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投稿、直しました
僕はふかふかのベッドでぐっすり眠った。
朝、外へ出ると――昨日つくった小さな池に、小鳥たちが群がっていた。
「……うん? あれ、牛?」
のそのそ歩く影。
僕は思わず右手をピストルの形に構える。
《風魔法》《鎌鼬》
風の刃が弾け、牛はその場で光に包まれて――
肉と牛乳になった。
「うわ、二つもドロップ!? なんで!?」
理由はよくわからないけど、朝食が豪華になったのは間違いない。
とりあえず、肉は《創造》で《干し肉》に変える。これで保存食完成。
次に、足元の草をじっと見る。
ただの草じゃない。葉が細い――イネ科っぽい。
左手に意識を集中させて《創造》《おにぎり》
ぽんっ。
白い湯気を出す、おにぎりが僕の手のひらに現れた。
「これで当面は餓死しなさそうだな……」
とはいえ、僕には “この世界のラスボスを倒す” という使命がある。
何をどうすればいいのか、まだよくわかってないけど。
僕は《異世界ガイドの本》を開いた。
例の、二人の女の子が現れる。
「どうしてもラスボス倒さなきゃダメ~?」
「ダメです」
一人がだるそうに言い、もう一人がきっぱり言い切る。
「このままだらだらしていたいんだけど……」
「べつにできなくはないけど」
「できるけど、何?」
「この世界の一部になるよ?」
「へ? なにそれ?」
ガイドの子はさらっと続けた。
「タイプは二つ。思考が薄くなって、“何となく生きてるだけの存在”になるの。もうひとつはこの世界に完全に混じるの。ここでは、そういう人たち、いっぱいいるよ?」
「やだ……こわ……」
「え~? 思考なくなってるから怖くないよ?
何にもわかってないし、けっこう平和で楽しいかも?もうひとつは、自分の意思で残ってる人だし」
その軽すぎる説明に、もう一人の女の子はじと目になって、にらむように相棒を見た。
――僕は、家族のところに帰りたい。だから、ラスボスを倒さなきゃいけない。手がかりはこれだけなんだ……。僕は《異世界ガイド》のページをぱらりとめくった。
「はぁ~……ラスボス倒すの、だるい~」
「はいはい、がんばれー」
やる気ゼロの子と、無責任に励ます子。
この温度差は毎回ひどい。
「でさ、結局なにすればいいの?」
「えっとねー、ラスボスの所に行くための“ゲート”を作るの」
「ゲート?」
「でもね、そのゲートの材料が特別でさ。旅に出て集めてくる必要があるのだー」
「えー……家から離れるの嫌なんだけど」
「そんなあなたに朗報! じゃじゃーん!」
元気な子が、丸い玉の描いてある絵をもう一人に見せた。
「転移宝玉なのだ! これがあれば、すぐに家に帰れるよ!」
「えっ、すご……!」
「ただし! 使えるのは“家”と“最後にいた場所”だけ! それ以外へは行けません!」
「……って、持ってませんけど?」
「はい、そこで地図を広げて~。取りにいくの~!」
こいつら、完全に人ごとだ。
でも――帰れる手段が存在するのは大きい。
僕は「地図ひらけ」と口にした。
すると目の前に、半透明のウィンドウがぽんっと出現する。
「転移宝玉の場所」とつぶやくと、地図の一ヶ所が光りだした。
「……ほうほう。ここにあるんだ」
小さくつぶやくと、胸が少しだけ高鳴った。
家族に会う道が、ようやく見えた気がした。
地図ウインドウを開いたまま、僕は矢印の示す方角へ歩き出した。
持ち物は斧。心許ないけれど、今の僕には《創造》と《破壊》、それに《風魔法》がある。
きっと、なんとかなる……はずだ。
しかし、そう思った矢先だった。
茂みが揺れ、狼が飛び出した。
「っ!」
反射的に右手をピストルのように構え、叫ぶ。
《風魔法》《鎌鼬》
空気が裂けた一瞬後、狼の姿は煙のように消え、そこには毛皮だけが残った。
……心臓、止まるかと思った。
僕は震える手で毛皮を《収納》。
深呼吸をして、また歩き始めた。
しばらく歩くと、前方で「ごろ、ごろ、ごろ……」と重い音が響いた。
「え?」
僕の背丈ほどの巨大な何かが転がってくる。
慌てて飛び退くと、それは――
「カボチャ……? でかっ」
そのまま転がり去ろうとする巨体に向けて、僕は右手を構えた。
《破壊》《地面》
地面が深く、広く抉れ、巨大カボチャはずぼっとその中に落ちて動きを止めた。
「……よし」
僕は近づき、左手をそっとかざす。
《創造》《カボチャの煮物》
すると巨大カボチャは光に包まれ、ふっと消えた。代わりに、湯気を立てる器がぽん、と現れる。
「……多すぎるよ」
山のようなカボチャの煮物。
恐る恐るひと口食べると――
「……っ」
思わず声が漏れた。
母さんが作ってくれた、あの味だった。
甘くて、少しだけ醤油の香りがする、やさしい味。
なんで……なんで同じなんだよ。
胸の奥がじんと熱くなる。
僕は袖でそっと目をこすった。
そして《収納》《カボチャの煮物》
「……行かなきゃな」
転移宝玉までは、まだ遠い。……でも必ず手に入れる。家族のところへ帰るために。
僕は再び歩き出した。




