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僕はぼんやりと羽毛の山を見つめた。
多い。……いや、多すぎる。これ絶対、袋とかに入れて運ぶ量じゃない。
「……どうやって持って帰るの?」
困り果てて、僕は再び異世界ガイドの本を開いた。もちろん、あの女の子二人がそこにいる。
「羽根いっぱい!やった~!でも、運べませーん!」
「はあ……あるでしょ、収納が!」
「えっ、そんなのあった?」
「一番最初に説明したでしょ。収納って言うと、空間収納が開くの。あとは入れたい物の名前を言うだけ。あ、生き物は入らないからね」
「聞いてませんでした!てへ☆」
……いやいや、そんな可愛くごまかされても。 でも確かに、最初の説明なんて聞いてない。突然落ちたからね。
《収納》
言った瞬間、目の前に半透明の空間が開く。
《羽根》
山のような羽毛が、一瞬で吸い込まれていった。おぉ……これは便利。
「次は木だな」
僕は手ごろな木に手を当て、《創造》した。
“材木”をイメージすると、木は光に包まれ、きれいな木材の束になった。
《収納》《材木》
すーっと消える材木。よし。準備完了。
僕は家に戻り、中に入った。
《解放》《羽根》《木材》
次々と素材が現れる。
重さゼロ、運搬ゼロ。便利すぎる。
《創造》《ベッド》
光が弾け、そこに現れたのは――
ふわっふわの布団が乗ったベッドだった。
「やった……!」
今日一番の達成感だった。
僕は、ふと思った。
「……水、欲しいな」
家もできた。ベッドもできた。 次は生活の要、水だ。まずは外に出た。家よりほどよく離れた所で左手を地面に当てて《創造》を試す。
《創造》《井戸》
しかし、透明なウインドウがぴこんと出た。
《設定上、不可能です》
「……そうなの?」
創造は万能じゃないらしい。少し残念。
次に僕は、右手を地面へ押し当てた。
《破壊》《地面》
深く、深く掘り進めるイメージをする。
穴を開けて、さらに下へ。もっと下へ――。
その瞬間、地面の底から冷たい気配が広がった。ぼこぼこっ、と水が滲み出し、やがて勢いよく湧き上がる。
「……地下水脈、あるんだ」
思わず笑った。ガイド本なしで、自力でできたという事実が嬉しかった。濁っていた水は、時間とともに澄んでゆく。
《破壊》《地面》
池をイメージすると、水がさらに広がり、静かに満ちていく。
小さな透明な池が完成した。
「これで水には困らない…!」
僕は満足して立ち上がり、今度は木の前へ行った。
左手を当て、はっきりと願う。
《創造》《食用の木の実》
光が弾け、僕の左手には――
真っ赤なリンゴが現れた。
「はははっ……!」
嬉しさが込み上げ、僕は思わず笑った。
僕、けっこう最強なのでは?
僕は、家に必要な道具をどんどん《創造》していった。
《創造》《テーブル》
《創造》《椅子》
《創造》《コップ、スプーン、皿…》
光が弾け、次々と木製のアイテムが生まれていく。
わかったことがある。
小さいものほど、経験値の減りが少ない。
「なるほどね……」
一方で、不思議なこともあった。
《破壊》を使うと、経験値が増える。
「???」
試しに、近くに落ちていた太い枝へ右手を添えた。
《破壊》《枝》
枝は、さらさらと砂のように崩れ、風に紛れて消えた。同時に、ウインドウの経験値ゲージがぴこっと伸びた。
「……ほんとに増えてる」
創造で減り、破壊で増える。
バランス、なんとなく分かってきた。
僕は異世界ガイドの本を開く。
二人の女の子が、今日も相変わらずゆるい会話をしていた。
「破壊と創造のコツ、教えてください」
「うーん、それはね――秘密!」
「やだー、けちー!」
女の子の一人は頬をぷくっと膨らませる。
「でもね、ここは“想像力”が大事なんだよ。ほら、考えて、考えて~」
「わっかりませーん! いじわる~!」
……何にも、役には立たなかった。
でも、ページを閉じた瞬間、ふと気づいた。
「……ん? 違うかも」
重要なのは、きっと――
“想像すること”そのもの。
ぼくはそっと右手と左手を見比べた。
破壊と創造。
この二つは、ただのスキルじゃない。
「イメージが……鍵なんだな」




