side ガリアス
嫁がやってきた。
しかも異世界から。
この世界において、禁忌とされている召喚の魔方陣を発動させた結果だ。
神より禁止とされた異世界召喚は、その魔方陣の存在自体が世界から消え去っていた。だが、運命の番の召喚の魔方陣は存在した。
「存在するということは使ってもいいということです」
という魔法省アントンの甘言を聞き、俺は城の大広間で運命の番を召喚する魔方陣を発動させたのだった。
その結果が異世界、ニホンという国からやってきたケイタだったのだ。
運命は甘い。といよく聞いてはいたが、本当に甘かった。
ケイタ本人は気が付いていないようだが、吐き出す息さえ甘いのだ。会話をするだけで眩暈がしそうなほどなのだが、残念なことに異世界から来たケイタには魔力がなかった。これは聖女の書いた文献に載っていたのでわかっていたことだった。ケイタがいたニホンには魔素が存在しないのだ。
オメガが発情期を迎えるためには、体内に限界まで魔力を蓄える必要がある。限界まで魔力が溜まると、オメガは晴れて発情期を迎えるのだ。つまり、発情期にオメガが放つフェロモンは、高濃度の魔力なのだ。
ケイタを早く発情させたくて、俺はあれこれ策を講じたが、魔法を使ってみたいという好奇心に負けたケイタは、あっさりと俺の魔力を大量に体内に取り入れてくれた。それもやはり聖女の書いた文献によるのだが、都合のいい箇所だけをケイタに読ませたのが良かったようだ。ケイタは俺のいれたお茶、つまりは俺の魔力がはいったお茶を毎日おいしそうに飲んでくれた。もちろん、天然の魔素も取り込ませたはしたが。
そうしてケイタは嬉しそうに魔法が使えるようになったことを俺に報告してきた。
ケイタの手のひらに出された水は、まるでケイタかのように甘かった。紛れもなく、ケイタが熟しきったことを示していたのだ。
俺はケイタの胎内に貯まった俺の魔力に働きかけた。
するとどうだろう?
「なに?ねぇ、何が起きてるの?なんか、苦しいよ……ガリアス」
自身の胎内に貯まりまくった俺の魔力が動き出したことにケイタは怯えていた。初めての発情は、オメガにとっては恐怖でしかないだろう。なにしろ自分の魔力が自分の意志と関係なく放出されてしまうのだから。
魔力の放出が始まったケイタを抱きかかえ、俺は寝台へと向かった。いくら何でも大切な番との初めての儀式を、床の上なんぞで迎えるわけにはいかないからだ。だがしかし、魔力が何なのかあまり理解していないケイタは、放出する魔力の調整さえできないようで、あっという間に俺はケイタの魔力に包み込まれたしまった。
「すさまじいな」
飛び込むように寝台にたどり着いたが、足元は本当にぎりぎりだった。ケイタを中心に魔力が糸のように円を描き、やがてそれは大きな球体を作り出していった。
オメガの巣作り。
オメガが胎内に貯まった魔力を放出し、番のアルファを包み込む現象のことだ。これにより、オメガは安全に番を受け入れることができる。そう、オメガの巣の中には、番のアルファしか入ることは出来ない。俺がケイタの巣の中に入れたということは、つまり俺が正しくケイタの番であるということなのだ。
「あああ、こわ、怖い」
ケイタが怯えた声を出している。通常なら母親の胎内にいる時から十数年かけて蓄積する魔力を、数か月でため込み、そうして今その魔力を一気に放出したのだから、ケイタが感じる喪失感は想像を絶することだろう。だが、そうでなくてはいけない。オメガの胎内が空っぽにならなくてはいけないのだ。
オメガの魔力が作り上げた巣の中で、アルファは空っぽになったオメガに自分の魔力を注ぎ込むのだ。そう、オメガが放った分の魔力と同じ、いや、それ以上の量を、オメガが満足するまで注ぎ続ける。オメガが満足するまで、オメガの巣は壊れることはない。
「ケイタ、大丈夫だから」
