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異世界転生ではなく、AI の作った世界に転生した僕  作者: りな


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僕は一晩眠ったことで、ようやく頭が冷えた。

今すべきことは決まっている。――アイテムを集め、ゲートを作り、ラスボスを倒す。それだけだ。迷っている暇なんてない。


気合いを入れて家の扉を開けた、その瞬間。


「よう、やっと起きたか」


草原が広がる中に、アレクサンダーが立っていた。


………なんで?


「おはよう。よく眠れたかな?」


「は、はい」

いや、待て。どうしてここにいるの? 場所、どうやって知ったの?


「エミリーとサラがさ。『ラスボス倒すまで手助けしてあげなさい』って。あんな小さいのに頑張ってるんだから、って煩くてな」


アレクサンダーは頭をかきながら、いかにも面倒くさそうに言う。


「……どうして、ここがわかったんです?」


ようやく声が出た。


「そういや、君には“叡知の書”を見せてもらってるのに、俺のはまだ見せてなかったな。……window open」


その瞬間、アレクサンダーの顔の周りに、半透明のスクリーンが次々と浮かび上がった。

一つや二つじゃない。三十はある。もっとかもしれない。


そこには、僕の知らないPCたちの現在地や様子が映し出されていた。………叡知の書じゃないよ、これは!


「これまで会ったPC全員の居場所と動向が分かる。不穏な動きがあれば止めるために、だ」


アレクサンダーは淡々と言った。


「…どうしてそんなことを?」


僕は恐る恐る尋ねる。


「この世界が大切だからさ。混乱を招いたり、壊すようなPCは――消去しないと駄目だろう?」


にこりと笑って言い切る。


………やっぱり、怖いおじさんだ~!!


「次に行くところは決めたのか?」


アレクサンダーが歩きながら聞いてきた。


「まだです」

僕は正直に答える。


「近くて楽な場所と、遠くて大変な場所。……どっちが良いかな?」


「近いところでお願いします」


即答だった。冒険者としての覚悟なんて、まだまだ足りない。近くから、確実に進めるんだ。


「了解」


アレクサンダーは僕の前を軽い足取りで進んでいく。


草原には心地よい風が吹いていた。どこか懐かしい匂いがする。突然猪が飛び出してきた。

アレクサンダーは弓を構えたかと思うと、

次の瞬間には敵が光となって散っていた。


……あれ?

僕、何もしてないのに経験値が増えてる?


首を傾げていると、アレクサンダーが振り返って言った。


「仮パーティーだから、経験値が共有されるんだ。俺は別にいらないのだけどな」


サラリと言うその背中が、いつもより大きく見えた。


……アレクサンダーって、とても良い人だ! 優しい!!

お昼ご飯の時間になって、アレクサンダーが鞄から包みを取り出した。


「ほら、エミリーが持たせてくれた。二人分だ」


包みを開くと、きれいに整えられたお弁当が入っていた。彩りの良いおかずに、香ばしい焼きおにぎり。そして、可愛く切られた果物まで。


どうしよう。……とても嬉しい。

ふいに、母さんのお弁当を思い出した。

どんなに忙しくても、絶対に果物をつけてくれていた。


胸の奥がきゅっと締め付けられる。気づくと、目の前が滲んでいた。


アレクサンダーは何も言わずに、僕の隣に座っていた。


しばらく歩くと、草原が途切れ、ひらけた水面が現れた。

太陽の光を受けて静かに揺れる湖。その前でアレクサンダーがぴたりと足を止めた。


「……まさか」


そうつぶやくと、吸い寄せられるように湖へ歩き出す。僕は慌ててその背中を追った。

アレクサンダーは湖畔に立ち、水面を覗き込みながら言った。


「やはり――“幻の湖”だ。…ここに出現するとはな」


独り言のような声だった。僕には、ただの湖にしか見えない。


「どうしたの?」

思わず首をかしげて尋ねる。


「この湖は滅多に現れない。場所も時間も、出現条件すべてが不明だ。そして……湖の中には、とても貴重なアイテムが眠っている」


アレクサンダーは静かな湖面を真剣な目で見つめていた。しばらくして、静かに僕へ視線を向けた。


「……ケント、泳げるか?」


「泳げるけど……僕が行くの?」

スイミングに通っていたから、泳ぎには自信がある。でも、本当に僕が行っていいのだろうか。

アレクサンダーは迷いなく言った。


「そうだ。君はラスボスを早く倒したいんだろう? なら、きっと助けになるアイテムだ」


その瞳はまっすぐで、どこまでも優しかった。胸の奥が少しだけ熱くなる。


「……わかった」


……湖を泳ぐのは初めてだ。少し身体が震えた。けれど僕は深呼吸をして湖へ飛び込んだ。


水の中は静かで、光が揺らめきながら差し込み、幻想的な景色を作り出していた。

その奥で――淡く光る物体が視界に入る。


(あれだ……)


僕は潜り、近づいた。そこには信じられないものが沈んでいた。


……宝箱だ。


ゆっくりと手を伸ばし、恐る恐る蓋を開ける。中には――青く輝く大きな水晶。

吸い込まれそうなほど、美しい。


僕はそれをそっと両手で抱え、光の差す水面へと向かった。

……水晶は少し重くて、滑らかな表面は手に不思議と馴染んだ。


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