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異世界転生ではなく、AI の作った世界に転生した僕  作者: りな


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女の子たちは枝の上から、ふわりと身軽に飛び降り、そのまま僕の肩へと降り立った。

……小鳥が止まるって、たぶんこんな感じなんだろう。

ちょっとくすぐったくて、落ち着かない。


そのとき、後ろから声がした。


「無事だったようだな」


振り返ると、アレクサンダーが立っていた。


「はい。なんとか」

僕は答えたけど……いや、僕、何もしてないよ?


アレクサンダーは僕の肩に目を向け、わずかに目を見開いた。


「君たちが叡知の書か? 上手くケントを守ったようだな」


「そうよ」

「よくわかってるのです」


……あれ? この二人、やたら評価高くない?


「君たちは、この形態のままなのかな?」

アレクサンダーが尋ねると、二人は顔を見合わせた。


「さあ?」

「どうなのでしょう?」


どうやら本人たちにもわからないらしい。


アレクサンダーは少し考えてから、僕のほうを向いた。


「……ケント、二人は《収納》できるのか?」


収納? どうだろう。


僕は試しに《収納》を使ってみた。

ふたりの姿が、スッと消える。


……え、収納できるんだ。

その事実に、僕は素直に驚いた。


「なかなか良い《創造》だな」

アレクサンダーが感心したように言う。

「本来、叡知の書は無機物だが……」


「そう……なのですか?」

僕には何がどうすごいのか、よくわからない。


「ああ。自立型で、思考回路を持ち、かつ別々に反応する個体を二体も。これは俺の想定以上だ」


どこか興奮気味のアレクサンダー。


……ソウデスカ。

僕はちょっと引いた。


(それよりアレクサンダーの叡知の書のほうが断然カッコいいんだけど……)

とは、さすがに言えなかった。


「アイテムは手に入れたな」

アレクサンダーが言った。


「はい。黒で金色の林檎ですよね」

僕はうなずく。


「じゃあ、戻ろう」

そう言うと、アレクサンダーは自然な動作で僕の手を取った。


《転移》


視界が切り替わり、僕とアレクサンダーは彼の自宅の前に立っていた。


「おかえりなさい、父さん! ケント!」


サラがいち早く気づき、走ってきた。


「ほら、ケントはちゃんと無事だったろう?」

サラの頭を撫でながら、アレクサンダーが言った。サラはプクッとほっぺを膨らませた。


「だって……」

サラは、僕の服の裾をそっと握った。

どうやら相当心配していたらしい。


「……心配してくれてたの? ありがとう、サラ」


僕がそう言うと、サラは何かを言いかけた。


けれど、僕の服の裾を離し、顔を真っ赤にして、そのまま走り去っていった。


……あれ?

どうしたんだろう?


「さてと、今日は泊まっていきなさい。疲れただろう?」

アレクサンダーが優しい声で言った。


……その言葉が、泣けるほど嬉しかった。

僕は素直に頷く。


そういえば——サラにお土産、何も用意できなかったな。

周囲を見渡すと、相変わらずの集落の景色。前と同じ人々がいて、いつも通りの穏やかな空気が流れている。

……僕が《創造》で作れる物は、見当たらなかった。


「ほら、家に入るぞ」

アレクサンダーの声に、慌てて「はい」と返事してついていった。


家の中に入ると、台所ではエミリーがスープを煮込んでいた。

ふわりと漂う、優しい匂い。

見た目はどう見ても、普通の人——いや、僕となんら変わらない。


エミリーは僕に気づくと、ぱっと花が咲くように微笑んだ。


「大変だったでしょう? よく頑張ったわね」


……どうして、こんなにみんな優しいのだろう。

胸の奥がきゅっと締めつけられた。


「……良い家族だろ?」

アレクサンダーが、僕だけに聞こえる声で囁く。

「……今日はもう何も考えるな。ゆっくり休め」


僕は、ただ静かに頷いた。


夕飯を食べ終えて、ほっと一息ついていた時だった。サラが、もじもじと指を絡ませながら、僕のほうへ近づいてきた。


「……どうしたの?」

思わず小声で聞く。


サラは何かを決意したように、ぎゅっと握っていた手を差し出した。

「これ。枕元に置いて寝ると、よく眠れるの」


彼女の手の中には、小さな束になったハーブがあった。ふわりと優しい香りが漂い、思わず鼻を近づける。


「良い香りだね。……僕のために?」

問いかけると、


「……そうよ」

サラは顔をそむけながら答えた。


「とっても嬉しいよ、サラ。ありがとう」

自然と笑みがこぼれた。


「……花のお礼」

頬を赤く染め、蚊の鳴くような声で呟く。

……こういう気遣い、久しぶりかな。


「サラはとっても優しいんだね」

素直に言うと、


サラはビクッと肩を震わせ、目を大きく開いた。そして、さらに顔を真っ赤にし——

何も言わず、エミリーのもとへ小走りで逃げていった。


……あれ?

そこは「もっと褒めて!」って胸を張るところじゃないの?どうして逃げるのさ。


――って、アレクサンダー。

ちょっとその目つき、怖いんだけど?


「サラを泣かしたら、許さないからな」

アレクサンダーは僕だけに聞こえるように言った。


……なんで?何もしてないって。


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