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第13話 だから、だから、そうじゃない


「え?なんで?ガリアスいんの?」


 俺はしっかりと手をつないだ状態で、金髪イケメン王子ガリアスの顔を見た。海水の生け簀に二回も落ちた俺は、びしょびしょで、しかも髪の毛なんかがべったりと額に張り付いている。普通に考えて、ちょっと手をつなぐのはためらうところだ。それなのに、ガリアスは何のためらいもなく俺の手をしっかりつかんできたのだ。

 これはもしかして?


「ケイタ、大事ないか?」


 さわやかな笑顔で俺を見つめるガリアス。なんかかっちりとした服装で、いかにもお仕事してました。って感じがする。


「全然。すっごい面白い。こんな設備作れるなんてすごいよな」

「あ、ああ。我が国の最高傑作と言えるだろう」


 俺が素直に褒めれば、ガリアスはまんざらでもない。という顔をした。


「こ、この設備はですねっ、ガリアス様が発案されたんですよ」


 さっきまで職員と思しき人たちと話し込んでいたラムザが、いつの間にかにガリアスの横にいて、なんだか焦った風に解説を始めた。


「海鮮丼を教えて下さった聖女様は、我が国がはるか昔に召喚しました。聖女様は我が国を救ってくださっただけではなく、様々な知識をもたらしてくださったのです。そんな聖女様の文献からガリアス様が、こちらの設備『生け簀』を考え出されたのです。当時は聖女様のお話を聞いても実現は出来なかったのですが、ガリアス様が文献の内容を具体的な形にしてくださったので、我が魔法省が知識と魔力を終結させて、この設備を完成させたというわけなのです」


 すらすらと解説してくれたラムザだが、まあ、わかりやすく言えば当時召喚された聖女は多分高校生ぐらいの年齢で、マグロを養殖するなんて知識はなかったんだと思う。今でこそ、どっかの大学が回遊魚であるマグロを卵から育てて養殖して、全身トロのマグロを作り出したりしてるけど、はるか昔が日本で何年前に該当するか知らないけれど、当時は確立されていなかったんだろうな。そもそも大学の研究って、学会に発表されるまで完全シークレットなわけだし。


「そうだよな。日本でもマグロの養殖ってようやく実現できたぐらいなのに、すごいよな」


 まあ、褒めておくに限るだろう。この場合。


「しかも、このサーモンの生け簀は凄いよな。真水と海水が混ざってないもん」


 俺がそう言うと、ラムザの顔がぱあっとにやけた。


「さすがは番様。この設備の素晴らしさをご理解いただけたのですね」

「うん、もちろん。同時にすっげぇアトラクションだと思う」


 俺がそう答えると、ラムザはぽかんと口を開けたまま固まった。


「そう、すっごいアトラクションだと思う。だから、ガリアスも体験してみようぜ」


 俺はそう言って、つないだままのガリアスの手を取り、そのままグイッと水路に座らせた。もちろん後ろには俺が座る。


「3・2.1・ゴー」


 俺がそう合図をすると同時に、俺たちは水路を勢いよく滑り出した。さすがに男二人が勢いよく滑るから、水しぶきも結構激しい。俺が奇声を上げるのとは正反対に、ガリアスは終始無言だった。


「あれ?ガリアス、面白くなかった?」


 海水の池に落ちて、俺がそう尋ねると、ガリアスはなんだか困ったような顔をした。


「わかった。じゃあ、今度は俺が前になるよ」


 俺はそう言って再び水路の最初に座り、ガリアスが俺の後ろに座るのを確認した。そうして、さっきと同じ掛け声をして、水路を勢いよく滑った。日差しはそこまで暑くはないが、かっらとした晴天で、水しぶきがなんとも言えず心地よかった。


「あー、おもしろかった」


 海水の池から顔を出して、片手で顔の水をぬぐいながらそう言うと、隣に浮かんだガリアスがものすごく驚いた顔をして、俺を見ていた。


「どうかした?」


 俺がそう聞くと、ガリアスはさらに驚いた顔をして、慌てた様子で俺のことを海水の池から引きあげた。


「風邪をひいてしまう」


 ガリアスの手のひらが俺を包み込むような形をしたと思ったら、温かで心地のいい風が俺の体を包み込んだ。そうしてちょっと驚いているうちに、髪の毛まで綺麗に乾いてしまっていたのだった。


