20
アレクサンダーが消え、僕はしばらく呆然とその場に立ち尽くした。
……え、これから何すればいいの?
いや、そもそも僕に何が出来る?
混乱したまま、とりあえず「明かりでも用意すべき?」なんて考えた瞬間だった。
世界が――落ちた。
視界も音も、すべてが一瞬で奪われた。
漆黒。完全な闇。耳鳴りすらしない、無音の世界。
「……うそ、でしょ」
あ、でも知ってる。
本で読んだことがある。
人間は、光も音もない世界にいると簡単に正気を崩すって。
僕は慌てて足元を見る。
暗闇で見えるはずもないけど、地面は――ある。ちゃんと立てている。でも、それすら疑いたくなるほどの黒。
「…………」
顔がひきつるのが、自分でもわかった。
これ、初手から難易度おかしくない?
全身から、変な汗が吹き出してくるのがわかった。時間の感覚すら薄れていく。
一歩、前に踏み出した――つもりだったのに、足は力を失い、そのままへなへなと座り込んでしまった。
……落ち着け。考えろ。
深呼吸。ゆっくり、ゆっくり。
《創造》《火》
……何も起きない。
《創造》《明かり》
――変わらず、闇。
《創造》《太陽》
……駄目だ。
暗闇はびくともしない。
そもそも、《創造》には“元”が必要なんだ。
僕は見えない地面を握りしめた。湿った土と、枯れ葉の感触だけが頼りだった。
「……誰か、いないの?」
声を出した。
けれど、その声は闇の中に吸い込まれていく。返事はない。気配もない。
闇が――押し潰してくる。
怖い。
怖い。
怖い、怖い、怖い、怖い。
目を開いても閉じても、闇しかない。
「……だれ――」
言いかけて、ふと気づいた。
……もしかして。
《創造》《叡知の書》
瞬間。
僕の目の前に、“光”がふっと現れた。
僕は《叡知の書》を、もう一度《創造》し直した。
今度は、光を放ち、二人の女の子が立体化して僕と対話してくれる――そんな姿を、強くイメージして。
ぱあっと光が弾ける。
「……やった」
掠れた声でそう言ったが、次の瞬間、僕は固まった。
現れた二人の女の子は――僕の膝の半分くらいの高さしかなかった。まるで、ままごと用の人形が動き出したみたいなサイズだ。
「……ちっさ」
つい、言ってしまった。
すぐに、片方の女の子がぷくっと頬を膨らませた。
「ちっさ、て言うな!」
続けて、もう一人が腕を組んで言った。
「そうだ、そうだ! イメージが足りないのてす!」
「ねー!」
「ねー!」
二人の声が綺麗にハモった。
「……すいません」
思わず謝ってしまった。
……いや、待て。どうして僕が謝る流れになってるの?理不尽じゃない?
しかし、二人の女の子は当然と言わんばかりに、ちまっとした体で仁王立ちしていた。
この高さでは、会話をするのに首が痛くなるかな――と僕は思った。
そこで、すぐに《創造》《ステージ》を発動した。
ぐぐぐ、と二人の女の子の足元が盛り上がる。
「ぎゃーっ!?」
「い、いやぁぁ!?」
小さな悲鳴を上げながら、女の子達が慌ててバランスを取ろうとしていた。
盛り上がった地面は、僕がお山座りした時に、ちょうど目線が合う高さで止まる。
それは、円形のステージの台のような形をしていた。
……うん。
これで話しやすい、かな。
だが、地面の動きが止まるや否や、二人はぷりぷり怒り出した。
「ちょっと! 突然やるのはやめて下さい!」
「そうよ! 怖いじゃない!」
さらに追撃のように――
「せめて違う場所に作って、そこに移動させればよかったでしょ!」
「ほんとそれ!」
……あ。
本当だ。
「ごめんなさい。気がつきませんでした」
僕が素直に頭を下げると、二人は胸を張って言った。
「わかればよいです!」
「何かするときは声をかけること! これ、大事!」
叱られているはずなのに――
何故か、僕はじんわりと安心していた。
「どうやって光ってるのかな?」
目の前に浮かぶ二人の少女――僕が《創造》したはずの“叡知の書”。
その身体は、まるで淡い光をまとった小さな精霊のように、ぼんやり明るい。
僕が作ったのに、なんで光ってるのか全然わからない。
不思議すぎる。
「知らなーい」
「知らなーい」
はい、またハモった。
……うん。
深く考えるのはやめておこう。
とりあえず、今の問題を聞かないと。
「この闇の中を僕は一週間、一人でいなくちゃダメなの?」
少女たちは、当然のように言った。
「そうだよ」
「それがアイテムを手に入れる条件だよ」
「それって……事前準備してないと、かなり厳しいんじゃない?」
「そうだねー」
「用意は必要だねー」
……ちょっと。
アレクサンダー、酷くない?
「でも、食料はあるんでしょ?」
「うん」
「で、叡知の書もある、と」
「うん」
二人はにこっと笑って――
「カンペキ☆」
「そうですよね~」
……はい。
わけがわかりません。




