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異世界転生ではなく、AI の作った世界に転生した僕  作者: りな


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湖から上がった僕は、濡れた髪を払いながら青く光る水晶を掲げた。

アレクサンダーはそれを一目見て、驚いたように目を見開いた。


「すごいな……まさか、これを引き当てるとは」


僕はタオルで身体を拭き、服を着ながら尋ねた。


「それって、何なの?」


アレクサンダーは水晶を受け取り、光にかざしながら呟くように言った。


「“幸運の水晶”だ。持っているだけで幸運が舞い込む……まあ、それ自体でも十分レアなんだがな。だが、こいつにはもう一つ、特別な性質がある」


「もうひとつ?」


アレクサンダーは静かにうなずく。


「破壊すると、未来に受け取るはずだった幸運が――経験値に変換されて手に入る」


「……どういうこと?」


「つまり、破壊すれば莫大な経験値が一瞬で手に入る。直ぐにでもラスボスと対面できるほどの、な」


風が止まったような気がした。

そんなすごいものを……僕が?

僕は手のひらの上で淡く光る青い水晶を、じっと見つめた。


僕の心臓が、どくり、どくりと大きく波打つのがわかった。

――破壊すれば、一瞬で強くなれる。

――最短の道で、ゲームを終わらせられる……!

でも、将来の幸運を一瞬で終わらせていいのだろうか……?


「知ってるか?幸運って相当すごいんだぞ?」

アレクサンダーが目を輝かしながら言ったが、もう僕の耳には届いていなかった。


僕は青い水晶を右手に握りしめ、そっと息を吸った。


《破壊》……《水晶》


光が弾け、次の瞬間には水晶はサラサラと灰になって僕の指の間からこぼれ落ちていった。

アレクサンダーは目を大きく見開いたまま、動けなかった。


その刹那――


「crazy」


どこからともなく、かすかな声が聞こえた気がした。

風の音か、ただの錯覚か……わからない。


でも、決めたんだ。


僕は将来の幸運なんていらない。

ラスボスを倒して……家族のところに戻る。

そのために、今を選んだだけだ。

僕は手のひらに残った砂を握りしめた。



-----

私は、青い世界にいた。

静かで、深くて、どこまでも澄んだ――永遠みたいな場所。


そこへ、ひとすじの光が差し込んだ。

その光の中に……あの子がいた。


ずっと、ずっと求めていた。

ようやく会えた。

ようやく――見つけてくれたんだ。


あの子の手が、そっと私を包む。

胸がふわりと熱くなる。


……やっとだ。

これで、これからはずっと一緒に――


視界がひらけ、外の世界が見えた。

青い空、草原、そして湖。


……そして、ひとりの胡散臭そうな男。


誰よ、こいつ。

まさかこの子に、何かしてないでしょうね?


私はじろりと睨んだ。

その瞬間、あの子が私を見つめた――すごく、真剣な目で。


……え?

そんな顔で見つめられたら――


次の瞬間、目の前が暗くなった。



――真っ白な空間。


 上下の感覚すら曖昧な、音も影もない世界に、私はひとり静かに立っていた。


 そして、真正面には――

 金糸をさらりと流したような髪。透き通る青い瞳。あの神様が、立っていた。


「……また来たね」


 彼はどこか困ったような、それでいて堪えきれない笑いを含んだ顔をしていた。私は無言でじろりと睨みつける。


 ――この表情、絶対笑い堪えてるわね。


 目元なんてゆるゆるだ。口元も震えてる。私の視線に気づいたのか、神様はますます肩を震わせた。


「……残念だったね」


 その瞬間――ぷふっ、と吹き出し、そのままぶふーっと大爆笑。挙げ句の果てには咳き込み始めた。


 ……何、この神様。ムカつく。


「すごく良いポジションだったんだけどね……ぷっ……」


「言わなくていいわよ」


 お腹を抱えて笑う神様を見ると、怒りより呆れが勝ってきた。なんで転生先での失敗でここまで笑えるのよ。


 深呼吸して、私は言う。


「――次よ」


「え? まだ行くの?」

「当然でしょ。早くして」


 私の視線に、神様は肩をすくめた。


「はいはい、わかったよ……。じゃあ、次の世界、行ってらっしゃい」


 そうしてまた、視界はゆっくりと暗く沈んでいった。



――意識が浮上した。


気がついたとき、私の世界は、どろりとした赤に満たされていた。

 視界の端まで続く、濃く、重く、揺らめく赤。

 まるで大地の奥底で、血潮のように脈打つ液体が、静かにたぎっているかのようだった。


 動こうとして気づく。

 ――手がない。足もない。

 形として存在しているはずの身体が、どこにもない。


 それでも、私は“ここ”に在る。


 周囲は、触れた瞬間に形すら溶かしてしまうような、圧倒的な熱を孕んでいた。

 なのに私は、何も感じない。焼ける痛みも、灼けつく熱も、いっさい届かない。

 感覚が削ぎ落とされた静けさのなか、ただ、揺りかごのような安らぎだけが満ちていた。


 ……でも。


 ここが“待つための場所”だということは、すぐに理解した。


 今度こそ――あの子のところへ還らなければ。


 前回は果たせなかった。

 きっとあの妙な男が、余計なささやきを吹き込んだせいだ。


 だからこそ、今回は。

 私は、深く、深く願った。


 どうか。

 どうか、早く――私を見つけて。


 赤い海が、ぐつりと脈を打った。

 その鼓動に呼応するように、私の祈りも、ふくらみ、熱を帯びていった。


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