怯えるケイタの体をいたわりながら、着ている服を丁寧に脱がせていく。一枚一枚脱がせるごとに、ケイタの巣の中が甘い香りで満たされていく。つまり、ケイタが本能で俺を捕まえようとしているのだ。涙を流して怯えるケイタを慰めようと、目じりに唇を落とせば、そこも甘い。しきりに俺の名前を呼ぶケイタの赤い唇に熟れた桃のような色をした舌が俺の欲望を刺激した。ためらわずにくらいつけば、ケイタの方から俺のナカにやってきてくれた。それほどまでにケイタが俺のことを欲してくれているのだと思うと、歓喜で全身が震えた。
執務用の服はなんとも着替えが難しいものではあるが、こんな時こそ魔法で一発解決をした。ケイタの服を巣の外に出すわけにはいかないが、俺が服を脱いだ途端、ケイタの巣が俺の服を異物とみなして巣の外に出してしまった。やはり、求められているのは番のアルファだけのようだ。
「気持ちイイ」
ケイタのあふれ出るぬかるみにそっと指を這わせると、吸い付くように俺の指を奥へと誘ってきた。ただ、初めての上に閨指導も受けていないケイタであるから、誘われるままに胎内に入ることは難しかった。
何しろ大切な運命の初めてである。
まして、俺は王子だ。
その辺のアルファのように粗野にふるまい、欲望の赴くままに番の胎内に己の魔力を放つようなマネは出来ない。たとえ番が何も記憶していないとしても、だ。
ただひたすらケイタが気持ちいいであろう反応を示す箇所を、ひたすらに念入りにかわいがる。ケイタが追熟なんてものを発案したが、まさにケイタの身体こそが追熟されていくようだ。あくまでも優しく丁寧に、それでいて念入りに刺激を与えれば、ケイタのそこは赤く熟して食べごろとなっていく。
まだ何も知らない身体を青い果実などと表現することがあるが、まさに今のケイタは青い果実から完熟した食べごろの果実へと変貌を遂げていた。まだ誰にも啄まれていない小ぶりの果実は、舌先で舐めとる様にして口に含んだ。転がすように味わえば、とてつもなく甘い。
「気持ちイイ」
ケイタはそう口にする。
だから俺は、ケイタがそう口にする個所を探し出し、そこを丹念に味わう。徐々に赤みを増し、そこからにじみ出るケイタの魔力はどうにも甘い。な
青い果実が自ら作り出した巣の中で、自分から追熟していくのを余すことなく口に頬張る。至極の甘味が口いっぱいに広がっていく。それを堪能しつつ、あふれ出る果汁も忘れずに味わい、完熟したことを確認したら、そこからはケイタが欲しがるままに俺の魔力をケイタに注ぎ続けた。
その行為は飽きることなく、そして疲れることなどなかった。貪欲に欲しがるケイタに誘われるままに行動する俺は、まさに運命に翻弄されるアルファそのものだった。
ケイタの首につけた俺の瞳の色の宝石を付けたチョーカーを外せば、この短期間で白さを増したケイタの項が現れた。運命と番うためには、空っぽになった番の胎内に余すことなく魔力を注ぎ、満たされた瞬間に項を噛むのだ。しかしながら、番が満足する魔力の量は想像を絶する場合が多い。魔力があるということは、それだけ受け入れる器が大きいということで、オメガの子宮が育っているということだ。俺の魔力によって発情したケイタは、貪欲なまでに魔力を欲した。
「気持ち、イイ」
何度目かわからないケイタのはじける瞬間に、俺は全力で魔力をそそぎ、そうしてようやく番うことができたのだった。
ケイタの胎内には、余すことなく俺の魔力が注がれている。
発情し、巣作りをしたケイタであるが、オメガ性については誰も教えてなどいない。だから何も知らないケイタは、何も知らないまま俺の魔力を使ったのだった。
「おかえりケイタ」
「ただいま」
いつぞやの勇者が作った帰還の魔方陣は、この言葉によって効力が失われる。
ケイタは、俺の腕の中に帰ってきたのだ。
え?ギリギリを攻めてみましたけど。
オメガバースですからね。この作品