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異世界転生ではなく、AI の作った世界に転生した僕  作者: りな


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翌日。

 僕は《転移》《登録地点》で、昨日アレクサンダーと別れたあの場所に立っていた。


 とりあえず《瞬歩》を確認したいな――そう思っていた矢先、空間がふっと揺れた。


 アレクサンダーが現れた。《転移》だ。

 この、前触れもなく出てくる感じ……心臓に悪い。


「おはようございます」

「おはよう。早いな」

「目的地まで、あと少しなので」


 ……瞬歩は、後でいいか。


「じゃあ、行くか」


 アレクサンダーが歩き出し、僕もついていく。しばらくすると、彼は急に立ち止まった。何だろう、と横に並んだ瞬間――足元が暗闇に抜け落ちた。


 深い谷だった。底が見えないほどの。


「……どうするの?」

「降りるぞ。アイテムは、この谷を降りたところだ」


 え。

 降りるって……どうやって?

 近くて簡単なルートじゃ、ないの?


「どうやって降りるんですか?」


 アレクサンダーは持っていた布をひょいと左手に掲げた。


《創造》《パラシュート》


 光が弾け、彼の手にはパラシュートが二つ。


「ほら。着けるぞ」


 ……これで、落ちる?

 ちょっと待って。怖すぎるんだけど。


「落ちるだけだ。楽なもんだろ?」


 アレクサンダーは朗らかに笑った。

 いやいやいや。楽じゃないって!


「やり方は分かったな。じゃあ、先に行くからな」


 そう言った途端――

 アレクサンダーは迷いゼロで谷に身を投げた。落下しながら、途中でパラシュートを広げる。


「……嘘」


 僕は呆然と立ち尽くすしかなかった。

 僕は谷を覗きこんだ。


 深い。

 深すぎる。

 底なんて影も形も見えない。


 視界の奥が吸い込まれそうで、足が震える。背筋に冷たいものが走った。


 どうしよう。怖い。とても。


 ……でも、行くしかない。


 僕は目をぎゅっと瞑った。

 そして、覚悟を決めて足を踏み出した。


 瞬間、重力が消えたような浮遊感が身体を包む。


 ――あ、これ死んだ。


 そんな考えがよぎるほどの落下速度。

 それでも僕は、必死にパラシュートの紐を引いた。


 ばさっ。


 身体にがくりと衝撃が走る。

 一瞬、呼吸が止まるほどの強烈な引き戻し。


 それでも――落下はゆっくりになった。


 安堵で力が抜けかけた頃、視界の下に細い川が見えた。そのほとりで、アレクサンダーが腕を組み、退屈そうに立っていた。


「遅かったな」


 僕の青白い顔を見て、彼はニカッと笑った。


 ……何も言い返せなかった。


「ほら、あれだ」


 アレクサンダーが指さした先――その視線の先に、一本の木があった。


 ……実がなる木?

 でも、あれ……銀色の実?


 近づくにつれ、はっきりわかった。

 銀色に輝く林檎が、枝にずらりと実っている。


 僕とアレクサンダーはその木の前まで歩いた。


 ……本当に“銀色の林檎の木”だ。


 アレクサンダーは一つもぎ取り、そのまま僕に手渡してきた。


「これが、ゲートを開くためのアイテムだ」


 ……一個目が金色で、二個目が銀色の林檎。どういう基準なんだろう?


「……構えろ」


「え? なにを――」


 言い切る前に、空気が震えた。


 目の前に“それ”は現れた。


 ごごご、と大地を揺らす足音。

 岩が積み重なったような身体。

 僕の何倍もある巨体。

 赤く光る目が、異様だ。

 岩石の巨人――。


「殺るぞ」


 アレクサンダーが短く言い放つ。


 ……ちょっと待って。どうやって!?

 僕の弓矢も斧も、絶対効かないって!


 巨人が僕に向けて岩のような腕を振り上げた。


「――っ!」


 反応しきれない。身体が固まる。


「ちっ!」


 アレクサンダーが舌打ちし、僕の身体を抱えて後ろへ飛び退いた。巨人の腕が地面をえぐり、土煙がふきあがる。


「ぼさっとしてるんじゃない!」


 短く、鋭く、アレクサンダーが吐き捨てた。


 ……いや、無理でしょこんなの!ていうか、あんなの当たったら即死!ヤバい!

 心の中で叫びながら、僕は必死に体勢を立て直した。


アレクサンダーは地面へ片手を押しつけた。


「《創造》《盾》」


 瞬間、ぼっ、と音がして、土が盛り上がる。巨大な土壁が、僕の目の前に立ち上がった。


「少し、ここで見てろ」


 そう言い残し、アレクサンダーの身体が――跳ね上がった。


 ……高い。

 人間が跳べる高さじゃない。


 体勢を崩すことなく、空中でアレクサンダーは短く詠唱する。


「《風魔法》《砲弾》」


 圧縮された空気の塊が、炸裂するような音を立てて巨人へ放たれた。


 巨人は岩で出来ているくせに、驚くほど素早く身をよじって避ける。

 避けた――はずだった。


 だが。


 空気の弾丸はかすめた巨人の腕をえぐり飛ばした。

 岩の腕が爆ぜ、砕け散る。


 ……すごい。あれ、直撃だったらどうなってたんだろう。

 しかし巨人は失った腕をちらりと見ただけだった。そして、ぐうぅ……と地鳴りのような声を発する。


 巨体が赤くきらめく。砕け散った腕の断面から、岩が盛り上がるように再構築され――、 再生した。


「……ちょっと、強すぎない?」


 思わず声が漏れる。

 僕には壁の影から、息を潜めて見守ることしか出来なかった。


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