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異世界転生ではなく、AI の作った世界に転生した僕  作者: りな


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僕は、その夜もアレクサンダーの家に泊まった。

――もう、この場所に戻ることはない。

そう分かっていたから。


部屋で一人、僕は《収納》の中から材木と、小さな花を取り出した。


木から樹脂が作れるのなら――出来ないはずがない。


《創造》《腕輪》


手のひらの上に、小さな透明の腕輪が生まれた。樹脂製で、中には小さな花が閉じ込められている。

光を通すと、きらりと柔らかく輝く。


それから、もう一つ。

木材から封筒を作り、中に“ある物”を入れた。


……必要かどうかは分からない。

でも、どうしても渡したいと思った。


翌朝。

僕はサラとエミリーに、きちんと挨拶をした。


「色々、ありがとうございました」


「いいのよ」

エミリーは、いつも通り優しく微笑んだ。


「サラ、いっぱいありがとう」


サラは、スカートの裾をぎゅっと握りしめ、唇を結んで立っていた。


「……本物には、叶わないけど。お礼だよ」


僕は、昨夜作った腕輪を、そっとサラの前に差し出した。つるりとした触感で、透明な樹脂の中には小さな花が幾つも閉じ込められている。


サラは目を見開いた。


「……キレイ」


「腕に通してあげるね」


僕はサラの腕に、そっと腕輪を通した。

朝の光を浴びて、腕輪がきらりと輝いた。


「……本当に、行くの?」


「ごめん。僕には、帰る場所があるんだ。家族が待ってる」


サラは少し黙ってから、小さく言った。


「……さよなら、なの?」


「……多分」


その言葉を聞いた瞬間、サラはくるりと走り、エミリーの後ろに隠れた。


「……ありがとう。サヨナラ」


震える声が、背中越しに聞こえた。


僕は、胸の奥がぎゅっとなるのを感じながら、アレクサンダーに向き直った。


「アレクサンダー、行こう」


「……わかった」


アレクサンダーは、ずっと無言だった。

ただ、わずかにアレクサンダーの瞳が揺れた気がした。


僕はその腕を掴み――次の瞬間、転移の光に包まれた。


僕が目を開いた時、目の前には一本の塔がそびえ立っていた。――てっぺんが、見えない。

どれほどの高さがあるのか、想像もつかなかった。


「これを、一人で登るんだ」


アレクサンダーは、静かに言った。


……一人で?

僕は思わず塔を見上げる。やっぱり、頂上は見えない。


アレクサンダーは《収納》から、食料と飲み物を取り出した。干し肉、水、パン、保存の利きそうな簡素な食事。


――あれは、先日の狩りで手に入れた肉だ。


「エミリーが、用意したんだ。塔の道のりは長い。お腹を空かせないように、ってな」


その言葉を聞いた瞬間、胸がいっぱいになった。

視界が滲み、涙が溢れそうになる。


慌てて、袖で目元を拭った。


「……ありがとう、ございます」


声が、涙で掠れてしまった。


「気をつけてな。……サヨナラだ」


アレクサンダーの言葉は、短く、それでいて重かった。


「……これ」


僕は、封筒を一つ差し出した。


「僕が、帰らなかったら……開けてください」


「何だ?」


アレクサンダーは、少し怪訝そうな顔をした。


「今は、秘密です」


僕は泣きながら、無理やり笑った。


「本当に、ありがとうございました。サヨナラ――アレクサンダー」


そう言って、僕は振り返らなかった。

振り返ったら、きっと進めなくなる。


僕は、一歩――

塔へと足を踏み入れた。

煤けた茶色のレンガが積み上げられた、古い塔。長い年月を経てきたのだろう、壁はところどころ欠け、ひび割れている。


壁づたいに、上へと続く螺旋階段があった。


僕は、慎重に一段ずつ階段を登っていく。


塔の中は、思ったよりも明るい。

――灯りがあるわけでもないのに、ぼんやりと視界が開けている。


……どうして?


そう思った瞬間だった。


ヒュッ、と。

何かが、僕の目の前を横切った。


「……今の、何?」


僕は立ち止まり、目を凝らす。


……鳥?

いや、小さい。けれど、確かに翼があった。


その鳥のような何かは、弧を描いて旋回すると、再び僕に向かって飛んできた。


速い――!


だが、僕にはもう、ただ逃げるだけの選択肢はない。


《風魔法》《圧縮》


空気を一点に押し潰すイメージ。


次の瞬間、それは僕の目の前でピタリと止まり、力を失ったように床へ落ちた。


……出来た。


胸の奥が、熱くなる。


アレクサンダーが、あの熱砂の魔物と対峙した時に使っていた魔法。

見て、感じて、覚えていた。


床に落ちた“鳥”のような存在は、砂のように崩れ、そのまま消え去った。


……やっぱり。

この塔の中には、魔物がいる。


僕は一度、大きく息を吐き、気持ちを引き締めた。


ここから先は、

――僕一人の戦いだ。


螺旋階段の上を見据え、僕は再び歩き出した。


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