし彼らからはワタシの能力以上の期待を期待が込められている気がしてしまった」
目を瞑り、なにかに堪えるように。
「当然、彼らからしたらそんな気は一才なかったであろう……だが、ワタシは一人勝手にプレッシャーを感じ、彼らを置いて逃げ出してしまった」
歯を食いしばりながら、語り続ける。
「ワタシの才能では旅を完結させることができなかった。そしてこれはこれから一生ワタシの中で後悔として残り続けることになるだろう――」
そんな言葉とともに魔王はもう一度大きく息を吐いた。
話はこれで終わったのだろう。
なんて悲痛そうな面持ちなんだ。
「魔王……お前にそんなことが」
相手が討伐対象の魔王とはいえ、思わず俺も同情心を抱いてしまう。
「それが……それがお前が俺に嫌がらせをしてくる理由だというのか?」
「……そうだ。中途半端な才能で走り始めた先に待ち受けるのは誰一人幸せになれない結末だけ……いや、そんな結末すら訪れない無だ。ワタシはもうそんなやつを生み出したくないのだ」
「魔王…………」
こいつにもこいつで、色々な思いや経験があるのだ。
魔王の語りを聞いているうちに俺の涙は消えていた。
そして俺の中で一つ答えが出て清々しい気持ちすらある。
今の俺にできること――
それはまさに今ここで自分の才能を開花させ、魔王に認めさせることだ!
俺は大きく息をいっぱいいっぱいに吸い込む。
そして――
「レポート!!!!」
「!?」
俺は過去これほどまでに出したことがないであろう大きな声を張り上げ、スキル[レポート]を発動させた。
「キ、キサマ、一体なにを!?」
さすがの魔王も動揺している様子だ。
「ここでレポートをするということは、キサマはワタシに殺される度にエリナを失った状態で、ワタシの目の前から始めるということだぞ!?」
「あぁ、わかってるよ」
懇切丁寧に説明してくれる魔王に対し、俺は不敵に笑みを浮かべる。
「確かに今の俺の才能じゃ到底お前に泡を吹かせることなんてできないだろう」
「じゃあ一体なぜ?」
「それはな……たった今から何度も何度も何度でも、俺が俺自身の力で才能に花開かせ、お前に一撃を食らわすことができるその時まで、ここで永遠に付き合ってもらうためだ!魔王!!」
「!!」
これが狙いである。
今ここにある状況、人物、材料を用いて魔王に一撃を与えることができる案を見つける。
そして、魔王に殺されてしまう前に速筆で[ノベル]を発動させる。
俺は覚悟を決めた。
「俺は俺自身を極限の状況に追い込むことで、自分の才能を開花させてみせる!!」
「キ、キサマ!!」
「さあ、魔王!俺と根比べといこうぜ!!」
完全に決まった。
俺は今、最高にアチアチな俺自身に酔っている。
今なら……そう!今ならなんだってやってやれそう――
「……あー、申し訳ない。お尻に火つけてあれだけど、そこまでキサマに付き合ってはいられません」
…………
…………
…………
だが、アチアチな俺と打って変わって、魔王は逆に萎れていく。
「は?」
えっ?今なんて?
最大の俺の見せ場でこいつ今なんて言った?