「うん。襟元も湿ってなどいないな」


 俺のシャツの襟を触って確認して、ガリアスがそう言った。この金髪イケメン王子は、どこまでも俺に対して甘い雰囲気を出してくるから困ったものである。しかもさらっと魔法を使ってくるあたり、なかなかの使い手なんだろう。ラノベの知識だけで行くと、無詠唱だからすごいってことになるんだろうな。そんなことを考えていたら、ラムダが青い顔をして駆け寄ってきて、俺たちの顔を交互に見比べてきた。


「あ、あの……番様はいったいどうやって水に浮かんだのですか?」


 ラムダの発言の意味が分からず、俺はフリーズしてしまった。


「番様はまだ魔法は使えないはず、それなのに、どうして水から浮かんでくることができたのですか?」


 あせった様子でラムダがさらに質問をかぶせてきた。俺の前に立つ爽やか金髪イケメン王子ガリアスが、ハッとしたような顔をした。


「そうだケイタ。俺はケイタに魔法をかけて等いない。なのになぜ、一人で水から上がれたのだ?」


 んんんんん?なんだ二人してその質問は。

 はっきり言って俺は全く意味が分かりません。


「は?質問の意味が分からないんだけど?水に浮くのは当たり前のことだろ?」


 え?異世界の常識ってなんか違うわけ?水には浮くよな?水に浮かなかったら人類は母親の腹の中でどうやって過ごしてんだ?いや、異世界も子どもは母親のお腹から生まれてきますよね?


「ケイタ、水に浮くとはどういうことなのだろう?魔法を使わなくても水に浮かぶことができるのか?」


 おやぁ?

 俺にはさっぱり意味の分からん質問が出てきたぞ。異世界の人って水に浮かないのか?なんか重力の法則でも違うのかな?でも、俺は普通に水に浮いたし、ぶっちゃけ泳げたんだが?


「え?まって。この世界の人って、泳がないの?いや、泳げないの?」


 俺がそう言うと、イケメンの顔がピキッて感じで固まった。あれ?俺はなんかまずいことを言ってしまったのだろうか?


「泳ぐ?ケイタ、いま泳ぐと言ったのだろうか?」

「言ったけど?」

「ケイタ、泳ぐとは、つまり水に入るということなのか?泳ぐということを目的として、わざわざ水に入るのか?魔法も使えないのに水に入るのか?」


 なんか、ものすごく重大なことを確認されているみたいだな。俺、そんなにへんなこと言ったのか?


「番様、文献によりますと、聖女様は()()()()()()()()()()()と申された。とあります。番様は聖女様とは違う国から来られたのでしょうか?」


 ラムダが驚愕なことを口にした。だがしかし、これで俺のナカである仮説が確信に変わったといってもいい。


「あー、なんとなくわかったよ。多分だけど、聖女は北の方の、日本の寒い地域に住んでいたんだよ。だから水泳の授業がなかったんだろうな。サーモンが川をさかのぼるのだって、日本のほんのわずかな地域でしか見られない現象だからな」


 俺がそう言うと、ガリアスが目をかっぴらいて、本気で驚いていた。


「ケイタ、文献を読んだわけでもないのになぜそれを?」


 あ、なる。書いてあったんだ。そのての記述。


「うん。聞いただけでだいたいわかるよ。現代日本に生まれ育ったんなら、毎日見ている天気予報で北海道と沖縄の温度差に驚くからね。寒いほうの地域では水泳の授業がなくて、代わりにスキーやスケートの授業があるって聞いたことがあるよ」


 あくまでも聞いたことがあるってだけ。俺は本中の巨大な平野生まれの育ちだから、でかすぎない穏やかな流れの川しか知らないし、夏は水泳の授業があって、冬はマラソンの授業があった。そんな俺の知識を終結させると、聖女は日本海側か、北海道あたりに住んでいた女子高校生だと思うんだよな。


「すごいなケイタ。さすがは俺の運命。いちを聞いて十を知る。とはまさにこのことだろう」


 難か知らないがガリアスがものすごく感動した顔をして、そうして俺を抱きしめたまま魔法を発動させ、気が付くと俺はでっかいダイニングテーブルの前に座っていたのだった。

 

タイトルは多分歌詞

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