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外界とベルランド


私の名前はベルランド・ラズベリー。17歳だ。

ここは地下シェルター、広さは10万平方キロメートルもある。外の世界が氷に閉ざされた時、私たちの祖先がここに逃げ込んだらしい。有害物質まみれの雪が全世界に降り始めたのは約2000年前のことだってさ。その雪、今でも止まないんだぜ。外は凍りついた地獄。誰も外に出ようなんて考えない。というか、出たら確実に死ぬ。そりゃそうだ、警備員が出入り口を厳重に管理してるくらいだもん。自殺行為ってわけだ。


でも私は思うんだ――そんなの、関係ないだろ!

外の世界には、本物の空がある。本物の星、本物の空気だ! 今だって、シェルターの天井にはプラネタリウムがCGの空を映し出している。けど、それじゃダメなんだ。本物じゃないから。私は本当の空を見てみたい。雲一つないひろい ひろい空を、満面に浮かぶ星々を、私はこの目で見てみたいんだ!贅沢な願いなんて思わないだろ? だって、人間が空や星を見るのって そんな特別なことじゃないはずじゃん。



「おーい、そこの姉ちゃん!」

あ、タバコ屋のおっちゃんだ。地下市街地でのおつかいの途中、つい寄り道しちまう。おっちゃんの店はなんか落ち着くんだよな。煙草なんて吸ったことないけどさ。


私はいつも、ここでおっちゃんと星の話をするんだ。

「また星の話か? 星なんてないって前にも言っただろ」

「違うって! 星はあるよ。見えてないだけだ!」

「見えてないものを信じるのか。やれやれだな...」


おっちゃんはいつも冷やかす。でも、私にはわかるんだ。雪が降らない楽園がどこかにあるって。外には絶対、まだ希望があるはず!


ふと気になった私は、おっちゃんに こんなことを聞いた。

「でもさ、おっちゃんは外に興味なかったのか?」

そう聞いたら、おっちゃんが妙にしんみりした顔になったんだよな。珍しいこともあるもんだ。


「……まあな、若い頃は 俺も外界の楽園を夢見たさ。けど、現実を知っちまったんだよ。お前も外の現実を知ったら、夢は追えなくなるぞ」

「現実?」

「外に出るのがどんなに危険かってことだよ。......俺は昔、シェルターの警備員だったんだ」


「はあ!? 警備員? あんたが? 今じゃタバコ臭いおっさんなのに?」

「ウルセェ! 昔はキレキレだったんだよ!」


意外な話にちょっと笑っちまったけど、おっちゃんは本気だったみたいだ。彼は昔、シェルターの出入り口を管理してたらしい。外に出たがる奴や、楽園を目指して命を落とす奴を何人も見送ったんだと。


「でもな、どうしても外に行きたいって気持ちは捨てきれなかったんだ。だから……これを作った」

そう言って、おっちゃんはカウンターの奥から、古びた鍵を取り出した。


「鍵……?」

「そうだ。出入り口のマスターキーを模倣して作ったスペアだ。俺は使う勇気がなかった、だからこれをお前に託す。俺の夢ごとな」


そう言って、おっちゃんはさらにもう一つ、大きな防護服を持ってきた。それは昔ながらのもので、ちょっとボロいけど、耐性はしっかりしているらしい。


「これもやる。使え」

「え、これ……おっちゃんの?」

「そうだよ」

「……くさそーだな」

「ウルセェ! 失礼なやつだな!」


二人で笑い合った後、私は鍵と防護服をしっかりと受け取った。

「でも、ありがとうな、おっちゃん。本当にありがとう」

「お前が帰ってきたら、また星の話でもしてくれよな」

「本物の...なっ、約束だ!」


おっちゃんと固い握手を交わして、私はシェルターを抜け出す決意を固めた。警備員に成りすまし この古びた鍵でシェルターの扉を開ける。そして本物の空、本物の星を見に行くんだ。


おつかいの途中で私は荷物を置きっぱなしにして 地下シェルターの出入り口へ向かっていた。夢に一歩近づくには今しかない、急がないと。


一方、その様子をタバコ屋のおっちゃんは遠目からじっと見ていた。

「あいつ、ちゃんとやれるのか……」

そんなことを呟きながら、心配そうに後を追いかけてきたのだ。


更衣室に忍び込んだ私は、周囲を確認しながら慎重に防護服に着替える。手に取るときから、いやな予感はしていたけれど、いざヘルメットをかぶった瞬間——

「え゛ッ!やっぱりタバコぐぜぇ!!」

思わず えずいてしまった。これ、ちゃんと洗ってるのかよ! おっちゃん...頼むよ......


気を取り直して、出入り口の管理口へ向かう。まずはここを突破しなきゃ外には出られない。でも、職員のフリって難しいな。どうすればそれっぽく見えるんだ?

「あんた、社員証は?」

きた、最悪の質問! そんなの持ってるわけないじゃないか!

「……」

沈黙している私を怪しんだ管理人が、ヘルメットに手を伸ばしてきた。ヤバい、バレる!と思ったその時——

「てめぇ、コラァッ!」

背後からおっちゃんが管理人に飛びかかった。


「こんなとこでくたばってんじゃねぇ!」

突然のことに管理人が叫ぶ。「警備員!警備員!!」


ヤバいヤバい!!警報が鳴った。警備員たちが駆け寄ってくる音が聞こえる。

「ありがとう、おっちゃん!!」

管理人を押さえ込みながらグッドサインを出すおっちゃんを横目に、私は急いで管理口を突破した。


「ガチャガチャ!」

スペアキーを鍵穴に差し込んで扉を開ける。そこから漏れ出す冷気が防護服越しにも伝わってくる。これが外の世界?あまりの冷たさに、思わずたじろいだ。


「外の現実を知ったら、夢は追えなくなるぞ」


確かにこれ、普通にやばい。でも……!


そう思ってる間に背後で怒号が響いた。警備員たちが一斉に駆け込んでくる!

「おい、待てぇ!」

やばい、考えてる暇はない!


ドアを閉める間際に警備員が飛び込もうとしたけど、間一髪。ドア越しに激突する音が聞こえた。私は冷気に震えながら、暗い外の通路へ走り出した。


「逃げなきゃ、まずは撒かないと……!」

心臓の音が聞こえる。冷気で頬が痛い。でもこれが外に一歩踏み出すってことだ。私の夢はただの夢じゃない。掴むには命を賭ける覚悟が必要だってことだ。


私はシェルターを振り返ることなく、警備員の追撃から身を隠し、凍えた地獄を歩いていく。

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