「付き合ってられませんとそう言ったのだ」
「ちょっ!!」
「それじゃあ、サヨナラ」
「おい!!」
"ボンッ"
「あっ……」
軽やかな爆発を音を立てて、魔王は散った。
「……えっ?ちょっ…魔王?おーい!!帰ってきてくれーまおーーーーう!!!!」
俺は膝をつき、天を仰ぎながら絶叫した。
――――
――――
――――
魔王が散ってからしばらく時間が経った。
そして俺はというといまだに魔王亡き跡地にいる。
「うぅ……こんなのってないよ。人のやる気スイッチ入れるだけ入れてどっかいくなよぉ」
そしていじけている。
上げて落とされた俺の心は挫けてしまった。
そんな俺の背中にポンっと暖かい手が置かれる。
「大丈夫?一体なにがあったの?」
俺を心配するような言葉とともに。
俺はその手と言葉に思わず全力で――
「ま、魔王〜〜帰ってきてくれたのか」
そう言いながら振り返った。
と、同時に。
「誰が魔王じゃ!!」
「ガハッ!?」
そんな言葉とともに力のこもった右ストレートを顔面に受け、吹き飛ばされた。
――――
――――
――――
「ごめんね、落ち着いた?」
「いてて……大丈夫、大丈夫」
ぶっ飛ばされた衝撃で気を失っていた俺は数分の後、意識を取り戻した。
そんな俺を心配そうに声をかけてくれる人物……エリナが目の前にいる。
「ぶ、無事だったんだねエリナ」
「えぇ、なんとかね。さすがに気は失っていたけど」
魔王から初手に攻撃を受け、吹き飛ばされていたエリナは目立った外傷もなく、無事であった。
エリナが意識を取り戻した時、魔王はいなく広間で項垂れている俺を見て近寄ってきてくれた。
まあそこに酷い形相で「魔王!」と振り返ってきた俺を見て、つい手が出てしまったらしい。
そんなところもエリナなら愛くるしいぜ。
「それで、あらためて一体なにがあったの?魔王は?まさか文士が倒したの?」
お互い落ち着きを取り戻したところで、エリナから怒涛の質問が飛んでくる。
「倒した……というわけではないけど。でももういなくなっちゃった……」
エリナからの質問に対し、俺は少しはぐらしたかしたように答える。
「なによ!ハッキリしないわね」
「ハハハ」
ちゃんと説明しない俺にエリナはどこか不満足そうな様子を見せるが、俺としてもそう説明する他ないのだ。
「……まあでも。私たちの目的は無事達成することができたということでいいのよね?」
俺が困っていることを察してくれたのか、エリナはそれ以上詰めてくることをせずいてくれた。
「うーん…たぶんそういうことになるのかな」
思っていた魔王退治とはだいぶかけ離れた終わり方をしたけど、エリナの言うように俺たちの目的だけを考えたら確かに達成と呼んでもいいだろう。
あれ?じゃあこの後、俺たちはどうしたらいいんだ?
旅の目的を達成できた事実に気付いた俺の頭の中には、ふとそんな疑問が浮かんできた。
「うーん……うーん……」
急遽湧き出た疑問に俺は唸り声を上げて悩んでいると、そんな俺を見て目の前のエリナが「フフフ」と優しく微笑んでくれる。
「ん?なに、エリナ?」
「……」
俺がエリナに声をかけるとなぜか黙ってしまった。
「うん?」
その後、エリナは少しずつ笑みをやめて、真剣な顔つきになる。
そして――
「それじゃあ私たちもここでお別れだね」
「………………えっ?」
突然別れを告げられてしまった。
「えっ、えっ?なんで?どういうこと?」
あまりにも急な展開に俺の心は再び動揺する。
「なんでもなにも、だって私たちの旅はもう終わったじゃない」
「そ、それはどういう意味で……」
ダメだ。頭も心も付いてこれない。
「この旅は魔王退治まで……そう決めていたのは文士、あなた自身でしょう?」
「旅は魔王退治まで?…………ッ!?」
そのエリナの言葉に俺は思わずハッとする。
そうだ、思い出した。
この世界は――
この旅は――
「あぁ、そうか。これは俺の書いていた小説の物語……」
「思い出したのね。そう、これはあなたが毎日毎日必死に、そして楽しく書いていたあなた自身の作品の中なのよ」
そうか、そういえばそうであった。
エリナとの旅が楽しく、今の今まで忘れてしまっていた。
