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カボチャ達はしばらくドスンドスンと威勢よく跳ね回っていたが、時間が経つにつれ、その動きは徐々に弱まり──やがて、ぽてん、ぽてん、と力のない跳ね方に変わっていった。
……今だ。
僕はカボチャのまま、じわり……じわり……と動き出す。
それはもう、カタツムリが「ちょっと遅くない?」と心配するレベルの、超スローペースで。
やっとのことでカボチャ畑の外へ出た頃、あたりの光がわずかに薄まり始めていた。
──ヤバい。夜が来る。
僕は着ぐるみを一瞬で《収納》し、そこからは全力疾走。
今までの人生で出したことがない、限界をぶち抜くスピードだ。
呼吸が苦しい。
心臓が暴れている。
脇腹も痛い。全部痛い。
でも止まれない。
僕が自分で建てた家が見えた時には、空はほとんど闇に飲まれかけていた。
そのとき──。
薄闇の中、赤い“目”のようなものが、いくつもいくつも光った。ぞわりと背中が凍る。
「ギャーー!!」
ほぼ絶叫しながら、僕は家の中へ飛び込んだ。
……セーフ!!
扉に背中を預けたまま、地面にずるずると崩れ落ちる。体が鉛みたいに重い。もう、指一本すら動かせない。
そのまま床に倒れ込んだ。
そのまま、僕は手を握りしめた。
……まだ大丈夫。……僕は、絶対にクリアするんだ。そして、僕は意識がなくなった。
翌朝、お腹がぐう、と鳴る音で目を覚ました。
体はまだ少し重いけれど、飢えのほうが勝つ。外に出てあの草の所で左手をかざす。
《創造》《おにぎり》
ぽん、と温かな湯気が立つ。
ついでに数個、多めに作って収納した。
水もなんとなく収納。これでしばらくは大丈夫。
よし。
昨日の“アレ”の正体を知ろう。
僕はおにぎりを食べた後、異世界ガイドブックを開いた。いつもの二人の女の子が、相変わらずのんきな顔をして現れる。
「夜、怖かったー」
「そうだね。あと、アレに捕まると死ぬからね」
「……え?ナニソレ?」
「ん?持ち物が全部なくなって、経験値ゼロになって、スタートに戻るだけだよ?」
「マジで?」
「マジ」
「そんなの、もう夜歩けない~!」
「そういう、ゲームなの!」
「じゃ、じゃあ…あの赤い目のやつは何!?」
「ゾンビ」
「は?」
「ゾンビだよ。捕まるとゾンビになるやつ」
「えっ、どろどろで腐ってる…?」
「そーそー。めっちゃ臭うんだ」
「いやーー!! 怖すぎ!!」
「はいはい。夜は寝ましょうね~」
……ダメだこの本。情報の出し方が怖すぎる。
僕はそっとガイドブックを閉じた。
夜、怖い。
というか、捕まると全部なくなるってなにそれ。そんな話、聞いてないよ!!ゲームだけどさ、現実だと厳しくない?ホントに。
僕は頭を抱えてしゃがみこんだ。
ふっと昨夜の恐怖が甦ってきた。幾つも光っていたあの赤い目。………ゾンビは、嫌だ。
しばらくして、僕は立ち上がった。動かなければ、何も始まらない。
次にする事を知るために、もう一度異世界ガイドの本を開いた。
二人の女の子が、自由すぎるテンションで会話していた。……なんか、慣れたな。
「次はどーすんの?」
「いろいろ倒しながら、村に行こうか」
「なんで?」
「ゲームを進めるためのアイテムがいるでしょ!忘れたの?」
「あ、そっか。てへ☆」
「てへ、じゃない。まったく。ゲートを開くためのアイテムがね、一つは村にあーるーの」
「えー。じゃあ、また歩くのー? 疲れたー」
「まだ何もしてません!!」
……どうやら、村に行けというメッセージらしい。アイテムっての何だろうな?
僕は地図のウインドウを開いた。
すると目の前に、半透明のウインドウがふわりと現れた。やっぱり、タブレットのアプリ画面みたいなUI。
「アイテムのある村の場所を知りたい。ここから一番近い所で」
ウインドウが反応し、ぽんと光る点が表示される。僕の現在地と、行くべき方向を示す矢印も出てきた。
「うわ……すご。スマホより便利だ……両手も空いたままだし」
感心しながら、僕はその矢印を頼りに歩き出した。




