表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生ではなく、AI の作った世界に転生した僕  作者: りな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

27

僕とサラは、家に戻った。


「母さん、見て」


サラは、僕が作った花の冠を自分の頭に被り、自分が作った冠をエミリーの頭に乗せようとして言った。


「母さん、しゃがんで」


「あら……とても上手に作れているわね」


エミリーのその言葉に、サラは嬉しそうに笑った。


「ケントが、手伝ってくれたの」


エミリーは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、

すぐに柔らかく微笑む。


「そう。良かったわね」


サラは背伸びをして、丁寧にエミリーの頭に花の冠を乗せた。


二人が並んで、花の冠を被っている姿は、

見ているだけで心が和む。


……花って、存在そのものがすごいよな。


僕がそんなことを思っていると、アレクサンダーが戻ってきて、その光景を見て笑った。


「似合ってるな」


するとサラが、すぐに言い返す。


「父さんのは、ないよ」


「それは、残念だな」


そう言いながらも、

アレクサンダーの瞳は、優しく笑っていた。


……僕は少し離れたところで、その光景を見ていた。



翌朝、アレクサンダーは僕に少し険しい声で切り出した。


「次の場所は、砂漠の真ん中だ。少し強い魔物がいる。装備は揃えるか?」


……少し強い、か。


アレクサンダーの言う「少し」が、どれほど危険なのか、正直よくわからない。


以前、装備については叡知の書――あの二人にも聞いたけれど、やはり必要なのだろうか。


考え込む僕を見て、アレクサンダーは続けた。


「ケントの戦い方は、肉弾戦じゃない。魔法が主体なら、装備は必須ではないだろう」


「それなら……まずは、このまま行ってみてもいいですか?厳しいと感じたら、揃えたいです」


僕がそう答えると、アレクサンダーは一瞬だけ考え、


「……わかった。判断は、早めにな」


と、短く言った。


そして、僕はアレクサンダーの腕を掴んで、《転移》した。――砂漠の真ん中へ。


目を開いた僕は、思わず瞬きをした。


……あれ?


僕が想像していた砂漠は、どこまでも続く砂丘――砂の山だったはずだ。けれど、そこに広がっていたのは、ひび割れた乾いた大地。


砂はあるが、山ではなく、硬く焼けた地面が延々と続いている。


……これも、砂漠なの?


そう思いながらアレクサンダーを見ると、

彼は険しい表情で、空中の一点をじっと見つめていた。


その視線の先に、“何か”がいることだけは、はっきりとわかった。


「ケント、地面からだ!」


アレクサンダーの険しい声が飛んできた。

直後、足元の大地が大きく揺れた。

低く、嫌な振動が全身に伝わってくる。


――来る。


地面が割れ、砂と土を弾き飛ばしながら、

巨大な蟻の群れが姿を現した。

一匹一匹が、僕の背丈ほどもある。黒光りする外殻。鋭い顎をガチガチと鳴らしながら、

まるで示し合わせたかのように、僕たちを包囲していく。


……どうする?


その問いが、喉までせり上がった瞬間。


「跳べるか!」


アレクサンダーが叫んだ。


……無理。


何の準備もしていない。跳躍用の魔法も、装備もない。

でも――。


《創造》《高台》


僕は地面に意識を集中させ、土を一気に盛り上げた。砂漠の乾いた土が、うねるように立ち上がり、気づけば二階建ての建物ほどの高さの土台が出来上がっていた。


その上に、僕は震える足を感じつつ立っていた。

……高い。かなり、高いよ。これ。


ふと横を見ると、アレクサンダーは――


……空中?


彼は一人乗りの小型ドローンのようなものに乗って、悠々と宙に浮いていた。


……なにそれ?

卑怯じゃない?


そんなことを考えている暇もなく、巨大蟻たちは土の壁に取りつき、器用に脚を使って、よじ登ってきた。

ガリガリ、と土を削る音。顎が擦れ合う、不快な音。


……ギャー。

無理無理無理。

これ、普通に怖いから!


僕は迷わず魔法を放った。


《風魔法》《鎌鼬》


鋭い風の刃が、巨大蟻に叩きつけられる。

――が。


……硬い。


斬れない。風は外殻に弾かれた。衝撃を受けた蟻は、ふわりと地面に落ちると、何事もなかったかのように、再び土の壁を登り始めた。


……嘘だろ。


「ケント、戻るか?」


アレクサンダーの声が飛んでくる。


……まだだ。


僕は歯を食いしばり、地面に意識を集中させた。


《創造》《砂》


高台だった土の塊が、一気に崩れ、さらさらとした砂へと変わる。


足場が消え、僕の身体は、蟻たちと一緒に落下した。


僕は重力を失い、意識が飛びそうになった。でも――次だ。


《創造》《蟻地獄》


地面が渦を巻き、巨大な蟻地獄が生まれる。

落ちた蟻たちは、抵抗する間もなく砂に足を取られ、どんどん底へと引きずり込まれていった。


……でも、このままじゃ、僕も落ちる。


《風魔法》《突風》


僕は、空中にいるアレクサンダーめがけて風を放った。

――正確には、彼がこちらに流される方向へ。


突風に煽られ、アレクサンダーの乗るドローンが、大きく揺れながらこちらへ近づく。


今だ。僕は飛びつくように、ドローンに掴まった。

その下で、巨大蟻たちは、どんよりとした砂の渦に呑み込まれていく。


「ケント、定員オーバーなんだけど?」


アレクサンダーが呆れた声で言った。


……聞こえない。


今は、それどころじゃない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