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第22話 時はみちたり帰還の魔法陣


「気持ち、イイ」


 気持ちイイことしか考えられなくて、俺はただひたすら口を開けてひたすら呼吸をしていた。何がどうしてどうなっているのかなんて、全くもってさっぱり分からない。ただひとつ、言えることは、


「気持ちイイ」


 ただひたすらにこの言葉だけを繰り返し口にしている。もはや、何がどうしてこうなったのかなんて、どうでもいいことだ。頭のてっぺんから足のつま先まで、甘い痺れが何度も駆け抜けていく。何度も何度もガリアスと目が合って、その度にへその辺がキュンキュンした。

 魔力が満ち溢れている。って言うのが実感、体感出来ている。俺の体に正しく魔力が溜まり、俺は発情して魔力を使っているのだ。

 間違いなく俺は任務を遂行している。

 金髪イケメン王子ガリアスの嫁になったのだ。

 一度後頭部に凄い衝撃があった時、耳元でガリアスが「つがったよ」と言ったので、俺は完璧に任務完了したと言っていいだろう。


「だるぅ」


 肌触りのいいシーツの上で、何回か目の寝返りをうったとき、俺の口からこぼれたのはこんな言葉だった。いや、本当にだるいのよ。どこが?って聞かれるとなんとも答えづらいんだけど、言うなれば全身ってやつだ。


「関節がバキバキしてる」


 そう、寝返りを打つ度に体のあちこちから、パキって音がするんだよな。なんかもう、腰も背中も股関節も果ては膝や足首までもがバキバキ鳴ってしまうのだ。一体俺の身に何が起こったのか、残念ながら全くもって記憶にないのだ。本当に覚えているのは僅かなことで、断片的な記憶もほぼ曖昧と言っていい。ただ、「気持ちイイ」って、口にしていたことだけは分かっている。だから気持ちイイ何かをしたんだろう。うん、何しろ俺は嫁だからな。


「さて、任務完了したら帰還の魔法陣でサクッと元いた世界に帰りますかねぇ」


 魔法省のアントンから借りっぱなしの魔法陣の本を開いた。借りパクにはならない。なぜなら俺はこの本に描かれている帰還の魔法陣を床にかくからだ。当然俺が元の世界に帰れば、この本はここに残される。きっと魔法陣も消えてしまうことだろう。


「この部屋、床が絨毯なんだよな」


 魔法陣を描くためには、広い床が必要である。事前にアントンに確認しておいたところ、直径1メートル程の魔法陣がかければ大丈夫だと言われたんだよな。そうなると、まず今いる部屋は無理だ。ベッドの上から見渡す限り、しっかりと床に毛足の長い絨毯が敷かれているからだ。もちろん、いつもお茶をしたり食事をしていた部屋もむりだ。部屋のあちこちにラグが敷かれているし、何よりメイドさんが来てしまう。

 いくら器用な日本人とは言えど、魔法陣は結構複雑な模様をしているので、正確に描くためには2時間は必要だと思うんだよな。しかも、この帰還の魔法陣はよく見ると模様が、カタカナなのだ。なんか、怪しい模様だなぁ。って、思っていたら、カタカナがびっしりと書かれていたのだ。不思議な記号なのではなく、カタカナがびっしりと書かれて模様に見えていたのだった。

 だから、始まりを探してゆっくりと読んでいくと、帰還の魔法陣、帰ろう日本へ、俺たちの故郷は日本だ、我が故郷日本、なんて羅列が続いていた。もちろんカタカナだから、結構読みづらかったけど、一度ハマるとツラツラと読めてしまった。

 つまり、この魔法陣を考えたのは召喚された日本人で間違いないだろう。


「よし、描くぞ」


 俺は魔法陣を描くために用意したチョークを取り出した。何度か魔法省に行った時にパクって来てたんだよね。実際、小さい魔法陣なら紙に書くからペンでいいらしいんだけど、床に書くとなるとそれなりの文字の濃さを求められるから、チョークがいいらしい。しかも、このチョークは魔法省のお墨付き。どんな床にも描けてしまう魔法のチョークなのだ。

 俺はそっとバルコニーに出た。

 太陽が出ていて眩しいが、バルコニーの床は黒っぽいため反射がなくて目には優しい。俺は直径1メートルぐらいの円を描き、そこにカタカナで出来た魔法陣の模様を描いていった。なかなか複雑だけれど、一つ一つがカタカナだと分かればどうってことは無い。とにかく魔法陣の中を埋めるようにカタカナをひたすら書いていく。


「出来た」


 本の魔法陣と見比べるが、遜色のない素晴らしい帰還の魔法陣がかけた。

 俺は一息つくと、メイドさんたちにバレないように着替えをした。この世界に召喚された時に着ていた服はもう見当たらないので、できるだけシンプルな服を厳選した。もちろん、日本で浮いてしまわないように色合いも考慮した。靴のデザインがちょっとなんだけど、靴下を履けないのが辛いけど、まぁいい。


「我願う。元いた場所にただいまを」


 魔法の言葉を読んだ時。これは完全に日本人が日本人にしか分からない言葉を使ったんだと確信した。だって、ただいま、だよ。

 そんなことを考えているうちに、俺の足元に描かれた帰還の魔法陣が淡い光を放ち始めた。頑張れ俺の魔力!

帰るんだ。俺は元いた場所に帰るんだ。俺は強く願った。

 すると俺の強い願いが通じたのか、帰還の魔法陣から激しいぐらいの光が溢れ出し、俺の体はその光の中に溶けていった。


「成功だ」


 俺はおもわず呟いた。


()()()()()()()()


 だが、次の瞬間、俺はガリアスの膝の上にいたのだった。

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