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第8話:合流

「浮き上がってこないみたいだね」

「ワイの箱も解除しとる。水責めの真っ最中やで」

「最悪、湖底を進んで戻ってくるかもと思ったけど。これなら大丈夫そうだ」

「監禁溺死コンボは有効っちゅうことやな」


 異形鴉が沈みきり、しばらく反応がないことを見届けて、フユ雷雨ライウは頷き合った。

 足を当初の目的地へ向け直し、再び踏み出そうとする。

 まさにその時、目指そうとしていた進行方向の先、木々に隠れた奥所から黒煙が噴き上がってきた。

 このタイミングでの異変が意味することを、二人は同時に理解し走り出す。


「チィッ、のんびりしすぎよったわ! ワイらが襲われとるなら、あっちもそうなとっておかしないっちゅうに」

「あの煙、燃えてるのか。太砂タイサ君達のところへ急ごう」

枝和エダワの坊ちゃんはガチガチに固まっとるし、猫山ネコヤマも付いとるから、そう簡単にはやられへん筈やが」


 雷雨が先導して、緩やかに傾斜する道を上っていく。

 途中に何戸も民家はあるが、玄関も窓も閉め切られ、カーテンが降りており、中の様子は窺えない。

 人の気配はするものの耳目を閉ざし、外界の一切を拒絶しているようでもあった。

 島民の家が一つ燃えているにも関わらず、騒ぎもなければ野次馬さえ皆無というのは異常である。真夜中で誰もが寝静まっているわけでもない。

 集落全体が静まり返り、息を殺して身を潜め、厄介事が過ぎ去るのを待っている。そんな印象を冬は覚えた。

 意図的に無視を決めこんでいると。


「太砂君が居るのは島の奥?」

「集落からは離れとる。たまたま其処に住んどるのか、村八分にされとるでかは分からへん」


 家屋の集まりを通り過ぎ、徐々に勾配が角度を増していく傾斜道。

 人工物の連なりが木々の並びへ移り変わっていく上り坂を駆け上がり、二人は黒煙へと邁進する。

 ほどなくして開けた空間に建つ一軒家へと辿り着いた。

 しかしその家は壁や屋根のあちこちに炎が宿り、多数の火の粉を散らしながら、じわじわと燃え上がりつつある。

 未だ大炎上と呼べるまでの勢いはないが、時間の問題だろうことは誰の目にも明らかだ。


「周囲に敵の姿や気配はないよ。とはいえこれじゃあ……」

「おい猫山、無事かいな! 坊ちゃんはどうや!」


 炎へ染められた家を目の当たりにし、冬は難しい顔を作った。

 衝撃を受けながらも警戒の目を素早く走らせ、周りの状況も確認していく。

 雷雨はまず大声で呼びかけた。

 しばしの沈黙。その後、燃えゆく家とは反対方向の林から返事がある。


「あ、風奥フオウさん、お帰りなさい。枝和エダワさんも、私も無事です」


 黒い前髪が長く、目元の隠れている女性が、木々の合間から姿を現した。

 猫山ネコヤマ美也子ミヤコ。年齢は20歳前後で小柄。前髪に隠れて顔はよく見えない。

 ベージュ色のジャージで上下を揃え、アクセサリーの類はなし。靴も地味な色合いで履き古されたものだ。

 全体的に印象へ残り辛い、影の薄い雰囲気をまとう。


「おー無事やったか! 家が燃えとるさかい焦ったで」

「あの、鴉の怪物にいきなり襲われて。何体もいて、それで。啓示で撃退はしたんですが」

「戦いのドサクサで火ぃつけられたんか」

「あ、はい。急いで枝和さんを外に運んで、隠れてました」


 小さな声で、自信なさげに、俯き加減で喋る。

 おどおどとして、怯えを伴う姿は小動物のよう。

 根明でやかましい雷雨とは対照的だった。


「雷雨、太砂君も外に居るなら、まずは延焼を防ごう。周りへ燃え広がるとまずい。キミの啓示なら内外を隔てられるだろ?」

「せやな。ほな、箱を使うで」


 冬の提案に理解の頷きを送り、雷雨は燃える家屋へと右手を伸ばす。

 そこから狙い定めて、指同士を打ち鳴らした。

 啓示の発動によって半透明の障壁が箱型へ形成され、家を一軒丸々囲んでみせる。

 障壁の内側で炎は暴れるが、異能の蔽いに阻まれて外へは出られない。


「よっしゃ、これでええやろ。後はこのまま箱を続けたる」

「障壁内の酸素が燃焼で尽きれば消える筈だから、しばらく頼むよ」

「任しとき」


 雷雨に火災の対処を託した後、冬は美也子へと向き直った。

 初対面の相手へ柔らかく笑いかけるが、美也子は一瞬ビクリと身を震わせてから、おずおずと頭を下げる。


「猫山さんだったよね。僕は霧江冬。この護衛任務に選ばれた一人だ。よろしく」

「あ、はい。猫山美也子です。よ、よろしくお願いします」

「それで僕達の護衛対象、枝和太砂君は何処に?」

「あの、すぐ近くです。こちらなので」

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