俺は俺の作っていた小説の舞台に迷い込んでいた。
だとするなら、俺が用意していたこの物語の終着点は――
「魔王を倒したらエンディング……だったか」
俺の用意していたプロットにはアフターストーリーは存在しない。
つまり、魔王が消え去った今まさに俺の物語は終焉をむかえてしまったのだ。
俺がその事実に気付いた瞬間――
「!?……な、なんだこの光は!それにせ、せかいが!?」
あたりの地面や壁、全てが崩壊を始める。
そしてその亀裂から温かみを感じる光が漏れている。
「お別れね、文士」
「エリナ……」
崩壊が始まっているのはあたりの物だけではない。
目の前で微笑んでくれているエリナ、そして俺自身も体が透けていっている。
あぁ、本当に終わりなんだな。
やりきったんだな、俺たち。
俺はあらためてその事実を噛み締める。
「……なぁ、エリナ?最後に一つ質問してもいいかな?」
「なにかな?」
現実を受け止め、そして思い出した俺はどうしても最後にエリナに聞いてみたいことがあった。
「エリナは俺とのこの旅……楽しかったか?」
物書きとしてやはり気になってしまう。
俺が突き進んできた旅は本当に楽しめるものだったのか。
俺のそんな質問にエリナは少し首をかしげた後。
「色々足りない部分があると思ったし、もっと頑張れって思うこともあったし、途中離脱したくなることもあったわねぇ」
「ぐへぇ」
辛口な評価をしてくれ、思わず俺は苦虫を噛み潰したような表情をする。
「最後くらい褒めてくれてもいいのに…」
「ふふふ」
再びいじける俺にエリナは笑う。
もう時間はほとんど残されていない。
「でも、こうしてエンディングを一緒に迎えられたっていうことはそういうことよ」
「えっ?」
「ありがとうね、文士。そしてお疲れさま!」
「あっ……」
最後の最後、消えゆくその直前にエリナから最大の労いの言葉を頂戴する。
その言葉だけで俺は満足だ。
「こちらこそありがとう。また次の旅が始まったらその時はまた一緒に――」
俺がエリナにお礼を伝えている最中、世界は完全に消え去り、俺は強烈な光に包まれた。
――――
――――
――――
「はっ!!」
俺は自室のPC前で意識を取り戻す。
右手にはマウスを持っている。
画面を確認すると俺が投稿していた小説の最終話が投稿されていた。
「そうか……終わったのか〜」
俺は一つ伸びをする。
学校から帰ってきてからずっと机に張り付き、文字を入力していから体が凝り固まっている。
けど、そんな俺の体とは打って変わって心は晴れ晴れした気持ちだ。
「……ん?」
伸びを終えた俺はもう一度画面を見ると、さっそく最終話に対しコメントが来ていた。
俺はドキドキしながらマウスを動かし、中身を確認する。
『あらためてお疲れさまでした。次の作品を始められた時にはぜひ読ませていただきたいと思います。』
そんなコメントが打ち込まれていた。
「……こちらこそ、あらためてありがとうね。エリナ」
俺の最後の質問に答えてくれたのかな。
これ以上嬉しいことがないコメントに俺の心は満たされる。
"ピコン"
そんな最後まで読んでくれた数少ない読者からのコメントに心躍っている俺の耳に通知音が入ってくる。
「ん?」
どうやらコメントがもう一件きたようだ。
「珍し!これが完結ブーストというやつか!」
俺はさっそく届いたコメントを開く。
『あなたの作品を読んで懐かしい気持ちになったよ。私もまた自分の作品を書きたいと思わされました。投稿するかはわかりませんが、せめて後悔が残らないように少しずつでも書き切りたいと思います。ありがとう。』
「……魔王」
指摘や煽りばかりしてきた読者からの最後のコメントだった。
「なんだかんだで、ちゃんと最後まで読んでくれたのかよ」
俺は一人笑みをこぼす。
「魔王もありがとうな。次はお前の作品で俺も一緒に旅ができるといいな」
そんな素直な俺の気持ちを乗せ、返信を終わらせる。
さて、これでこの作品も完全終わりだ。
最後まで付いてきてくれた読者もいたり、アンチもいたり、色々あったけど……総じて楽しかったな。
「やっぱ小説書くのって面白いなぁ」
俺はもう一度だけ終わりを迎えることができた自分に労うように、伸びをした。




