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異世界転生ではなく、AI の作った世界に転生した僕  作者: りな


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僕は村へ向かって、ひたすら歩いた。


道の途中、唐突に牛が現れた。


……よし。《風魔法》《鎌鼬》


指先から放たれた見えない刃が、牛を一瞬で切り裂く。

牛は影のように消え、肉と牛乳が足元に残った。


面倒だし……《収納》


声をかけるだけでアイテムが吸い込まれる。

この便利さ、ちょっとクセになりそうだ。



そのまま歩いていると、遠くで何か音が聞こえた気がした。……気のせいかな?と思っていたら今度は猫が出てきた。


小さくて、ふわふわで、にゃーにゃー鳴いている。……かわいい。めちゃくちゃ可愛い。


「え、これ倒すの? 無理では?」


風魔法を撃つのをためらった、その一瞬。

猫が――ありえない速さで突進してきた。


「はっ……!?」


見た目に反して、牙がギラリと光る。

赤い目が、僕を真っ直ぐ捕らえていた。

本気で殺しにきてるやつだ、これ!


咄嗟に僕は地面を転がって避けた。

服が土で汚れるなんて、どうでもいい。死にたくない。

猫は即座に向きを変え、再び僕を狙ってくる。


心臓が痛いほど速く打つ。

やばい、撃たなきゃ。魔法――!


その瞬間、横から矢が飛んだ。

ヒュッ。

矢は一直線に猫へ突き刺さり、


「ギャンッ!」


短い悲鳴を上げて、猫は霧のように消えた。

僕は尻もちをついたまま、荒い息を整える。


「君、大丈夫か?」


上から聞こえた声に、僕は顔を上げた。

背の高い男が立っていた。肩まである弓、背中の矢筒、腰には使い込まれたナイフ。まるでファンタジー世界の狩人そのものだ。


「……その服装、来訪者か? 久しぶりに見たな」


おじさんはそう言うと、僕の手を取って軽々と立たせてくれた。僕は久しぶりに握った人の手が、とても温かく感じた。


「君は地球から来たんだろう? いつ来たんだい?」


白い歯を見せながら笑う顔は、屈託がなくて優しそうだった。

……悪い人ではなさそう。少なくとも、さっきの化け猫よりは百倍マシだ。


「……日本から。一昨日に来た」


「そうか。じゃあ村に向かうところだな。俺もちょうど帰るところだ。案内してやろう」


その言葉に少し迷ったが、おじさんが指差した方向は、僕の地図ウインドウに表示された矢印と一致していた。


……なら、信じてもいいだろう。


「じゃあ、お願いします」


僕が頭を下げると、おじさんは満足そうに頷いた。周りにあるのは、森と草原のみ。風が僕の頬をくすぐった。


歩き出してすぐ、おじさんが口を開く。


「さっきのは、猫に見えるが魔物化した奴だ。凶暴でな、足も速いし牙も鋭い。遭遇したら即攻撃するか、一目散に逃げるんだ。まともに戦えば初心者じゃ死ぬ」


「……猫は、魔物なのですか?」

……そんな強いの?

あんな小さいのに??


「普通の猫に遭う時もある。普通の猫はみんな“青色の目”をしてる。魔物化したものと見分けになるから覚えておくといい」


「普通の猫は、全て青い目なのですか?」


「そうだ」

おじさんは当然のように言った。


なるほど……そういう設定なんだ。

これはちゃんと覚えておこう。


ファンタジー世界の豆知識を聞きながら、僕はおじさんと並んで村へ向かった。



途中で豚と狼に遭遇したけれど――

僕が《風魔法》と言いながら右手を構える前に、おじさんの矢が放たれていて、豚も狼も一撃で霧のように消えていた。


消えた場所にはアイテムが残っていて、豚は肉、狼は毛皮をドロップしていた。

おじさんが倒しても僕と同じようにこうして落ちるのか……便利だな。


ところで……弓矢ってカッコいい。

絶対に。とっても。すごく。

風魔法も良いけれど、効かない相手もあった。攻撃手段、多い方がいいよね。


僕も弓矢、欲しいな。

練習したら使えるようになるかな?



そんなことを考えていたら、おじさんの弓矢ばかり見ていたらしい。


「弓矢が欲しいのか?」


不意に声をかけられ、僕は慌てて視線をおじさんの顔に向けた。


「う、うん。カッコいいと思って……」


おじさんは声を上げて笑った。


「いいじゃないか。欲しいのなら、手伝ってやるよ」


て、手伝う?

何を?


僕はよくわからなかったが、おじさんが歩き始めたので、慌てて後ろを着いていった。

遠くに建物が集まっているのが見えた。それを、ぐるりと柵が囲っていた。


「あれが、村だ」

おじさんは言った。


村の門をくぐった瞬間、急に明るいざわめきが広がった。


露店で野菜を売る人。

井戸端で楽しそうに話す人たち。

子どもを抱いた若い母親。

……でも、どこか妙にひっかかる。かつて感じた、違和感。

そんな中――


「父さーん!お帰り~!」


高い声がして、ひとりの女の子が駆けてきた。陽の光を受けて、長い髪がキラキラと輝いている。頬はうっすら赤く、息を弾ませながら、それでも嬉しそうに笑っていた。

………可愛い子だ。


彼女の少し前を、牧羊犬が先に走っていく。

そして、おじさんを見るなり勢いよく飛びついた。


「おおっと、ジョン! はは、やめろって!」


おじさんの顔を、牧羊犬が容赦なく舐めまわす。村に戻った瞬間、こんなに歓迎されるなんて……すごい。


「はぁ……やっと追いついた……」


息を切らしながら、女の子が僕の目の前に立った。その青い瞳が真っ直ぐ僕に向けられた瞬間、なんとなく胸がざわついた。


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